第64話【昇進試験】
見かねたラリィは二人を止めた。
「ちょっとちょっと、二人共やめてください! 今そんなこと言い合ってる場合じゃないですよ!」
「ちっ!」
二人は離れた、そしてサムがウィザードへ問いかけた。
「隊長、どうします?」
ウィザードは暫く考えた。
「ガルイードへ行こう……そのサオという女に会って話を聞く、兇獣殲滅におけるなにか重要な手がかりを持っているかもしれない」
それを聞いたザックはまた毒づいた。
「なんでえ、今度は女探しかよ、そんなの全員で行く必要ねえよ! 隊長! 俺ぁ行かねえよ! スカールの手がかりでも探すよ!」
するとウィザードはザックを鋭い目つきで睨みつけた。
「ザック……私の言うことが聞けんのか?」
「う、じ、冗談すよ……ガルイードっすね、行きます行きます、行きますって」
「……サム」
「はい」
「お前が指揮を務めろ」
「え? 隊長は? 行かないんですか?」
「私は別件で用がある、お前らで先に行き、サオという女から話を聞き出せ、私は用を済ませてから合流する」
「お一人で大丈夫ですか? 誰かお供させますよ?」
「いや構わん、お前ら全員でガルイードへ向かえ」
「わかりました、ウォルとローガンへの指示はどうしますか?」
「あの二人はそのままカーガモゥで待機させろ、スカールが戻ってくるやもしれん、それでいい」
「はい、わかりました」
「ではわたしは一足先に出る、お前らも支度を済ませたら出立しろ」
ウィサードはそういうと一人で小屋を出て行った。
するとラリィがサムに話しかけた。
「隊長って……年に一回くらいで必ず一人行動しますよね? 一体なにしてるんですかね?」
「うーんなんだろうな、秘密の特訓とか?」
ザックが笑いながら話した。
「へっ、隊長だって女だ、おおかたどこその男と密会でもしてんだろうよ」
ラリィが答えた。
「まさかぁ……」
そしてサムがみんなに声を掛けた。
「まあとにかく、隊長がどうあれ俺たちは与えられた指示通りに動くだけだ、準備を整えて早くガルイードへ向け出立しよう」
そうしてサム達もガルイードへ向けカナッツを出立した。
――ガルイード王国
スクラードとの戦いを終えて帰還したオルト隊の兵士達は、一ヶ月程の休暇を与えられ、それぞれに過ごしていた。
そしてフィルはというと特に休むこともなく、オルト隊屯所にて訓練をしていた。
(あのスクラードと言う兇獣……前段階でオルト隊長がかなりのダメージを与えていたからこそああして戦えたが、もしスクラードが全快の状態で戦っていたら、間違いなく勝てなかった…………くそっ! もっと、もっと強くならなくては! 強く!)
フィルはサガネを振り続けた。
「よう、フィル」
そんなフィルに声を掛けたのはドリルであった、ドリルは左足に義足を着け、杖をついていた。
「ドリルさん……」
「みんな休暇で遊び呆けてるってのに、お前さんは相変わらずだな」
「……ドリルさんこそ、家には帰らないんですか?」
「俺は帰る家も家族もねえからな、オルト隊屯所が家よ」
「そうですか…………」
フィルはドリルの義足を見た。
「足……大丈夫ですか?」
「あん? ああ……んまあ、当分は不便だろうが仕方がねえ、慣れりゃあ杖はいらなくなるらしいし、それにこれで堂々と援軍に行かんで済むんだ、俺としちゃあ万々歳よ、もうあんな怖い思いしたくないからな!」
ドリルは少しおどけて話した。
「ドリルさん……」
「暗えなぁお前は! なあに、俺の代わりにお前さんという心強い仲間が入ったんだ、俺は安心してここでみんなの帰りを待ってるよ!」
その時、オルトが現れ声を掛けた。
「そのことだが……」
「オルト隊長」
「フィル、お前純兵の昇進試験を受けろ」
「純兵の昇進試験……」
【ガルイード国衛軍階級】
一新生 訓練兵 十三才
二新生 訓練兵 十四才
三新生 訓練兵 十五才
入隊
一新兵 十六才
二新兵 十七才
三新兵 十八才
三等穂兵 昇級制
二等穂兵 昇級制
一等穂兵 昇級制
三等衛兵 昇級制
二等衛兵 昇級制
一等衛兵 昇級制
純兵四騎 試験制
純兵三騎 試験制
純兵二騎 試験制
純兵一騎 試験制
ドリルが反応した。
「おお、すげえじゃん、ただでさえお前の歳で三等穂兵だって事自体ありえねえのに、衛兵すっ飛ばしてさらにその上かよ?」
