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滅びの竜と祈りの唄  作者: 彩月鳴
魔の胎動 -The Andante-

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第三十話:見えない鎖 -The Invisible Chain-

肺が焼けるほど走った。

ラビは村の広場の片隅、古びた井戸の縁にへたり込むと、胸を押さえて乱れる呼吸を整える。

滲む涙を袖で乱暴に拭っても、不安は消えてくれない。


「……仲間、か」

彼女はマールスの言葉を反芻し、ポツリと呟いた。

その響きは甘美で、温かい。けれど今の彼女にとっては、あまりに眩しすぎて、逆に心の闇を濃くするだけだった。


「お爺ちゃんは、ああ言ってくれたけど……」

ラビは自分の小さな手のひらをじっと見つめ、自嘲気味に唇を歪める。

「私に仲間が必要でも……仲間は、こんな『出来損ない』の私なんて……必要としないよ、きっと……」


誰かに必要とされたい。けれど、自分にはその価値がない。

彼女の心は、その矛盾した寂しさで押しつぶされそうだった。




その時。

静かな村の空気が、ゾロゾロと侵入してきた異質な足音によって掻き乱された。


現れたのは、剣や槍で武装した十人ほどの男たち。

身なりこそ冒険者のそれだが、漂う空気は荒々しく、その目つきは獲物を探す狩人のように鋭い。


「……ここ、か?」

先頭に立つ男が、値踏みするように見回して呟いた。

農作業をしていた村人の一人が、隠しきれない警戒心を抱きつつも、恐る恐る近づいて尋ねる。

「あ、あの……冒険者の方々、ですか?こんな何もない村に、何か?」


すると、男はスッと表情を変えた。

「いやぁ、驚かせてすまないね。実は、ここに『高名な魔導士』が住んでおられると聞いてな」

男は唇の端を吊り上げ、張り付けたような穏やかな笑みを作った。


「そのお方に、ぜひ力を貸していただこうと……こうして、はるばるやってきたんだが」

丁寧な口調とは裏腹に、彼の目は笑っていない。


「あぁ!マールス様のことですか!えぇ、あの方は村の誇りですよ!」

村人は警戒を解き、誇らしげに顔を綻ばせた。彼は親切心から、二人が住む家の方角を丁寧に指差してしまう。

「あの方なら、村の外れにある家で、お孫さんと一緒に静かに暮らしていますよ」


「ほう……。村外れか」


「え?あぁ、ただ……かなりご高齢ですので、冒険者様のお力になれるかどうかは……」


言葉は、最後まで続かなかった。


「これはこれは、ご丁寧にどうも……!」


男は満面の笑みを深め、感謝の言葉を口にすると同時――無造作に腰の剣を抜き放った。


―ザンッ!!!


銀閃が走る。何のためらいもない、一息の斬撃。


「あ……?」


村人の視界が傾き、首から噴き出した鮮血が、平和な村の地面に赤い花を咲かせた。

どさりと崩れ落ちる音。それは、この村の平穏が終わりを告げる合図だった。



「……っ!!!」

鮮血の赤が目に焼き付き、ラビの全身が凍りついたように硬直する。遅れて響く悲鳴。怒号。 平和だった広場は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄へと変わった。


「魔導士の家はあっちだ!邪魔な村人は殺しても構わん、行くぞ!」

男が冷徹な声で号令をかけると、他の男たちが散開し、逃げ惑う村人たちへと襲いかかる。



「……っ!お爺ちゃん!」

ラビは弾かれたように立ち上がり、家の方角へ駆け出そうとする。

その視界の端、転んだ村の子供に、男の剣が振り下ろされる瞬間が映り込んだ。


「――ダメッ!!」

思考するよりも速く、身体が動いた。

彼女は震える手をかざし、極限の集中力で魔力を練る。


「フリーズ・ヴェロックス!!」


刹那、 彼女の掌から、研ぎ澄まされた刃のような無数の氷のつぶてが、暴風となって放たれた。


―ドシュシュシュッ!!


