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インヘリテンス2  作者: 梅太ろう
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第83話【力と速さ】

「ふぅ……その若さにしてこの私とここまで張り合うとはな、盗賊にしておくには実に惜しい逸材だ。そこまでの能力がありながら、なぜ兵士になることを目指さなかった?」


「兵士……? ふん、あんたらは相変わらず自分たちが一番の存在だと思い込んでいるのね」


「王を譲り国を譲り民を譲る。不可欠な存在であり、誇り高き地位だ」


「……民を護る? だったらなんで……」


 アミは強く拳を握った。


「だったらなんであの時……」


 そして俯き、唇を噛み締めた。


「あんたらは民を譲ろうなんてしてない……あんたらはいつだって自分達のことばっかりよ、あの時だって……」


「あのとき……?」


「兵士なんてなんの役にも立たない、だから、だから私は……」


 トールはその言葉を聞き、少し考えた。


「……まさか……まさか君は、コダイン家の?」


「!!??」


 アミの顔色が変わった。


「やはりそうだ! 君はコダイン家の長女、アミ・コダイン、そうだな? 一体今までどこにいたんだ?!」


「あ、あんたは?」


「私と君の父、リブ・コダインは旧友だ……十数年前のマハミでの惨劇後、これから一家一丸となって強く生きなければならなかったあの時、君は忽然と姿を消した……なぜだ!? なぜ王国を出た!? リブを失い、更には君を失った家族の悲しみをなぜ考えられなかった!?」


「うるさい! あんたには関係ない!」


「君が失踪してから君の母親は、あの時の君と同じように声を失った……」


「!?」


「弟がいるだろう? この十数年、君の弟が母を譲り、励まし、支え続けている……それなのに君は……母を、弟を捨て、この王国を捨てた……」


「くっ……なにも知らないくせに、何も出来なかったあんた等が偉そうに言うな!!」


「君の弟は今でも君を探している……もちろん、母親も君の帰りを願っているだろう……しかし、まさか王国を出て、こんな盗賊まがいの集団に入っていたとは……」


「盗賊じゃない……」


「亡き友の家族だ。私も君がいつか王国へ戻り、家族三人での幸せを取り戻せれば良いと願っていたのだが……今の君を知ったらどれほど悲しむだろうか……幸せどころか、せっかく立ち直りつつある今の二人の心や、生活が、再び壊れかねない……」


 トールは剣を構えた。


「今の君に二人に会う資格はない……今、立ち直ろうとしている二人の為にも、数年前に失踪した君は、あの日死んだものとするのが、今の二人にとっての最善の未来だろう、悪いが亡き友の家族の為だ、今の君には死んでもらう……」


「私は……母や弟に会う気は最初からない……死んだと思ってくれているのならそれで良い……だけど……あんた等兵士なんかに私の家族の心配をする資格はない、何が誇り高きだ……何が民を譲るだ……」


 アミはアークを高めた。


「あんた等兵士になんてこの世界は譲れない! この世界を護るのはヴィルヘルムよ! 私を救ってくれたウィザード隊長やヴィルヘルムのみんな、あんた達は今まで通り黙って自分達の事だけを考えてれば良いのよ! 詭弁ばかり並べて私達の邪魔をするのなら容赦しない! 私が、私がこんな軍なんてぶっ潰してやる!!」


 アミは腕を振った。 するとアミの手からナイフのような形のアークが放たれ、一瞬でトールの頬を切った。


「!!」

(実際のナイフよりも速い、どうやらまだ奥の手を持っていそうだな……)


 トールはアークを高めてアミへと突っ込んだ。


 二人は再び激しい戦いを繰り広げるが、トールの剣が若干勝り、アミは徐々に追い詰められていった。


「くうっ!!」


 アミは上空に高く飛ぶと身体を大きく反らせた。そしてアークを高めると手足を一気にトールへと向けた。


「!!!!」


 するとトールの上部から数十本ものアークのナイフが降り注いだ。


「ぐ! ぐをおおお!!」


 トールは剣で数本は防ぎ急所は外すものの、肩や腕や足を切られてしまった。アミはその隙にトールの懐に入り込み、拳で顎を突き上げた。


「ぐあああ!!」


 さらに追撃で回転しながら蹴りを放ち、その勢いのまま裏拳を叩きこもうとしたが、トールはそれを既の所で避けた。


「!!」


 そして剣を突き上げるとアミは手甲で防いだが身体が浮いたところへ更に剣を叩きつけられ地面に吹き飛んだ。アミはその勢いのまま飛び上がると、再びトールへと突っ込み、蹴りや拳を放った。


