第68話【事実】
―― 数時間前
ティグはカーガモゥから一週間ほどかけてガルイード王国へと辿り着いていた。
「はあはあ! はあはあ!」
(か、母さん!)
ティグは休むこともなく自宅へと一直線に向かった。
「母さん!!」
家に着きサオを探すが、サオは見当たらない。
「母さんどこだ!? 俺だよ! ティグだよ!」
どの部屋を見ても、サオは居なかった。
「か、 母さん一体どこへ……?」
ティグは少し考えると家を出た。
(どこだ!? 母さん、どこに行ったんだ!?)
ティグはガルイード王国中を走り回りサオを探した。
「ん? お、おい……」
「あん? どうした?」
そんな時、ガルイード王国内を巡回していた兵士がティグに気付いた。
「あれ、手配犯のティグ・ミナルクじゃないか?」
「なんだって? まさか……」
「や、やっぱりそうだ! 手配犯だ!!」
ガルイード兵は急いでティグを追った。
「おい! そこのお前! ティグ・ミナルクだな! そこを動くな!」
「!? なんだ!? ガルイード兵!?」
ティグはガルイード兵に気付いたが、足を止めることはなかった。
「くそっ! 逃げるか!」
するとガルイード兵は笛を鳴らした。
「手配犯のティグ・ミナルクだ!! 捕まえろ!!」
「な!? 手配犯だって!?」
ティグは動揺するも足を止めることはなかった。
「!!!!」
しかし兵士の笛を聞きつけ、前からも兵士が数人駆け付けると、ティグはあっという間に取り囲まれてしまった。
「なんだお前たち!? 俺は今母さんを探しているんだ!! 邪魔をするな!!」
すると一人の兵士がティグに飛び掛かってきた。
「大人しくお縄につけ!!」
ティグがその兵士の突撃を躱すと、次から次へと他の兵士も突っ込んできた。
「な、なんだお前たち!? やめろ!! 邪魔をするな!!」
「ええい!! 良いから黙ってお縄につけい!!」
兵士たちは理由も言わずにしつこくティグに襲い掛かってくる。
「こ、このお……いい加減にしろ!!」
いい加減イラついてきたティグは兵士を数人蹴り飛ばした。
「うをおお!!」
数人の兵士が蹴り飛ばされたのを見ると、ひとりの兵士が声を上げた。
「て、抵抗したぞ!! 剣を抜くんだ!!」
「おおおお!!」
すると兵士たちは一斉に剣を抜いた。
「な!? ……っく」
ティグは構えた。
兵士たちがジリジリと距離を詰めると、一人の兵士が剣を振り上げ飛び上がった。
「きええええーー!!」
「くそっ!!」
「!!!!」
「!!??」
その時、突然ティグの目の前で爆発が起こり、兵士は吹き飛ばされ、他の兵士も後ろへ退った。
「な!? なんだ!? 魔法か!?」
そして爆煙が晴れると、そこにティグの姿はなかった。
「な!? くそ!! おい!! まだそう遠くへは行っていない筈だ!! 至急応援を呼べ!!」
「おう!!」
―― 裏路地
ティグは何者かによって裏路地へ連れ込まれていた。
「おいティグ! お前何やってんだよ!」
「!? コ、コイル!?」
ティグをガルイード兵から救ったのはコイルであった。
「お前一体今までどこ行ってたんだよ!! 心配したんだぞ!!」
「コイル……お、お前、その恰好……」
「え? ああ、これは、今年から一新生としてガルイード兵の訓練兵になったんだ。 さっきのは最初に三つだけ配布される魔法弾だ、そんなことより! お前今大変な事になってんだぞ! それなのになんも考え無しに兵士と揉めるなんて、相変わらず無謀過ぎんだろう!」
「いやだって、あれは……はっ! それよりコイル! 母さんは!? 母さんを知らないか!?」
ティグはコイルの肩を掴み詰め寄った。しかしコイルは神妙な顔で冷静にティグの手をほどき話した。
「お前のお袋さんは……サオさんは捕まったよ……」
「な!? 捕まった!? 誰に!? まさか、また兇獣に!?」
「違う、ガルイード軍にだ……」
「ガ、ガルイード軍に!? な、なんで!?」
「いいから、一旦落ち着けって!」
コイルはティグに落ち着くよう促した。
