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99歳、青春を始めよう!!

「なあ、大。放課後、コロッケ食いながら帰ろうぜ」

「ああ、うん」

「何か浮かない顔してるな。大、好きだろ?」

「うん」



 好きだと言われても実感がわかない。

 コロッケ……。

 油っぽくて胃もたれするものを今は好きではない。

 胃の中で、ずっと残ってムカムカするのだ。

 孫は美味しそうに食べるからと、よくコロッケが食卓に出てきた。

 コロッケの日は、ご飯はいらないと言いたかったものだ。

 


 はあーー。

 何だか憂鬱だな。

 体操服から制服に着替える。

 ブレザーってやつだ。

 孫がよく着ている。

 みんな同じ服を着ているのに、個性的だ。

 わしの時とは違う。

 髪型も自由だな。

 わしの行っていた学校とは違う。

 自由なのだな。



「ああ、だるいよなーー」

「そうだな」

「なあーー。でも、昼ごはんは楽しみだよなーー。大の弁当のおかずと交換な」

「わかった」



 弁当が楽しみか……。

 変わっている。

 いつも、日の丸弁当に小さな小魚が入っているだけだった。

 だから、弁当の時間は嫌いだ。

 なのに、わしの弁当のおかずと交換したいなんて。



「今日は、大の母ちゃんのお弁当のおかずは何かなーー」

「さあ、わからないな」

「まあ、そうだよなーー。腹減ったなーー。早く昼にならないかな」



 お腹を撫でながら歩いている。

 わしは、体操服を持ちながら気になっていることがある。

 わしは、どうして大に入れたのだろうか?

 大は、今どこにいるのだろうか?



 教室につくと良輔君は、ガラガラと扉を開ける。

 教室にはたくさんの女子と男子が思い思いに話していた。

 みんな楽しそうだ。

 わしの時代とは、偉い違いだな。



ーーキーンコーンカーンコーン。


 授業が始まる。

 先生がスラスラ黒板に文字を書く音を聞くのは懐かしい。

 嬉しいな。

 こんな風に勉強できるなんて。

 楽しんでいるとすぐに終わった。

 


「大、弁当食べようぜ」

「うん」



 わしは、鞄からお弁当を取り出す。

 ギンガムチェックの布に包まれている中身がずっしり重い。



「大ちゃん、良輔。今日は、外で食べない?」

「外って?」

「中庭の綺麗になったベンチに決まってるでしょ。行こう」

「うん」



 あかりちゃんに言われて、わしと良輔は中庭に行く。

 中庭にあるベンチは、あかりちゃんが綺麗になったという通り艶々としている。

 


「座ろう」

「うん」


 あかりちゃんは向かいに座る。

 わしは、良輔と並んで座った。



「弁当のおかず交換しようぜ」

「うん」



 ギンガムチェックの布を開けると大きめの弁当箱が現れた。

 蓋を開けると、色とりどりのおかずが並んでいる。



「唐揚げとイカリング交換しようぜ」

「いいよ」

「やっぱり、大ちゃんのお母さんはお弁当美味しそうだね」



 あかりちゃんがわしの弁当を覗いて笑う。

 確かに、このお弁当は愛情がこもっていて美味しそうだ。



「いただきます」

「いただきまーーす」


 白ご飯を口に含む。

 白米は、途中から甘くて美味しいものに変わったのだ。

 そこに甘みの卵焼きや唐揚げはさっぱりしている。

 味が濃すぎないから、揚げ物であっても食べやすい。

 ほうれん草の胡麻和えも美味しい。

 


「やっぱり、大の母ちゃんの唐揚げは最高だなーー」

「さっぱりして美味しいな」

「確かにさっぱりしてるよなーー。胃もたれしないようにって考えてくれてるんだよ」



 良輔君は嬉しそうに唐揚げを食べている。

 良輔君のお母さんのイカリングもサクサクして美味しい。

 お弁当にいれて時間が経っているのに、こんなにサクサクしているのは揚げる時間や衣を考えているのだろう。



「やっぱり、うまいなーー」

「そうだね」



 誰かと一緒に食べる料理は、やはり美味しい。

 わしは、ずっと入院していたから。

 こうやって誰かと一緒にご飯を食べたのはどれぐらいぶりだろうか。

 



「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」



 あかりちゃんと良輔君とわしは、一緒のタイミングで食べ終わった。

 二人の顔を見ていると、ここにいるのがわしで申し訳ないと思ってしまう。

 



「どうした、大?」

「いや、別に何もないよ」

「何もないって浮かない顔しててよく言うなーー。何か悩んでるのか?」

「悩みなんてないよ」



 悩みはある。

 わしがここにいていいのかが、ずっと気になっている。

 だけど、わしがここにいていいのかな?何て二人に聞いても意味がわからないと思うんだ。

 二人にとって、わしは何も変わってなどいないのだから。



「それならいいんだけどな」

「うん」

「今日の大ちゃんは明るくてよかった」

「そんなに暗かったかな?」

「暗かったわよ。ねぇ、良輔」

「ああ、最近は弁当も残したりしてたからなーー。気になってはいたんだよ」



 わしは、何かに悩んでいたようだ。

 何に悩んでいたかは、わしにはわからない。

 わかる方法……。


ーーあっ!!


 一つだけある。

 一度ぐらい使っても怒られたりしないだろう。



ーーキーンコーンカーンコーン



「あっ、授業始まる」

「戻ろう」

「うん」



 俺達は急いで教室に戻る。

 午後からの授業は、めちゃくちゃ眠い。

 さっきのお弁当が大きかったから食べ過ぎたのだろうか?

 コクコクとしてしまう。

 周囲を見るとみんなはちゃんと授業を受けているのがわかる。

 何で、わしだけこんなに眠いのだろうか。

 気になって良輔君を見ると、わしと同じようにコクコクしていて安心した。


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