ゲームは正義
今では趣味というものもたくさんあるだろう。
サッカー、野球、ゴルフ等様々な年代から好まれる物。音楽や芸術鑑賞を好む者。そしてゲームを愛する者。
俺は花月高校に通う2年生 夜見 光。そう、まさにゲームが趣味なのである。少し前ならオタクと笑われていたかもしれない、しかし、今ではゲームを職とする者やゲームで出会いを求める者までいるのだ。
そう…つまりゲームが趣味なことなど何も恥じることではない。そう断じて恥では…
バンッ
「痛てて…すみません大丈夫ですか!?」
スマホでハマりのゲームの情報を見ながら歩いていた俺は廊下に出た際誰かにぶつかったようだ。そして不運なことに…
「…最悪。」
同じクラスだがなぜか俺のことを嫌っている
涼海 京叶にぶつかってしまったようだ。
彼女は俺と中学から一緒だが接点はほぼない。そのため俺は余計に睨まれたり避けられてる理由が分からない。
「えっと…涼海さん、すみませんスマホに夢中になってて周り見えてなかった。ホントにごめんね」
最悪、そのひとことは俺の心に深く突き刺さった。
その気持ちは俺にとっても同じだ。
「またスマホばかり…そういうゲームが好きなの?」
「えっと…えぇ?」
話し続けてくるとは思わず俺は疑問を露にした。
(まさか涼海さんがゲームに興味もつなんて)
「そうなんだ、色んな職種があって自分でキャラを作れるし大勢でも遊べるんだよ!よかったら涼風さんもぜひやってみ…」
そこまで言いかけて俺はハッとした。普段ゲームのことを学校で話さないからつい熱くなってしまったようだ。
(涼海さん絶対ゲームとかしないよな。うわぁ引かれたか?ゲームヲタキモって思われたか?)
これでは更に嫌われたなと涼海に目を向けると
「そう…まぁ私には合わなそうね。」
「そうですよね、すみません。」
再度謝り俺は足早にその場を離れた。
ゲームのこと聞いてくるからてっきり興味があるのかと思ったが、なんであんなに冷たいんだと俺は肩を落とす。
「やっぱりゲーム好きってダメなのか…?」
俺にとってゲームは自分の居場所であった。
何よりも楽しく、夢中になれる。そして現実とは違う面白み。たまに嫌な人もいるけれども、それ以上に優しい仲間と過ごせる。そんなゲームが大好きなのだ。
家に帰ると1人の時間が訪れる。親は海外へ赴任しており、俺が小さい頃も出張等で忙しく家にいないことが昔から普通だった。そのため1人でも楽しめるようにと誕生日に両親にゲームを買って貰ってから俺はゲームの虜になったのだ。その日から様々なゲームで遊び、今はスマホゲームにハマっている。ゲームをしてるその時だけは1人ではない。退屈ではない。帰りにコンビニで買ったお弁当を食べ、シャワーを済ませる。時計の針が8時を示す。使いなれたヘッドフォンを装着する。待っているクランメンバーへ声をかける。
「こんばんは!」
さぁゲームの時間だ。
「こんばんはウィンドさん、ユメノ!」
「こんばんはナイト、早速探索へ行くか」
「ナイトさぁ~ん!待ってましたぁ!」
ナイトは俺のゲームでのユーザーネームである。
今日は俺の所属するクラン【next storm】のメンバー、「ウィンド」「ユメノ」と新しいダンジョンへ向かう約束をしていた。
俺は攻撃の要である【騎士】で、近距離で中~高火力のダメージをモンスターへ与えることができる。ウィンドさんはクランマスターであり、【格闘家】他のキャラよりHPが多く味方の代わりにダメージを受け守りながら攻撃でき耐久戦にすぐれている。ユメノは、【魔法使い】で中距離から攻撃をしかけモンスターへデバフを付与できる。
