99歳、青春を始めよう!!
さっきから何度考えてもわからない。
だって、わしの記憶にある家は、あの家だからだ。
だけど、あの家に帰ったら怪しまれるし不審者になる。
ーーはて?
どうしたものか。
とにかく歩いていると体が連れて帰ってくれるだろう。
止まらずに歩き続けよう。
「田端」
わしを呼ぶ声に振り返ると加茂山君がいた。
「お疲れさま」
「今日は、まっすぐ帰らないんだな」
加茂山君は、わしの手に持っているコロッケを指差して笑った。
「たまには……」
笑いながら残りのコロッケを口にいれるとむせそうになった。
「急いで食べたら危ないよ、ほら」
「あ、ありがとう」
加茂山君は、小さな水のペットボトルをわしにくれる。
その水を飲むといっきに体が潤った。
「一緒に帰らないか田端」
「あっ、うん」
家がわからないわしにとってはちょうどよかった。
加茂山君と並んで歩く。
わしは、いったいどこに住んでいるのだろうか?
「田端」
「うん」
「今日は負けたの悔しいよ」
「ごめん……」
「謝らなくていいんだよ。ただ、ほら。前も話しただろ?」
「あ……うん」
「忘れたみたいな顔してるな」
「ご……ごめん」
「いいよ、いいよ。田端も大変なのは知ってるから。俺はさ、全部一番じゃなきゃ親に怒られちゃうからさ」
「黙ってたらバレないんじゃ……」
「バレるよ!今日は、母さんが校門から見てたからね」
加茂山君の言葉にわしは驚いた。
ただ生きている。
今の時代は、それだけじゃ、駄目なのか。
一番をとらなければ怒られるなんて……。
「田端は、まだ二人に話してなかったのか」
「えっと……」
「言いにくいのはわかってるよ。じゃあ、俺はここで」
「あ……あの」
俺の家はどこですか?
何て聞けるはずはないから、「じゃあね」と言って加茂山君と別れた。
加茂山君の家から500メートルほど歩いたところに、田端と表札のついた一軒家を見つけた。
もしかするとここか。
鞄から鍵を取り出して、玄関に近づく。
恐る恐る鍵穴に差し込んで回してみると……。
ーーガチャ
どうやら間違っていなかったようだ。
玄関を開ける。
自分の家ではないから違和感しかない。
「ただいまーー」
誰がいるか確かめるように小さな声で言ってから家に入る。
入って右手のガラス戸がある。
そこを開けるとリビングだ。
「何だこれは……」
思わず声が出るほど荒れている。
どうなっている?
お弁当を作ってくれる優しい母親はどこにいるのだ。
ソファーに置かれた山盛りの洗濯物、床に散乱している雑誌、ホコリとカビの混ざりあった匂いがする。
弁当箱を流しに持って行くとシンクの中には、大量の洗い物が放置されていた。
母親は仕事をしているのかも知れないな。
弁当箱を流しに置いてから、二階にあがる。
二階にあがるとわかりやすく【大の部屋】と書かれたプレートが下がっていた。
この肉体の部屋なのに緊張する。
部屋を開けるとリビングやキッチンとは違ってシンプルでスッキリしていた。