まじか…
「皆さんおかえりなさい。」
ホームへ戻ると【聖女】セイラさんが待っていた。
「ごめんセイラさん!この子先に回復できるかな?」
「まぁ大変、ボロボロじゃない。」
セイラさんはすぐに両手をクーラへ翳した。
「―神聖なる癒しをあなたへ―」
セイラさんの優しい声に反応するかのように、クーラの身体がぽぉぅっと光り傷口が塞がる。
「これでもう大丈夫ね。みんなもすぐ回復するわ。」
「セイラさんありがとう。」
よかった。回復するためにポーションを買ったりするのは初心者にはちょっとお金がかかるだろうからな。ましては、毎回傷だらけじゃたくさん買わないといけないだろう。
「もう戻ってこれたんだなセイラ。」
ウィンドさんの問いかけにセイラさんは、ふふっと笑みをこぼす。
「えぇ、思ったより早く用事が済んだのよ。だから来てみたんだけど‥…この子は誰かのフレンドさんかしら?」
「いや、今回のダンジョンで出会ったんだ。」
ウィンドさんが簡潔に今回の出来事をセイラさんへ説明してくれた。
「みなさーん!報酬どうしますか?大蛇から奪ったお宝!これレア素材多いんですけど…よかったらクーラさんも貰ってください!」
ユメノがどうぞと報酬一覧を提示している。
「えっと…私は今回なにもで来てないですし、皆さんで分けてください。」
意外と謙虚なのか?でもダンジョン一緒にクリアできたし。俺らならまた周回できそうだしな。やっぱり貰って欲しいな。
「そんなことないよ。大蛇に出会う前に、何体か倒れてるモンスターを見かけた。あれは君が倒したんだろう?ギリギリまで頑張っていたんだ。初期装備で耐えてきたなんて本当にすごいことだぞ。まだ始めて1ヶ月とかくらいだろう?」
「本当にいいんですか?ありがとうございます。でもすみません…私今日始めたばかりで何を持っていればいいのか分からなくて。」
「「えぇ!?今日!?」」
おぉ‥…ユメノと被った。いやぁ、あの軽装備でよくもまぁ耐えてたなぁとは思ったが‥…うん。‥…いやまさか…え?
「本当なら相当な逸材かもしれないね。」
ウィンドさんはこういうときも冷静で羨ましい。
「それなら最初は素材より金貨のほうがいいか?武器や装備の強化だけじゃなく回復ポーション等も買えるし色々準備するために使えるからな。俺たちはもう金貨余ってるくらいだし。」
「なるほど...助かります。」
フッと口元を緩ませるクーラの姿は出会ったときの冷徹さはなく、日だまりのような暖かさを感じた。
「ねぇねぇクーラさん!よかったら私たちのクランおいでよぉ!」
おっとぉ?ユメノよ…いきなりすぎはしないかい?ほらぁ、クーラ困った顔してるじゃん。クラン入るならウィンドさんからの許可も必要だし‥…チラッと横目でウィンドさんを見てみると…
「僕としてはクーラさんが良ければ歓迎するよ。クランに入っていると経験値が多く貰えたり便利なことも多いんだ。どうかな?」
ウィンドさんが許可するなら俺も賛成だ。
「いいわねぇ、また賑やかになるわ。」
どうやらセイラさんも賛成のようだ。
「あ、えっと…すみません。少し考えさせていただいてもよろしいですか?」
まぁすぐに返事は難しいよな。
「あぁもちろん。ゆっくり考えてみてくれ。」
ウィンドさんの言葉にクーラは安心したのか、ありがとうございますとまた微笑んでいた。
結局この日はみんなクーラとフレンドになって解散となった。
あぁ…楽しかった。またフレンドが増えたし。俺も始めた頃を思い出して懐かしい気持ちになれた。今日はもう寝るかとゲームを落とそうとしたところへメッセージが1件きた。フレンドチャット欄だが、いったい誰から‥?