「が、ぁ……!?」

氷の刃は目にも止まらぬ速さで男の身体に突き刺さり、その半身を一瞬で凍結させる。

剣を振るう姿勢のまま、男は氷の彫像のように崩れ落ちた。


「は、早く逃げて!!」

ラビは腰を抜かした子供に叫ぶと、再び背を向ける。

後ろ髪を引かれる思いを振り切り、彼女は村の中を、ただ一人、マールスの待つ家へと死に物狂いで走り出した。





辿り着いた我が家は、見るも無惨な姿だった。

玄関の扉は荒々しく蹴破られ、蝶番が外れて斜めに傾いている。それは、暴力という名の侵入者が、既に土足で踏み込んだことの動かぬ証拠だった。


「はぁ、はぁ……っ、うぅ……」


ラビは壁に手をつき、激しく上下する肩で息をする。

すぐにでも飛び込みたかった。だが、足が鉛のように重く、言うことを聞かない。

ここへ来る道中、逃げ遅れた村人たちを見過ごすことができず、残りの魔力を振り絞って魔法を放ち続けた代償だ。


――倒れるわけには、いかない……!


視界がチカチカと明滅し、意識が遠のきそうになる。それでも、彼女は唇を噛み締め、震える膝を動かした。


「お爺ちゃん……」

彼女は揺らぐ瞳に決死の光を宿すと、静まり返った闇の奥へと、音もなく足を踏み入れた。




家の中は、不自然なほど静寂に包まれていた。

ただ、奥にあるマールスの寝室からだけ、男たちの話し声が漏れ聞こえてくる。


ラビは荒くなる呼吸を必死に押し殺し、足音を立てないよう壁に背を預け、少しだけ開いた扉の隙間から中を覗き込んだ。


「……この男か?」

「あぁ。村人も言っていた。間違いないだろう」


部屋の中には、剣呑な空気を纏った数人の男たち。

彼らはベッドに座るマールスを取り囲み、獲物を追い詰めた狩人のような目で見下ろしている。

だが、囲まれているはずの老人は、微塵も動じる様子を見せない。


「……お前たち」

マールスは静かに顔を上げ、しわがれた、しかし凛とした声で問いかけた。

「こんな老いぼれに、なんの用じゃ……」

その瞳には恐怖ではなく、理不尽な暴力に対する静かな怒りと、何かを悟ったような色が宿っていた。



「ここに、すこぶる魔法の才に長けた魔導士がいると噂を聞きましてね……。『マールス』さんと仰いましたか」

リーダー格の男が、嘲るような薄ら笑いを浮かべて淡々と告げた。

「我々は、その強大な魔力に少しばかり『力添え』を願いたく、こうしてはるばるやってきたわけですよ」


「ふん。どこでそんな与太話を拾ってきたのやら」

マールスは鼻を鳴らし、面倒くさそうに手を振ってあしらう。

「買いかぶりもいいところじゃ。わしはそこらにいる魔導士と大して変わらぬ、ただの老いぼれじゃよ」


「はぐらかしても無駄ですよ」

男は一歩踏み出し、確信を込めて言った。

「調べはついているんです。『四行八門』のいくつかと……選ばれし者しか扱えない『光』の魔法までも行使できることはね」


「……ッ」


それは紛れもなく、ラビの才能のことだ。だがマールスは、ハッとした表情を一瞬で見事に隠し、あえてそれを肯定も否定もしなかった。


「……買いかぶりだと言ったはずじゃ」

彼は自身の動かない脚を叩き、深いため息をついて見せる。


「仮に……百歩譲って、過去にそんな才があったとしよう。だが、見ての通り今のわしは病み、老いぼれた。明日をも知れぬこの身体では、お前さんたちの役になど立たんよ」

彼は枯れ木のような腕を見せつけて言った。

「すまないが……お引き取り願おうか」



「……役に立つか立たないか。それを決めるのはご老体、貴方じゃありませんよ」

男の声は、氷のように冷たく、そして絶対的な命令の色を帯びていた。

苛立ちを滲ませ、彼は一歩踏み出す。

「とにかく、これ以上の問答は無用です。……大人しく、我々と一緒に来ていただきましょうか」


その時だった。 マールスの視線が、わずかに開いた扉の隙間――そこで震えているラビの瞳と交錯した。


――……ッ!


