雨
表があれば裏もあると、誰かは言った
じゃあ、表がなければ裏もないのだろうか
何気なく放たれた言葉
皆がその人を嘲笑う
その人は少し残念そうに肩を竦めただけだった
けれど
けれど私は
――そう言ったその人を、嗤うことができなかった……
アスファルトで覆われた大地に、ぽつりぽつりと黒い染みが広がる
喜びも悲しみも
すべてを覆い隠すような分厚い雲から雫がひとつ
頬に落ちて、流れた
降りしきる雨の中、頬を打つ雫は
自分の裏にいる誰かの流せなかった涙の代わりなのだという
ならば私を打つこの雫は――
一体誰の涙でしょうか
それはあなたの涙でしょうか
私の裏にいるかもしれないあなた
私ができなかったことをやってのけたあなた
あなたが言った
“表がなければ裏もないのだろうか”
その問に答えを出すことはできなかった
表があれば裏はできる
裏がなければ表は存在できない
どちらが表であっても
どちらが裏であっても
どちらかの不幸を糧に幸せは成り立っている
この悲しみは永遠
けれど今、私は恵まれている
この喜びは刹那
ー手放したくないと思ってしまった
嗚呼なんて、なんてあさましい
嫌いなのに、悲しいほど変えようもない本性
願わくば
この想いが雫となりませんように
どうか、どうか
あなたに届く雫は美しいものでありますように
本当は表も裏もないかも知れませんが、あえてその二つに分けました。