表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

序章 接触ーcontactー:

ゆらゆらとぼんやりとした黒い波のようなものが見える。


夢を見ているのか。

現実味を帯ない光景の前に、いたって冷静だった。


そしてすっと、瞼を閉じた。

ビルから崩れる瓦礫。土煙が視界を侵し、炎炎と燃ゆる火の中からは止めどないほどの悲鳴が聞こえる。

五感全てが支配するこの災害、経験もしたことがない。

意識がゆったりと遠のいていく。


何が起きているかは、はっきりとは分からない。

なぜ自分がアスファルトに這っているのかすらも、もう覚えてはいないのだ。

ありとあらゆる部位からずきりとした痛みが身体中を駆け巡る。それだけが唯一、意識を保つための糸になっている。

ただ遠方の方から聞こえる救急車の音。こっちに近づくこともなく、ただ迎えに来ることのない助けをひたすら待つだけだった。


かろうじて動く、指を見つめながら確かに生きていることを実感する。

しかし張り詰めた緊張感がより体を強張らせる。

できる限り周囲を見渡すが、やはり数m先の光景を見ることはできない。

ただそばの物陰で意識を失っている妹を尻目に、視線を前に向けると瞳の奥に陰りのある少女が佇んでいた。

まるで目の前の光景を儚く思うように。


ただこの悲惨な光景を一瞥し、唇を紡ぐ。


「──────」

少女は問いかける。


周囲の轟音にかき消され、ほとんどが聞こえない。

それでも言葉の輪郭だけがかろうじて耳に届く。


腹部の痛みに耐えながら、少女に向かい放つ。


「…そんなことない。生きるんだよ」


考えるより先に、そう口にしていた。

重い腰、体の節々が痛むがそれを押し殺して続ける。


酷く悲しい顔をしている。

それでも彼女の口は紡いだままで、何かこちらに伝えてくれる様子もない。


「言いなよ。…助けて、って」


少女は静かに首を横に振る。

否定することが、と言うよりも誰にも肯定をされなかった。

そんな悲しいことがあって良いのだろうか。

だが少女は怯えていた、まるで何かを恐れているように。


もう後ろには誰もいない。

縛り上げるものはない。


「だったら…」


そういって前に手を差し出す。

だが、この小っぽけな体では彼女には届かない。


目の前なのに。

すごく遠く、ただ、遠く感じる。


「─────」

涙を流していた。

救えなかった、その時は惨憺たる状況を打破できない自分をひどく憎んだ。

何もできない自分が悔しくてたまらない。


彼女が吹きおこる粉塵に包まれ姿を消す。

そうして瞼が暗黒に誘い、意識がぷつりと切れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