マールスは息をのむ。なぜここにいる。彼はラビに向け、瞬き一つで強烈な眼差しを送った。


『見るな。構うな。……今すぐ、逃げろ』


それは、命を賭した無音の言葉。 だが――。


「おっと……。余所見とは感心しませんね」

男のその微かな動きに気づく。

彼はマールスの逃走経路を遮るように、ヌッとその前に立ちはだかる。 視界が遮断され、ラビとの繋がりが無情にも絶たれた。


「怪しい動きはしないでいただきたい。……抵抗するなら、こちらも考えがありますよ?」

男は懐から、禍々しく輝く『赤黒い玉』を取り出した。



男は薄ら笑いを浮かべたまま、その赤黒い玉を静かに、マールスの目の前に掲げた。

すると玉の表面がドロリと脈打ち、そこから悪意を煮詰めたような、禍々しい赤黒い煙が立ち昇る。


「な……っ!?」

煙は生き物のようにうねると、マールスの体内へ、拒絶する間もなく強制的に雪崩れ込んでいった。

内臓を、血管を、魔力を、異物が蹂躙していく。


―ドクンッ!!!


その瞬間。老いた身体が、内側から破裂せんばかりに大きく跳ねた。

それは心臓の鼓動ではない。全身そのものが悲鳴を上げたような、およそ人体から響いてはならない異質な破裂音だった。


「ぐ……が、あああぁぁぁぁぁっ……!!!」


喉が裂けるほどの絶叫。

常に穏やかだった老練な魔導士としての矜持は、耐え難い激痛によって瞬時に粉砕された。

彼は背を海老反らせ、苦痛に白目を剥き、ただ獣のようにのたうち回った。



「お爺ちゃんっ!!」

恐怖も、疲労も、隠れていた理性も、すべてが吹き飛んだ。

ラビは悲痛な叫びとともに、部屋へと飛び込む。彼女はのたうち回るマールスの体に覆いかぶさり、必死の力で抱きしめた。


「な、なんだこの小娘は!どこから湧いて出た!」

玉を持った男が、不意の乱入者に驚愕し、たじろぐ。

「ちっ……。そういえばさっきの村人が、孫と暮らしてるとかなんとか言っていたな……。こいつか」


「その女に用はない!すぐに始末しろ!」

背後から、別の男が冷酷に吐き捨てる。

慈悲などない。彼らにとって、少女の命など路傍の石より軽い。


「分かっている……!」

男は一瞬のためらいもなく、血に濡れた剣を振り上げた。

狙うは、養父を庇ってうずくまる少女の華奢な背中。


「死ねッ!!」


無慈悲な刃が、ラビの身体を両断すべく、真っ直ぐに振り下ろされた。



―ガギィィンッ!!


鋼鉄と鋼鉄が激突する、甲高い衝撃音が部屋に響き渡った。


「え……?」


斬られたと思ったラビが、恐る恐る目を開ける。

そこには、死の軌道を一瞬の間に遮り、振り下ろされた凶刃を涼しい顔で受け止める、一人の青年の背中があった。


茶色の髪、端正な顔立ち。

まるで物語から飛び出してきたようなその青年は、ラビを背に庇い、凛とした声で言い放つ。


「……か弱い女性と老人を狙うとは。恥を知れ、この暴漢どもめ!」

彼は流れるような動作で男の剣を強く弾き返すと、間髪入れずに剣を構え直し、切っ先を突きつけた。


「ちっ、次から次へと……!」

剣を弾かれた男が、苛立ちに顔を歪める。

さらに、青年の動きに呼応するように、部屋の入り口に二つの影――派手な女と、巨漢の男が駆けつけた。


「ちっ、増援か!さすがにこの数相手では分が悪いか……!」

形成逆転を悟った男は、素早く舌打ちをする。

「ずらかるぞ!!」


「おっと、逃がすかよ!」

男は青年へ体当たりをかますと、そのまま躊躇なく窓へと突っ込んだ。


―ガシャアアアンッ!!