「あの日、サオさんが兇獣にさらわれてから数か月後、サオさんは突如兇獣と共にガルイードに現れたんだ」
「き、兇獣と?」
「ああ、それも普通じゃない兇獣だった……俺でもわかるくらい強大で、禍々しいオームを秘めていた……」
「……そ、それで」
「その兇獣はサオさんを一人置いてガルイードを去った。サオさんは無傷で生還したらしい」
「…………母さん」
「しかしその後、国の大臣クラル大臣によって捕えられ投獄された」
「と、投獄!? な、なんでだよ!?」
「あの兇獣達に捕まって、その後無傷で帰って来たんだぜ? しかもとんでもない兇獣と共に、サオさんは兇獣と暗躍していると思われている」
「そ、そんな!?」
「それだけじゃない!!」
「!?」
「お前が居なくなったのも、兇獣と繋がっているからだと……お前の親父さんも、人間の裏切り者だって…………」
「と、父さん……?」
「なあ、とにかく……今兵士と揉めんのは得策じゃないよ! 一回冷静に考えて、俺はお前が人間の裏切り者だなんて思っちゃいないから! 一旦落ち着いて、国のお偉いさんとちゃんと話し合おう! きっとわかってもらえるって! こんなことしてたら、どんどん状況が悪化するだけだ!」
「…………」
ティグは今までの国衛軍の自分に対する嫌な対応を思い出していた。
「いや……奴らは聞く耳なんて持っちゃくれない……」
「え?」
そういうとティグは立ち上がり、コイルに背を向けた。
「母さんは俺が助ける」
「な!? ……く、くぅ……」
コイルは地面の砂を強く握り呟いた。
「……なんで、なんでお前はいつも…………お前が…………お前がそんなんだから……ハナは…………」
「!?」
ティグは振り返るとコイルに近寄り再び肩を掴んだ。
「ハナがどうしたって!? ハナになにかあったのかよ!?」
ティグがコイルを激しく揺さ振るも、コイルは力なく揺れているだけだった。
「おいコイル!! なんとか言えよ!! ハナに何があったんだよ!?」
「………………いなくなったよ……」
「え……?」
「お前が王国を出て数週間後、ハナも姿を消した……」
「な!? なんだって!?」
「あれからもう二年近く経ってんだぜ……? 恐らくもうハナは……」
「ハ、ハナ……」
――――
「こんな道端でなにを大騒ぎしてんのよみっともない、まったく、これだから男子は……」
「なんでサルバ隊長にあんたの素質を決められなきゃなんないのよ! サルバ隊長がなんだってのよ!」
「今日はこれくらいにしといてあげるわ! また明日も明後日も、私達を倒せる様になるまで続けるからね! 覚悟しなさい!」
「だったら少しはあたし達を信じなさいよ!! あたしたちがきっとあんたは強くなって帰ってくるって信じて送り出すように!! あんたも少しはあたし達を信じなさいよ!!」
――――
「…………っくうっ……!」
ティグは再び立ち上がるとコイルに背を向け歩き出した。
コイルはうなだれたまま呟いた。
「おい……どこ行くんだよ……」
ティグは足を止めた。
「……母さんを助け出す、そして、そのあとハナを探しにまた王国を出る」
するとティグの肩に手が乗った。
「……!!!!」
コイルはティグを殴った。
「いい加減にしろよ!! お前の!! お前のその自分勝手な行動で!! どんだけ俺達が振り回されてると思ってんだよ!! お前は!! お前は!!」
コイルは何度もティグを殴りつけた、そしてティグは黙って殴られ続けた。
「なんでぇ……なんでお前は……俺も……ハナも……お前を……ふうぅぅ……」
コイルの拳にはどんどん力が無くなり、コイルはその場に泣き崩れた。
「うう、うわああああ!!」
ティグは顔から血を流しながらも、コイルの肩を掴み上げ、真っ直ぐに目を見て話した。
「コイル、大丈夫だ、ハナは生きてる! 母さんを助けた後、俺と一緒にハナを探しに行こう! 絶対に! 絶対にハナは生きてるから!!」
「ティ、ティグ……お、お前っく、くうぅぅ…………」
ティグはコイルをその場に座らせ、背を向け前を向き歩き出した。
次回第69話【混雑】




