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21 残された絆と新たな予感

AI(Gemini)利用作品【構想や要旨を作者が考え、それをもとにAIが肉付け、その後、作者が加筆修正を行って掲載しています。】

雨は、すべてを洗い流すわけではなかった。

 崩落した聖堂の瓦礫を叩く雨音は、湿った重低音となってカインの鼓膜を蹂躙する。鉄錆と、魔力の残滓と、そして死の臭い。五感が、つい数分前まで繰り広げられていた惨劇を克明に再現し、脳髄に突き立てる。


「……終わったのね」


低く、透き通った声。Sランク冒険者、ミサキだ。

 彼女は血に濡れた剣を鞘に収め、呆然と立ち尽くしていた。その隣では、新聞記者のベルが、激しい息を吐きながら膝をついている。


カインは、数メートル先の影に潜んでいた。全身の毛穴から血が吹き出すような疲労感。だが、それ以上に彼を苛んでいたのは、胸の奥で燻る冷たい静寂だった。


「ベル、怪我は……?」


「ああ。掠り傷だ。それより、あのマイケルとかいう野郎をどうやって仕留めたか、覚えてるか?」


ベルの問いに、ミサキが眉をひそめる。

 カインは息を止めた。心臓の鼓動が、早鐘のように打ち鳴らされる。

 来る。魔法の「代償」が、今この瞬間に確定する。


「……ええ。私の【疾風】で、奴の隙を突いた。でも……」


 ミサキの視線が、ふと、カインが隠れている闇の方を向いた。一瞬、心臓が跳ねる。だが、彼女の瞳に宿っているのは、敵意でもなければ、感謝でもなかった。

 そこにあるのは、ただの「虚無」だ。


「誰か、いたような気がするの。私たちに指示を出して、道を作ってくれた、誰かが」


「奇遇だな。僕もだ。ギフト【真偽】が告げている。僕たちの記憶には『穴』がある。だが、何を忘れたのかさえ、分からないんだ」


カインは、唇を噛み切りそうなほど強く結んだ。

 ――僕だ。ここにいる。君たちの絶望を5秒巻き戻して、その命を繋ぎ止めたのは、僕なんだ。

 叫びたい衝動を、鉄の味とともに飲み込む。

 魔法の呪いは残酷だった。大切な人の記憶から、カインという存在を根こそぎ奪い去る。今の彼は、彼らにとって「名前も知らない、通りすがりの冒険者」に過ぎない。カインはそっと、掌の中にあるものを見つめた。ミサキの「黒いペンダント」。


 決戦の最中、彼女の首元から千切れ飛んだそれを、彼は無意識に拾い上げていた。それは、彼女が悪夢の生存者であることを示す唯一の証であり、今はカインと彼女を繋ぐ、最後の糸だった。


「……ふん」


自嘲の笑みが漏れる。

 カインは音もなく立ち上がり、二人には背を向けて歩き出した。

 泥を跳ね上げる足音が、ひどく孤独に響く。

数時間後。冒険者ギルド「ミリアの受付窓口」は、深夜にもかかわらず騒然としていた。

 Sランクのミサキと、新進気鋭の記者ベルによる「悪夢」の幹部マイケル討伐の報は、瞬く間にギルドを駆け巡った。


「素晴らしいわ、ミサキさん! さすがSランクね!」


受付嬢のミリアが、興奮を隠せずに声を弾ませる。

 その後ろに、濡れたマントを深く被った男が並んでいることに、誰も気づかない。


「……ミリアさん。報酬はいらない。これの、素材鑑定だけ頼めるか」


低く抑えた声で、カインはカウンターに「マイケルの短剣」を置いた。

 ミリアは一瞬、不思議そうな顔をしてカインを見た。


「あら? あなた……ええと、確かCランクの……」


「カインだ。忘れたのか?」


「……カイン? ああ、そうね。どこかで聞いたような……ごめんなさい、今日は少し混乱していて」


ギルドの功労者であり、薬膳料理で宿屋を繁盛させた立役者であるはずの自分を、ミリアさえも認識しづらくなっている。因果のねじれは、彼の「物語」そのものを削り取っていた。


「……構わない。それと、もう一つ見てほしいものがある」


カインは短剣の横に、そっと「黒いペンダント」を並べた。

 短剣が放つ冷たい金属光沢とは対照的な、光を吸い込むような不吉な漆黒。

 それを見た瞬間、ミリアの表情が凍りついた。


「これ……どこで手に入れたの?」


「聖堂跡地だ。持ち主に返そうと思ったが、今は僕が持っていた方が良さそうだ」


カインがペンダントに手を伸ばし、握りしめたその時。

 ペンダントから、どろりとした漆黒の魔力が溢れ出し、カインの視界を塗り潰した。

(――見つけたぞ。最後の獲物)

脳内に直接響く、悍ましい嘲笑。

 ベルが予見していた「わざと残された生存者」という真実。

 カインは目を見開いた。

 ペンダントの裏側に刻まれていたのは、ミサキの名前ではない。

そこには、震えるような文字で、**『カイン』**と刻まれていた。

自分が忘れた過去。あるいは、自分がこれから歩むはずだった未来。

 記憶を失う代償の先にあったのは、再会ではなく、仕組まれた再会だった。


「……面白い」


カインは、闇に染まるペンダントを力任せに握り潰した。

 忘れられた英雄は、今、自ら進んで「悪夢」の深淵へと足を踏み入れる。

 孤独は、もはや恐怖ではない。

 誰にも知られず、誰にも邪魔されず、ただ復讐だけを完遂するための、最高の特等席だ。




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