 しかしトールはアミの動きを見切り始め、攻撃をすべて躱していた。


「はっ!!」


「むっ!?」


 その時、アミの拳を躱したはずであるトールの首元が切れた。


 アミはナイフを持って攻撃していた。


(まだナイフを隠し持っていたのか)


 アミは両手にナイフを持ちトールへと振り回した、しかしトールは冷静に剣で弾き、攻撃を防いだ。


「ああっ!!」


 そしてついにはもう片方に持っていたナイフをも飛ばされてしまった。


「うをおおお!!」


 トールはアミヘと剣を横なぎに振った。


「くっ!!」


 するとアミは後ろに退がることなく、むしろ強く踏み込み、トールの剣を持つ手を足で抑えた。


「なに!?」


 そしてその手を踏み台に飛び上がり、膝でトールの顔を蹴り上げた。


「ぐをおおお!!」


 そして後ろへのけぞるトールへと、持っていた最後のナイフを袈裟に振り落とした。


 トールはなんとかそのナイフに剣を合わせ弾こうとするが、体勢の悪いまま放った剣だった為、逆に弾かれてしまった。


 アミは振り切ったナイフを返すと、さらにナイフをトールへと振った。


「うをおおおお!!」


 しかしトールはアミの顔を蹴り飛ばした。


「あああ!!」


「はあはあ……本当に、末恐ろしいお嬢さんだ……」


 アミは再び立ち上がった。


「私はあんたなんかに負けられない……ヴィルヘルムの為にも、私自身の為にも、必ず、必ず勝つんだああ!!!!」


 そしてアークを放出しながらトールへと向かうと、ナイフをトールの顔めがけて下から振っ た。


(得意のスピードも落ち、攻撃の軌道も大きい!!)


 トールはナイフの軌道を完全に読み切り、顔を少し退げて右手の剣を構えた。


「うをおおおおおお!!!!」


「!!!!」


 しかしその瞬間、アミの持っていたナイフがアークで纏われ、ナイフはアークによって剣の形を成した。


「なにいいい!?」


 トールは大幅に変わったアミのナイフの攻撃範囲内に完全に入っていた。


 そしてアミは剣を振り切った。


「ぐをお!!!!」


 するとトールの左腕が飛んだ。


「はあああ!!」


 アミはさらに剣を振り上げた。


「これで終わりだああ!!」


 そしてトールへと振り落とした。


「うおおおお!!!!」


 しかし左腕を飛ばされたトールは動揺することもなく、アミの攻撃に剣を合わせて防ぐと、アークを高めてアミを蹴り飛ばした。


「はあはあはあ……」


 トールは飛ばされた自身の左腕を拾った。


「まさかナイフにアークを込めて剣にするとはな……危ないところだった……」


「く、くう……」


「左腕はとうの昔に義腕だよ……この手に通っているのはアークであって神経ではない、だからダメージにもならない。良い攻撃だったが残念だったな……」


 アミは立ち上がった。


「しかしこれではもう使い物にならない。また新しいものを作らなくてはならんな……」


 トールは左腕を投げ捨てた。


「まさか義腕だったとはね……でも片腕じゃあ、もうさっきまでのパワーは出せない、もうあんたに勝機はないわ」


「それはどうかな? 君こそ自慢のスピードがだいぶ落ちて見切れてきた。私は力を、君は速さを、どちらも強みを一つづつ失っただけで、条件はさほど変わらない。ならば、先ほどまでの攻防を鑑みるに、わたしの勝利は変わらない、しかも君はもう奥の手も晒してる」


「……まるであんたにはまだ奥の手があるような言いぶりね」


「どうかな?」


 二人は構え、アークを高めた。


「……??」


 その時、晴天の空から雨が降り始めた。

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