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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

仇討ち刑

作者: XX

遺族感情の重視を徹底した先

 弟の一家が強盗に入られて一家を皆殺しにされた。

 やったのは18才の少年の2人組で。

 少年は死刑にならないからという甘い見立てで、軽い気持ちで犯行に及んだらしい。


「一家惨殺ゲームを愉しんでみたかったんだよね」


 一家を洩らさず殺し尽くす。

 その戦利品として、全財産を奪ってみる。

 銀行預金、クレジットカードの借金枠、闇金、その他。

 脅迫を駆使して、現金化できるものを徹底的に現金化して、奪う。


 そのために、家族を人質にとって、親の目の前で子供を少しずつ斬り刻んでみせて脅迫したり。

 切り取った子供の指を鍋で煮て、弟のお嫁さんに無理矢理食べさせたり。


 そんなことをしたらしい。


 弟は、そんな悪魔たちに自分の存在を可能な限り現金化され、最終的に一家丸ごと皆殺しにされた。


「どこまでいけるかワクワクしたよ。いい18才の思い出だった」


 取り調べでそんなことを言ったと、後で刑事さんに聞いてしまった。

 許せないと思った。


 私は普通に弟と仲が良かったし、弟のお嫁さんとも良い義姉妹の関係を築いていた。

 ふたりの子供たちには、毎年誕生日プレゼントもあげていたんだ。


 そんな一家を、あいつらは遊びで壊した。


 そして、裁判は最悪だった。


 自分たちは絶対に死刑にならないという思い込みで、彼らは最低の態度を取った。


「遺族どこ?」


「怒ってる?」


 そんなことをニヤニヤしながら言っていた。

 最初は。


 だけど


「……18才からは死刑判決が可能性に入るのだが?」


 裁判長が、あまりに腹が立ったのか、思わずポツリと洩らしたんだ。

 そこで、いきなり少年二人の顔色が変わった。


「とんでもないことをしてしまいました!」


「生きて償いたいと思います!」


 いきなり法廷で土下座をはじめたんだ。


 ……救いようのないクズ。


 それ以外の感想は出てこなかった。


 判決が出た。

 ……死刑だった。


 少年たちの弁護士は、ただちに控訴したけれど。

 最終的な結果は変わらなかった。


 数年後、最高裁で彼らの死刑判決が確定した。



 ……昔は死刑は絞首刑であるというのが決まっていたけれど。

 裁判員制度のような、遺族感情を重要視する政策がエスカレートしたせいで。


 今はこういうものになっている。


 復讐刑。


 ……その内容は、被害者遺族が加害者に対して行う一切の暴行、殺人、凌辱、放火。

 それを一切不問に付すというものだ。


 被害者遺族は加害者限定で、何をやってもいい。


 家に火をつけてもいいし。

 後ろから刺しても良い。

 道を歩いているときに、植木鉢を頭の上に落としても良い。


 無論、捕まえて縛り上げ、その肉を削ぎ落すような拷問に掛けてもいい。


 そして反対に、死刑判決を受けた受刑者は、一切の抵抗が認められない。

 襲ってきた遺族に対して、反撃して返り討ちにしたら、殺人罪が適用される。

 そしてその場合、即日銃殺されることになっている。


 受刑者の身内が、受刑者を守るために遺族を殺しても同様だ。

 銃殺刑になる。


 今はそういう死刑制度なのだ。


 ……私は当事者になるまでは、この死刑制度になんの疑問も持たなかった。


 いい気味だとすら思っていた。


 伝え聞くところによると。


 死刑判決を受けると、どこにも住めなくなる。

 家に火をつけられる恐れがあるからだ。


 就職口もなくなる。

 職場が巻き添えを食うことになるかもしれないからだ。


 そして人間関係が結べなくなる。

 これも当然だ。

 そいつを庇ったせいで、なんらかの罪に問われるかもしれないなんて。

 恐ろしくて人間関係を結べない。


 そのせいで、死刑囚たちは、孤独に、路上生活を強いられ、いつ来るか分からない遺族の襲撃に怯えながら生きている。


 そういう話を聞いたとき、ざまぁ、と思って御飯が美味しかった。


 ……当事者になるまでは。



 私は家を出た。


 すると知らない男性に声を掛けられ


「福田さんですよね?」


「そうですけど……?」


 私が認めると、男性は満面の笑みで


「決行の日を楽しみにしてます! ターゲットを俺の仲間が毎日モニタしてるんで、死ぬとこを拝む日が今から愉しみです!」


 ……握手を求められた。

 こんなことが、もう数年続いている。


 皆が私に期待している。

 どんな素晴らしい復讐を成し遂げてくれるのだろうと。


 ……だけど言えない。

 

 私は復讐刑の権利を行使する気が無い、なんて。


 私は殺したく無いのだ。


 弟の一家を殺し尽くした元少年たちは人間のクズだ。

 そこは私もそう思ってる。


 だけど


 そんなクズでも人間だ。

 殺したらきっと私の心は壊れる。


 それがたまらなく怖いんだ。

 そう思うのは、遺族として不義理なのか?


 現行、彼らは間違いなく破滅しているのに、それ以上の罰を望まないといけないのか?


 ……でも、これを口にしたら


「実の弟を殺されても何も感じないなんて人間としておかしい」


「犯人はクズだけど、遺族もクズ」


 ……絶対にこう言われる予感がする。

 当然、私も社会に居場所がなくなる。


 ……そんなことを考えながら。

 私は精神病院の門を潜った。


 精神科医の先生に、心の内を聞いてもらう。

 それが今の私の唯一の癒し。


 ……待合で順番を待っているとき。


 何気なく見た動画で、仇討ち刑執行の瞬間、なんていうものが上がっていたので。


 見てしまった。


 動画の中で、旦那さんを殺したチンピラの男を、遺族の奥さんがバットで殴り殺していた。


 コメント欄は奥さんを応援する言葉で埋め尽くされていたけれど。

 ……私にはその奥さんが喜んでいるようにはとても見えなかった。

この話、某有名な作家先生が「死刑を廃止して仇討ちを復活させたら良くないですか?」というコメントをテレビ番組で言ってるのをみて「そんなことをしたらおそらく、遺族がより深い地獄に叩き落されるぞ」と思いまして。

そこから思いついた作品。

私がそのとき思ったのは「復讐刑があるのに、復讐を実行しないのはクズの所業」という、変過ぎる風潮がまかり通り、やらない遺族が社会から抹殺される。これでした。

なのでそこに説得力を持たせるため、遺族がより自由意志で復讐を選択しやすい環境を設定で整えてこの話を作りました。


①死刑囚は正当防衛不可。死刑囚を庇うことも有罪。

これをすることで、死刑囚の先制攻撃(遺族にやられる前に遺族を先に襲撃し、後から「襲われたから応戦したんだ」と言い訳するパターン)を完全に防ぐ。

②遺族は何をやっても許される。

ここから派生する死刑囚側の地獄。

放火や車で凸等の襲撃があるから、どこにも住めなくなり、仕事も見つからず。

庇うと罪に問われるから友人も恋人も残らず去って行く。


この設定で

「遺族が復讐を決断できるかどうかは感情の問題であり、生物的強さの問題でない」

「死刑囚は襲撃されるまで何もできず、有効な自衛手段を取ることも出来ない」

この2つを実現させてみました。


そうしないとまあ、この話のオチに説得力出ないと思ったんですよぉ。

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