砕け散るガラス。侵入者たちは窓を突き破り、雪崩を打ってその場から逃げ出していった。




「……怪我はないかい?」

青年は剣を納めると、目を細め、優しくラビに手を差し出した。


「あ、は、はい……。ありがとう、ございます……」

ラビは反射的にその手を取る。

恐怖で力が抜けていた彼女にとって、その強く温かい手は、童話に登場する王子様のように頼もしく思えた。

「でも、どうして……」


「あぁ、僕たちがたまたまこの村の近くを通りがかった時に、暴漢が村を襲っているのが見えてね。……放っておけなくてすぐに駆けつけたのさ」

彼は爽やかに笑うと、入り口に立つ仲間たちに、「上手くいったな」と言わんばかりの目配せを送った。


「そう……だったんですね。お陰で助かりました……。本当に、ありがとうございました」

ラビは涙を拭い、深々と頭を下げる。

だが、その時。背後から苦しげな呻き声が聞こえた。


「……ぅ、ぐ……」


「っ……!お爺ちゃん!!」


ラビはハッと身を翻し、床に倒れ伏したままのマールスへと駆け寄った。

暴漢は去った。だが、植え付けられた「苦痛」は消えていない。


先程より落ち着いたようには見える。だが、その顔色は土気色で、脂汗が止まらない。


「……すぐに、治癒魔法を!」

ラビはマールスの体を抱きしめ、必死に己が内なる魔力を練り上げようとする。 だが――。



焦れば焦るほど、指先が冷えていく。

来る道中、村人を守るために魔法を連発した代償だ。彼女の小さな「器」は既に空っぽで、いくら搾り出そうとしても、癒やしの光は微塵も灯らない。


「嘘……そんな……。魔力が……」

肝心な時に、何もできない。

自身の無力さに絶望し、ラビの顔が蒼白になる。



「……ちょっと、僕に見せてくれ」

その一部始終を冷ややかに観察していた青年が、スッとラビの横にしゃがみ込んだ。

彼は親切を装いながらも、どこか値踏みするような手つきでマールスの脈を取り、瞼を裏返して瞳孔を確認する。



「……っ!これは……まさか……!」

青年はカッと目を見開き、驚愕の声を上げた。


「な、何か……分かったんですか?」

ラビがおずおずと尋ねると、彼は深刻そうに顔をしかめ、重々しく告げる。

「……間違いない。これは『命縛(めいばく)の呪法』だ!」


「めいばくの……呪法?」


「ああ。その名の通り、対象の命そのものを『楔』で縛り付ける、極めて悪質な呪いだ」

彼は静かに立ち上がると、怯えるラビを見下ろし、冷静に解説を続けた。

「この呪いを刻まれた者は、その生殺与奪の全てを『術者』に握られることになる」


「生殺与奪を……握られる……?」


「そうさ。つまり……じわじわと苦しめて生かすも、瞬時に殺すも、すべては術者の『気分次第』ってことだ……!」


「そ、そんなっ……!?」

あまりに残酷な事実に、ラビの顔が青ざめる。


「い、一体どうすれば……!お爺ちゃんを助ける方法は……!」

彼女は震える手で青年の袖を掴んだ。……まさに、蜘蛛の巣にかかった蝶のように。




「……落ち着いて聞いてくれ。この呪法は、術者を倒せば解けるといった単純なものじゃない」

青年は眉をひそめ、勿体ぶるように言葉を紡ぐ。


「これは古代のアーティファクト……『アルセル』を用いたものだ。それも、極めて悪質で、特殊な……ね」

彼は「厄介なことになった」と言わんばかりに、苦渋を滲ませて奥歯を噛み締めてみせた。

「解呪するには、その『対』になる……もう一つのアルセルが必要になるんだ」


「対になる……アルセル……?」

ラビにとっては、雲を掴むような話だ。だが、今はそれが唯一の希望の糸。

彼女は青年の服を掴み、涙ながらに問い詰める。

「そ、それは一体どこにあるんですか!?教えてください!」