いつもは【聖女】、火力は低いがヒーラーとしてすぐれた仲間もいるが今日は予定があり参加できないようだ。
「今回出たダンジョン少し攻略難しいみたいですね。今日、学校で情報見てたんですが強いモンスターが多いんだとかで。でも報酬がいいしやっぱり楽しみですね。」
俺は不安よりも新しい探索にワクワクしていた。
「僕たちなら大丈夫だね。楽しもうか。」
ウィンドさんが柔らかく微笑みかける。
「そうだよ!私たち強いし今回も頑張ろぉ!ナイトなら簡単に倒せちゃうよ!」
「あぁ、頑張ろう。」
今回はウィンドさんも一緒で心強いし、相変わらずユメノは健気で可愛いな‥…そんでもって2人とも最強だ。
ウィンドさんもユメノも装備はレベル最上級。このクランはエンジョイ勢の集まりだが皆ほぼ廃人に近い。
お互いに支えあって強くなってきた仲間のため信頼も厚い。俺はつくづくこのクランでよかったと思った。
しばらくダンジョンを進むと
「ぎゃぁぁぁ!やめて…こないで!」
茂みの方から少女の叫び声が聞こえてきた。
「なんだ!?」
俺は急いで駆けつける…‥…そこには初期装備にか弱そうな杖を持った魔法使いがいた。おそらくこのゲームを始めたてなのであろう。しかし、その周りを3体のドラゴンが囲っていた。初心者のHPでは、おそらく耐えられないだろう。少女が怯えているうちに1体のドラゴンが攻撃を仕掛けようとしていた。
「危ない!」
すかさず飛び込み剣を振るった。長年愛用し大切に強化してきた剣はすっかり手に馴染んでいて鋭い一撃がドラゴンの腕を切り裂く。
遅れてウィンドさんとユメノも加勢する。
横からもう2体のドラゴンが炎を吹こうとする。
「乱暴だなぁ…お仕置きしてあげるね!…Sleep」
ユメノが杖を高く上げ、ドラゴンへ振りかざす。途端に暴れていたドラゴンたちが次々に倒れこんでいった。
「ずっとおねんねしてていいよ。」
ユメノは魔法使いとしてかなり優秀だ。どんどん成長していきサーバーではいつも、魔法使いとしてTop10にランクインしている。強力な眠り魔法で数時間は動けないだろう。
「このモンスターは倒しても報酬が微妙なんだよね。でも攻撃力高いしここで無駄に力を使うのは勿体ないから...助かるよユメノ。」
ウィンドさんは事前に調べた情報から今戦うのは無駄だと冷静に判断したようだ。
俺は怯える少女に近づきなるべく優しく声をかけた。
「君、大丈夫?初心者かな?このダンジョンは中級者向けだから少し危険が多いんだ。よかったら出口まで一緒にいかないか?」
俺の誘いに、ウィンドもユメノも、そうしようと頷いた。………が
「結構です。」
少女はキッと睨むかのような表情で俺を見つめ、冷たく言い放った。
「え、ちょっと待って。本当に危ないよ!?」
再度忠告するも少女は聞く耳を持たない。
そしてダンジョンの奥へと消えてしまった。
「…嵐のような人だったね。」
ウィンドさんは苦笑いを浮かべる。
「なんなんですか!あの人!せっかく助けたのにあんまりですよぉ!」
ユメノは頬を膨らませ地団駄を踏む。
流石に俺も開いた口が塞がらなかった。
「久々に嫌な人に出会ってしまった…最悪だぁ。いきなり嫌われるとか…」
俺は落胆した。楽しみにしてたダンジョンでこんな奴に出会うなど、思ってもいなかった。
「民度下がったのかなぁ…」
悲しむ俺を慰めるようにウィンドさんが背を擦ってくれた。
