【超超短編小説】Boys go East
オフピークの快適な電車が地味な駅に入線してドアが開いた時だった。
「落としましたよ」
サラリーマン風の男が座席から立ち上がって床に落ちていた何かを拾って声をかけた。
しかし何かを落としたまま電車を降りた女子高生はヘッドホンをしていてまったく気づいた様子は無い。
ホームのベルが鳴り響く。
俺を含む数人の乗客が事の行方を見ていたが、サラリーマン風の男は電車を降りて女子高生を追うか逡巡した後に、その何かを床に戻して座席を振り向いた。
ドアが閉まり、電車は発進した。
俺たちもサラリーマン風が元いた場所に視線を戻す。
しかし、その座席にはすでに事務職風の女がすまし顔で着座していた。
スマートフォンを凝視している。
絶対に顔を上げないと言う意思表示だ。
元々座っていたサラリーマン風を絶対に気にかけない、申し訳無さなど洗っていない大陰唇についた恥垢のかけらほど持ち合わせていない態度が見てとれた。
俺は急に生きているのが厭になった。
女に親切にしたところで何もいい事がなかったのを思い出したのだ。
髪にテープ塵を付着させた女も、パン屋から出て三歩で惣菜パンを落とした女も、生きとし生ける全ての女は不愉快だった。
俺は両傍に座っているのが女である事も不愉快になり立ち上がった。
世界はクソだ。世界の半分はクソで構成されているからな。
その瞬間だった。
隣に女が座っている男たちは一斉に立ち上がり、吊り革に捕まって立つ男たちは隣の女を車窓から一斉に投げ飛ばした。
それに驚いて立ち上がった女たちを、おれたち男は車窓から投げ飛ばした。
そうして電車は男たちだけになった。
世界のクソさは多少マシになった。
俺たちはサラリーマン風の男を労い、安堵して座席に腰を下ろし、快適な車内を味わった。
電車はゆっくりと右に曲がっていく。
その先には次の駅がある。俺は立ち上がり、降りる準備を整えた。
「落としましたよ」
現場労働者風の男が俺に声をかける。
俺は礼を言って落とした何かを受け取り、そうして駅そばの匂いがする駅舎に降り立った。
世界は素晴らしい。半分は思いやりで出来ている。
俺は駅そば屋に入り、春菊天を頼んだ。
無口な男が作る駅そばは黒く、しょっぱい味がした。だがそれが素晴らしいのだ。