【こんばんは。本日は本当にありがとうございました。最初は何も出来なくてパニックになってしまって失礼な態度をとってしまいすみませんでした。まだゲームで分からないことだらけなので。よかったらまた教えてください】
クーラと書かれた名前をタップすると丁寧な文が送られていた。
【こちらこそ。いきなりすみませんでした。ぜひまた遊びましょう。俺が教えられることならまかせてください】
っと。これでいいか?変じゃないかな?しっかり確認して送信を押す。また遊べたらいいな。
ゲームを落とし充電器を挿入する。時刻は10時半を過ぎたところだ。ベッドへ入り今日のことを思い出しながら俺は微睡みへと誘われる。
翌朝学校へ向かうと校門に涼海がいた。が、その目元は黒みがかっていて、大きな隈になっているようだ。普段真面目なイメージが強いため夜更かしするようには見えなかったが…遅くまで勉強でもしてたのか?まぁ、俺には関係ないことだと横を通りすぎようとしたが‥…
「おはよう。夜見君。」
「…え?」
おいおい今なんと?夜見君?俺の名をお呼びですか?そんなわけ‥
「あら?聞こえなかったかしら。貴方よ夜見君。」
「え?あ、はい。おはようございます?涼海さん。」
「ちょっと聞きたいことがあるの。放課後教室に残ってくれるかしら?」
「え、なんでですか?」
いや怖ぁっ!?いきなり何の用なんだ。
「予定でもあるの?それなら無理にとは言わないけど‥」
少し歯切れの悪い聞き方になんと返すべきか迷ってしまう。放課後はゲームするくらいしかやることはないが、俺何かやらかしたか?‥そういえば昨日ぶつかってしまった。まさかそれで体を痛めたとか!?それが原因で不眠に?‥そうだとすれば俺に断るすべはない。
「いえ、予定はないので大丈夫です。」
「そう。よかったわ。じゃあまた放課後に。」
それだけ言うと涼海さんはスタスタと昇降口へ向かった。結局用件聞けず仕舞いだな…。参った。このモヤモヤをかかえながら俺は1日過ごさなければ行けないのか。昨日の楽しかった気持ちが今はどんよりとして身体が重く感じて仕方がない。
なんとか放課後まで耐えきった。1人、また1人と教室から姿を消していくなか1人の生徒は椅子に腰かけたままだ。そして他の生徒がみな居なくなった瞬間身体をクルリとこちらへ向ける。ずっと見て動く気配がない。沈黙に耐えられず俺から涼海さんの席へ出向く。
「それで話って何かな?」
聞いてしまった。彼女は少し顔をしかめた。え、なに、そんなにいいずら行ことなんですか?…まさかぶつかった衝撃で骨折したとか!?いや、それなら今日普通に登校してこないだろう。早く答えてくれ涼海さん!
「…実は貴方が昨日話してたゲーム始めて見たの。」
「…え?いったいなんとおっしゃいましたか?」
俺の聞き間違いだろうか?
「だから!貴方が昨日ススメてきたから!ちょっと、試しに触ってみた程度だけど…始めてみたのよ。」
涼海さんの顔が徐々に紅潮していく。
「えぇ!?涼海さんあれやってくれたんですか!?」
俺の声がデカすぎたのかビクッと肩を揺らし涼海さんが口を開く。
「…別にただ貴方があまりにも楽しそうに話すから気になっただけよ。」
「…嬉しいです。もしかして聞きたいことってゲームのことですか?」
「そうなの。貴方はクランって制度に加入してるかしら?」
なるほどクランは初心者にとっていいこと多いからな。
「えぇ、入ってますよ!俺のクランはみんな優しくて初心者だった頃にいれて貰って、すごくお世話になってます。」
「そうだったのね。昨日加入しようか迷って‥自分なりに調べて考えてたら、気付いたら朝4時になってて。」
そうだったのか、それで隈が。
「クランに加入すると経験値が通常より多く貰えるんです。クランの人とダンジョンをクリアすることで貰える報酬があったり。クランごとに毎月金貨も配布されたりして便利なんですよ。」
真剣に聞く涼海の表情を見て、俺もできるかぎり力になりたいと思った。
「そうなのね。やっぱり加入するべきかしら?でもいきなり入ったら迷惑かけそうで。」
「いいんじゃないですか?もちろんクランとの相性はあるかもしれませんが、脱退もできますし。そこで仲良くなった人がいればもっと楽しめるはずですよ!」
「…ありがとう。貴方のおかげで案外ゲームも楽しめそう。」
「それはよかったです!俺もゲームの話できて嬉しいですし、なにより涼海さんに嫌われてると思ってたので…安心しました。」
俺がそう言うと涼海さんは驚いた顔で話し始めた。
「え?私が夜見君を嫌う?なぜ?」
今度は俺が驚く番のようだ。
「え!?だっていつも睨んでくるし…近くを通ろうとすると避けられてる気がして…」
「あっ!あれは別にそういうつもりじゃ!?」
涼海さんはあわあわとし口をパクパクしている。
「と、とにかく嫌いではないわ。遅くまで引き留めてごめんなさい。」
「いや、失礼なこと言ってすみません。また困ったことがあればいつでも聞きますよ。」
ん???嫌われてない‥のか。それなら良いに超したことはないが。驚きが強すぎる。俺は冷静を保ち話せただろうか。
「ありがとう。それではまたね。」
長い髪を耳にかけペコリとお辞儀をして涼海さんは教室をあとにした。‥まじか。涼海さんの新たな一面を見られた気がした。俺も帰るか。
家に帰りいつも通り雑な食事と風呂を済ませる。
クラン‥…‥…か。そういやクーラは【next storm】へ加入してくれるだろうか?俺も此処には昔からお世話になったし。後輩ができるなら、できるかぎり力になりたい。
さぁ今日も始めますか。
「こんばんは!」