「……残念ながら、その在り処までは僕にも分からない……」

彼は悔しげに俯き、一度言葉を切った。


しかし、彼はバッと顔を上げ、力強く告げる。

「ただ……まだ、可能性はある!」


「え……?」


「ここからはかなり遠いが、僕の知り合いに『腕利きの情報屋』がいるんだ。彼なら、この世界の裏側に精通している。解呪の『アルセル』についても、手がかりを持っているかもしれない!」


「本当、ですか……?」

涙目のラビが顔を上げる。彼は彼女に向き直り、スッと手を差し出した。

「……よかったら、君も僕たちと一緒に来ないか?」


「私が……一緒?」


「あぁ。どうやら……君は魔導士のようだね」

「これから向かうのは危険な旅路だが……君のような魔導士がいてくれれば、僕たちも非常に心強いんだ。……力を貸してくれないか?」



「で、でも……。私がいなくなると、お爺ちゃんが……!」

ラビは苦痛に呻くマールスに視線を落とし、悲痛な声を上げた。呪いに侵された養父を一人残していくなど、できるはずがない。


「なるほど……。それは確かに心配だな」

青年は一瞬、思案するように俯いてみせるが、すぐにパッと顔を上げ、彼女の懸念を打ち消す。

「だが、その心配はいらない!」


「え?」


「さすがに呪いそのものを解くことはできないが……僕の仲間のレティは、結界術のエキスパートなんだ」

彼は入り口で退屈そうに爪を弄っていた女、レティに視線を送る。

「彼女の結界の中には、そう簡単に悪人は侵入できないし……外部からの干渉を遮断することで、呪いの苦しみも一時的に和らげることができる」


「……ちっ。人使いが荒いわね」

レティは面倒くさそうに舌打ちしつつも、片手をマールスにかざした。

何やらブツブツと短い詠唱を紡ぐと、掌から淡い光が広がったかと思うと、スッと消えた。


「……よし。これで一安心だ」

彼が満足げに頷く。

恐る恐るラビが確認すると――奇跡が起きていた。

先程まで苦しんでいたマールスの呼吸が整い、嘘のように穏やかな表情で、すーすーと静かな寝息を立て始めたのだ。


「す、すごい……」

ラビは安らかな寝息を立てるマールスを見て、感嘆の声を漏らした。

本当に苦しみが消えている。この人たちは、本物だ。


「もちろん、この結界は永遠に続くわけじゃない。砂時計の砂は、今も落ち続けているんだ」

青年は優しく、しかし容赦なく現実を突きつける。

「心配なのは分かるが、彼の看病は村人に頼んで……君は一刻も早く、解呪の『アルセル』を見つけることを優先したほうがいい。……違うかい?」


「……っ」


「さぁ、行こう。君の大切な家族を、僕らと一緒に救うんだ!」

彼はそう言って、ラビの決意を促すように、再び手を差し出した。

それは、希望への招待状であり、逃れられない地獄への片道切符。


「……分かりました」

彼女はマールスの寝顔を目に焼き付けると、震える手で、その手を取った。

「あ、足手まといにならないように……頑張ります。だから、お爺ちゃんを助けてください……」


「あぁ。約束しよう」

青年は満足げに頷き、口角を吊り上げる。


「そういえば、自己紹介がまだだったね!僕の名前は『ナイン』だ!」

彼は大げさに胸に手を当てて名乗る。

「そして、あそこに立っているのが、仲間の『レオ』と『レティ』だ!」

紹介された二人は、無言で軽く会釈しただけだった。


「わ、私はラビです……。こ、これからどうぞ、よろしくお願いします!」

少女は緊張した面持ちで、これから同行する『仲間』たちに向け、深く、深く頭を下げた。



――それが、私の地獄のような旅の始まりでした。

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