残光のスペクトル
希望などこの世のどこにも在りはしない
真っ暗な部屋に蹲って
“誰もいない”と泣く君は
ただ、ただ孤独を嘆くばかりで
窓から差し込む月光を
濡れた瞳で見つめていた
暗闇から見える光は綺麗かい?
蒼と、白と黒の織り成す夜光の世界
君の瞳に映る光は、黒白よりも少し多い
手を伸ばしたその向こうに
一体何を求めているの
それは僕にも見えるもの?
月の光は明るいけれど
夜は暗くて何も見えない
朝の来ないこの世界で
闇に沈みゆく僕の世界で
唯一、君だけがはっきり見える
ああ、美しい人
懐かしい面影が脳裏に蘇る
もう、どんな姿だったか思い出せない昔
僕は君を好きになった
理由は知らない
とにかく君はとても変で、僕をまっすぐ見つめて微笑んだ
みんなが見ようともしない忌まわしいこの瞳を
夜空の宝石みたいだと言って
からかっているのか
内から炙る怒りに任せ
僕は君の手をとった
刹那、見開かれた瞳を見逃すはずなく
怖いのだろうか
問えば違うと首を振る
“誰も触れない汚れた私を、あなたはてらいもなく触れる”
訳がわからないまま理解した
君の孤独、僕の孤独
それから長く共にいたけど
分からなかった
だって
君はこんなに綺麗なのに?
困ったように笑う顔が愛しくて
もっと見たいと思ってしまった
これから先も、その先も
君との未来を想う気持ちが
明日を望むこの気持ちが
幸せというものなのだろうか
けれど
君は突然いなくなった
何処へ、何処へ行った
君がいない未来なんて意味がない
この夜が明ける前に見つけよう
君が
君がいないならーー
明日なんて来なくていいよ
あれから随分、君を探し飛び回った
ようやく、ようやく会えた
君は姿を変えてそこにいる
それでも変わらぬ美しさ
開け放たれた窓の側、白い指が僕を掬う
“あなたがいた”
輝くような君の瞳を、僕は生涯忘れない
そして月の明かりが滲む夜
君は誰にも告げず旅に出た
楽しいばかりの旅ではなかった
時に打たれ、踏みにじられ
上手くいかず、裏切られ
けれど同じくらいの優しさをもらった
君は
この旅ですっかり強くなったね
僕が共にいなくても
もう独りを嘆くこともない
人の輪の中で笑う君は
とても綺麗だ
胸の真ん中が暖かいもので満たされていく
ああ、これが・・・
この気持ちが
ーー幸せというものなんだね
光をなくした世界には
同じく希望もありはしない
霞む光のその先で
月は今でも真上に在るか
きらり、きらりと流れ落ちる
君の輪郭をなぞる光が
何だか無性に欲しくなった
ああ、今夜も月が綺麗だね