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雨の贄  作者: 堀江さかな
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出逢い

わがままで自己中な思春期少女を書きたいです。初投稿なので拙い点多々あると思いますが、どうか読んでいただければ幸いです。

激しく雨が降っていた。

地面に、壁に、屋根にたたきつけられて雨粒が弾ける音が頭の中に絶え間なく流れ込んできて、貧血と冷えでだんだんと意識が遠のいていくのを感じた。

風に乗った雨が顔に叩きつけて、目の前もぼやけていく。

そんなとき、雨の間を縫って、酷く線の細い凛とした声が聞こえた。


「ねぇ、貴方、生きてる?」


声は頭上からだった。顔を上げると良い生地の服を身にまとった上品な少女と目が合った。傘を持ちこちらを見下ろしている。長い黒髪がキメ細やかにサラリと揺れてそこだけ別の世界かのようだった。服装からして名家の令嬢といったところだろうか。口角は緩く上がっており、微笑んでいるのに目の奥は笑っていない。そんな印象だ。俺と目が合って俺の生存を確認した為か女は更に目を細めて、


「生きてるのね。どうしてこんなゴミ捨て場で寝てるの?」


か細く鈴を鳴らすような声だ。けれど、激しい雨音の中でも一音1音はっきりと聞き取れた。

生ゴミの腐臭、土の匂い、雨の匂い。それに混じって甘ったるい香水が僅かに香った。


(どうして…どうして…どうして、だっけ)


強く頭を殴られた気がする。

抵抗するまもなくボコボコに殴られて、それで意識をなくして、ここで起きたんだ。

…なんだ、思い返せばいつも通りことじゃないかじゃないか。今日はたまたま雨が降っていただけ


「…帰るところが、ないから」


喉から出た声は情けなくかすれて、口からは血の味がした。


「…そう。ねぇ、貴方は今誰のものでも無いの?」


女が屈んで目線を合わせてきた。その目には先程はなかった光が宿っていて、まるで希望を見つけた小さい子供みたいだった。

初めてされた質問に戸惑い答えられないでいると、女は弾んだ声で言う。


「誰のものでも無いなら私のものになってよ。」


まるで突拍子もないことを言われて理解ができない。変わらず雨音はひゅうごうと激しく音を立てている。


「貴方、名前は?」


「…『 』」


「へぇ、そう」


「可愛くない名前ね」


気持ちばかり考える素振りを見せた後、キッパリとそう言い捨てる。


「そうだわ!『フレディ』なんてどう?可愛い名前だと思わない?」


返事をしない間に女は自らの中で勝手に結論を出したらしい。どうやら沈黙は肯定だと捉えられたようだ。あるいは、こちらの意見何ぞ最初から聞く気がなかったのかもしれない。


「これからよろしくねフレディ。早く立って、私についてきて」


血だらけ泥だらけの俺の様子など気にする素振りも見せず明るくはしゃぎながら歩き出す。ぴちゃぴちゃと足音がリズミカルに鳴っていた。

ふらつく足で、ぼやける視界で、何とか立ち上がった。立ち上がると、顔に乗った雨粒がぼとぼと落ちて、血と一緒に地面で弾けた。


少女は少し先で上機嫌にこちらを見ている。

俺が追いつくのを待っているんだろう。

何ひとつ分からない。この女の素性も、どうしてこうなったのかも。

けれど、これまでの生に執着は抱けなかったし、何か変わるかもしれないと思った。血の抜けた頭では、冷静な思考などする気になれなかった。

薄汚れた靴で1歩、また1歩と彼女に近づく。

雨は、いつにも増して激しく降り続けている。

雨粒は当たっては弾け、弾けは当たって、まるで今までの人生を洗い流すようだった。

傘を差し出されたことなんて無い。傘に入れて貰えたことも当然無い。


でも今初めて、手を握られて、手を引かれた。


雨で冷えきった手では、あまり感触は分からなかった。

そんな「出逢い」。




続きます

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