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針の進む音がする

とても不思議な、耳を塞いでも聞こえる小さな音

君と過ごすこの静かな部屋で

何気ない日常の中で

それは特によく響く

二人分の針の音

穏やかな日差しの差す部屋の中

統一された色のカーテンが微かに揺れる

白く白く、どこまでも無垢なその輝きは時として

残酷なほどに美しく

現実リアルを僕に突きつける

片方の針の音は日に日に弱くなっていく


ありきたりな恋歌い

虚構と妄想、少しの希望を詰め込んで

僕は今日も歌うんだ

“君と一緒ならどこへでも行ける”

嘘じゃないさ

君のためならたとえ異世界だろうと連れて見せよう

そんな大言壮語、裏の裏は

ほんとは怖くて、怖くて仕方ないんだ

君の笑顔が翳るたび、何かが手のひら零れてゆく

“笑っていてよ”

お願いだから

けれど君が辛いのならば、いっそ二人で終焉おわりを迎えようか

誰も知らない世界の果てで

ナイフは銀色、月の光を浴びて煌めき

君は僕の

僕は君の心臓を一突きにして

二人で同じ色に染まったならば

共に黄泉路を往けるだろうか

辛いことも悲しいことも、そうしてひとつに溶けてしまえば僕が背負ってあげるのに

なんて、ひどい独善エゴだろう

自分が一番解っている

けれど、だからこそ僕は伝えるんだ

“一人になんてしないよ”

それが僕の真実だから

だから、君がそうと望むのならば

いつまでだって歌い続けよう

何回だって言ってあげるさ

“ずっと愛してる”

愛しているよ、僕の君

永久に共にはいられなくても

最期の時まで側にいよう

『約束だからね』とはにかむ君と

小指を絡ませ宣誓する

“死が二人を別つまで”


どこにでもいる唄うたい

嘘と真実、多くの想いを詰め込んで

彼は今日も歌っている

“愛しい君へ”

二人の過ごす静かな部屋に

穏やかな風が吹き抜ける

針の音はいつの間にか消えていた

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