しかしフィルはあまり嬉しそうな顔をしていなかった。
「ん? なんだよフィル、嬉しくねえのかよ?」
「自分は……自分はまだ昇進は考えていません、それよりももっと、もっと現場に行って実践を積みたいんです、昇進試験を受けるとなると次の援軍には参加出来なくなります、申し訳ありませんが……自分に見合わない等級を得ることより、今は何より援軍に参加することを優先としたいです」
「フィル……」
するとオルトは答えた。
「それがそういうわけにもいかねえんだよ、お前にはこれから現場で指揮をするようになってもらう、ただ、本来穂兵や衛兵には指揮権がねえんだ、もし指揮権の無い兵士が現場で指揮してるって事がバレたら、俺が大目玉を食らうんだよ」
ドリルがオルトへ問いかけた。
「んじゃあ今回の件は? 言わなきゃわかんねえんじゃないすか?」
「今回の件は…………死者が多いってこともあってすごく問い詰められたから…………嘘をついた」
「そうそう、そうすれば……」
「指揮を取ったのはお前ってことにした……」
「うええええ!? 俺っすか!?」
「うん、だってじゃないと俺、怒られちゃうもん、お前どうせもう現場出ないんだからいいじゃん」
「お、俺が……これだけの死者を出した援軍の指揮者……た、隊長でいいじゃないすか! なんでおれが!?」
「俺……遅れて行ってるのバレてるし、他の奴らは現役続行だし……」
「そ、そんなぁ……」
「まあまあ、だからこういうことにならないように、フィルにもしっかり純兵に昇格してもらって、気兼ねなく現場の指揮を取ってもらおうってことじゃねえか」
「うぐぐ……んんー……まあ、フィルを昇格させることには賛成ですけど……」
「だろ? だからフィル、しっかりたのんだぞ!」
そういうとオルトはフィルの背中を叩いた。
「…………」
そして複雑な表情をしているフィルにドリルが声を掛けた。
「まあ、実際あの荒くれ者をしっかりと指揮出来んのはお前くらいだからな、うちの大将は当てにならないし、ここはひとまず隊の為を思って一肌脱いでやってくれ……」
「ドリルさん……」
――数日後
ドリルはフィルに昇進試験を受けさせるべく、ガルイード城へと来ていた。
「試験の流れはわかってるな?」
「はい、剣技と魔法特性、その後組み手を行い、上位三名が昇格……」
「そうだ、まあ剣技と魔法特性は問題ないだろうが、今回の受験者にはトルド隊のジープがいる、あいつと組み手で当たった時は注意しろよ、なんせあいつは素行の悪さ故に今まで昇進こそ逃してきたが、実力的には俺に匹敵する程と思って良い……」
「トルド隊、ジープさん……」
その時、一人の兵士がフィルへと声を掛けた。
「フィル!」
「!? トール副隊長!」
「久しぶりだなあ! どうだ調子は、元気だったか!?」
「はい、トール副隊長もお元気そうで!」
「お前も昇進試験を受けるんだって? ずいぶんスピード出世じゃないか、まあ、お前の実力なら納得ではあるがな」
「いや……これにはいろいろと訳が……そ、そういえば、サルバ隊長は? サルバ隊長は元気ですか?」
「ああ、もちろん元気だよ、いつもお前の話ばかりしているよ、気になってしょうがないんだろうな」
「そうですか……」
「まあ、うちからも数人受けるから、お手柔らかに頼むよ」
「こ、こちらこそ」
そういうとトールは奥へと歩いていった。
ドリルはフィルに声を掛けた。
「あれがサルバ隊副隊長のトール・ダグラスか……」
「はい」
「やっぱサルバ隊は半端ねえな……副隊長クラスでうちのオルト隊長に匹敵してねえか?」
「ええ……実力は……ピカイチです」
「あーあ、副隊長であれって……サルバ隊長ってのはどんだけよ? ガルイード四大隊長の中でも群を抜いてるってのは嘘じゃねえみてえだな……」
「はい」
「てかお前……なんでそのサルバ隊を抜けてうちに来たの? 馬鹿なの?」
「それは……」
フィルは以前ガルイードに現れたバジムのことを思い出した。
「自分は、国内で対兵士相手に訓練をするよりも、国外に出て兇獣と戦う経験を積みたかった……ただ、それだけです……」
「ふーん……まあいいけど、とにかく組み手でしっかりと一位を獲得して、無事に昇進して頂戴よ!」
そうして二人は試験会場へと進み、フィルは剣技と魔法特性をなんなく合格してその日を終えた。
次回第65話【試験開始】