「まぁまぁ、あの娘はきっと1人で頑張りたかったんだよ。僕たちは僕たちのペースでいこう。」
「でも助けて貰ってお礼もないなんてかなしすぎますぅ」
むくれるユメノをなだめダンジョンの最奥へと再び足を進める。
道中、足が1000はあるであろう巨大なムカデや強力な毒を持つ蜘蛛に出会ったが俺たちにとってはどうってことないモンスターだった。
「ここが出口かな?」
ウィンドさんは出口のワープを発見し、近くの宝箱へ歩み寄る。すると‥ゴゴッゴゴゴ…ガシャン‥ドンッ
強い揺れと共に天井が崩れ落ちていった。突如として紫に輝く大蛇が降りて来た。
「よくぞここまで辿り着いたな。若者たちよ…だがその宝は渡すわけには行かぬ。」
蛇の後ろをよく見ると今までこの蛇に殺られたのであろう騎士たちが倒れていた。このゲームでは、ダンジョン内で敗れた場合その時点でホームへ戻される。しかし、装備や武器は失われてしまう。そのため中装備の者も多いのだ。そして山積みのキャラたちの中に1人、見覚えのある魔法使いの姿が目に入った。そう今日出会った最悪の魔法使いだ。彼女はおそらく俺たちの少し前に来たのだろう。HPがかろうじて1残っているようだ。
「あぁ‥あ‥うぅ‥」
「おや?私の一撃でもう殺られてしまったかと思いましたが‥ギリギリ避けられたのですね?すぐに楽にさせてあげます。」
大蛇が細長い舌をチロチロと出し、太く長い身体を少女めがけて倒して行く。
「おや?私の腹が‥」
ブシャァと血が跳ね少女の頬へ血がついた。
「俺たちがお前を倒す。相手をするなら俺たちを先にしてくれ!」
それは俺の剣に裂かれた大蛇の腹から出たものだった。
「ほぉら!お腹が痛むんじゃない?Poison!」
そこへ、すかさずユメノが毒を振るう。
「小癪な!」
大蛇が尾を振り払う。
「本当はもう弱ってますよね?こことか…ね。」
ウィンドさんが尾を避け毒に蝕われた腹へ蹴りを入れる。
「ぐあぁぁあ‥おのれ‥よくも‥」
大蛇はハァハァと息を荒げ、俺たちを睨み付ける。大蛇の体力が減った今のうちに素早く大蛇の身体へ切り傷をつけていく。
「これで終わりだ。報酬はいただく。」
俺は剣を大蛇の頭へ切りつけた。直後蛇から悲鳴があがり‥蛇の姿はパッと消えていった。
「ナイスだよぉ!流石ナイト!」
「確かにラスボスなだけあって、体力多くて疲れたな‥倒せてよかった」
ユメノへグッと親指を立て、俺は笑顔を見せる。そしてしゃがみこんでいる少女へ駆け寄る。
「君も帰ろう。僕はナイト、こっちはウィンドさんとユメノ。君は?」
「‥…‥…クーラ…です。」
少女は限界に近かったが声を振り絞って話してくれた。
「クーラか。危険だったのに1人で頑張ってたんだな。さっきは余計なことして悪かった…今回も…か?」
ごめんな?とクーラへ謝り、先ほど頬に着けてしまった蛇の血を優しく拭った。
「いえ、このままだったら報酬もなしで…唯一の装備も消えちゃってた…さっきはあんな態度とって‥…すみません。」
目に涙を溜めながら一生懸命俺の目を見つめ話す姿は、どこか儚げで、今まで堪えてきた頑張りが顔に滲み出ていて美しかった。
(なんだ、やっぱり怖かったのか…以外と可愛いとこあるんだなぁ…)
「とりあえずホームへ戻ろう」
ウィンドさんの声かけで皆はホームへワープすることにした。
「報酬はあとで皆で分けましょう!」
ニコリとユメノが笑みをこぼす。
ワープする際クーラは俺の傍から離れなかった。
(これは、クーラに嫌われてないってことか?)
俺は、やっぱりゲームは悪くないな、と安堵した。