想夜残月
蒼い蒼い夜の支配者
闇に溶け、月の冠を戴く【我らが】王
星屑を抱く瞳を見てはいけないよ
底知れぬ闇と光に只人は魅入られてしまうから
蒼い蒼い静かな夜は
そっと耳を澄ましてごらん
夜告鳥の静かな歌が深い眠りに誘うだろう
夜告鳥は王の夜の御姿
優しき王は無辜の民が魅入られぬよう
歌を以て皆の瞳を閉ざしてしまわれる
おお、慈悲深き王よ
敬愛なる【常世の眷属どもの】陛下よ
何故
ああ、何故ーー
ーー貴方は人の子に興味を抱いた
それは王の歌でも眠らない稀有な人
美しい声で囀る小夜啼鳥のような娘
娘は孤独な王の心を癒し、王もまた娘の孤独に寄り添った
二人が互いを想い合うまで、そう時間はかからなかった
決して誰からも祝福される関係ではなかったけれど
それでもこの世の幸せを歌うような、笑顔の絶えない時間が過ぎる
この時がずっと続くと思っていた
ずっと続いてほしいと願っていた
いつの間にか
しかし願いは所詮、願いでしかなかった
祈りが届かないように、願うだけでは叶わない
彼我の隔たりは太陽と月の如く
やがて姿を変えていった娘の変化を、我らは当然の如く受け入れた
姿は変われどもその魂が不滅であることを知っているから
常世は不変
我らは永遠
『終わり』の先の『始まり』を知っているからこそ
人の子の生の儚さに思い至らなかった
娘は
風が止むように
水が淀むように
土が砂へ変わるようにそこからいなくなった
王の想いも願いさえも断つように
その時から、王は王ではなくなったのだろう
安息が連れてくる希望を否定して
夜が呼び寄せる月に支配され
幸福をなくした闇を肯定した
【王】は
美しかった翼を羽撃かせ、無意味な停滞と回帰を繰り返す
【摂理の守護者】は【破戒者】となり果て――
――とうとう世界は壊れてしまった
いつしか月は沈まなくなり
夜告鳥の静かな歌は聞こえなくなった
夜は窓を開けてはいけないよ
堕ちた王が夜風と共にやって来る
眠ることをしなくなった民は
王の瞳に魅入られて
次から次へと夜の闇に消えていく
王は今でも探しているのだ
愛した人の魂を
愛した人と同じ血を・・・