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あき
連作の第三弾
在りし日の記憶を手繰り寄せ
辿り着いた……
そこは斜面に寄り添うようにして佇む街
石造りの欄干に座り
彼は夕日に映える街並みを眺めていた
行き交う人々の足並みは一様に速く、それぞれの家路を急ぐ
彼らは帰ってゆくのだ
自らの居るべき場所、支えるべき家族の元へ
彼は独り
夜気の混じり始めた秋風に吹かれ、眩しそうに眺める
そして彼らが帰る暖かい家を想い
不意に沸き上がる懐かしい気持ち
かつて自分も彼らと同じように帰っていたこと
帰るべき家、支えるべき家族がいたこと
すべては遠い過去の出来事だけれど
今も鮮やかに甦る、楽しかった思い出
家族の笑顔
もう取り戻すことはできないけれど
過ごした時間は永遠に消えない
この街に、瞼の裏に、しっかりと刻み込まれているから
彼は願う
他の誰かが同じ悲しみを背負わないように
鮮やかな橙色の空の下、欄干の上に座り
鳴り響く鐘の音を聞きながら……