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インヘリテンス2  作者: 梅太ろう
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第16話【泥】

「と、とにかく、今あんたはいざという時の為に、身体の回復の事だけを考えて、おばさんの件はあたしがこの後、国衛軍の駐屯所へ行って話をしておくから」


 ハナはそうティグに言い聞かせると、ベッドに促し休ませた。




 ―― ゼラル大陸南東カーガモゥ


 クラーケルはゼラル大陸南東の、カーガモゥにあるスカールのアジトへと降り立った。


「スカール様、サオとかいう女を連れてきました」


 クラーケルはサオをスカールの前に差し出すと、 いばら状のオームを解いた。


 サオはすっかりと憔悴している様子で、その場に腰を落とした。


「その女がサオ……か」


 スカールが椅子に座りながらも、鋭い眼光で覗き込むようにサオを見ると、 サオは怯えながらスカールの姿を見て何かを思った。


(メ、メザックの兇獣きょじゅう……ま、まさか……十年前にマハミを襲った……?)


 サオはスカールを睨み付けるように見た。


「ほう……」


 スカールがゆっくりと立ち上がると、サオはその巨体に再び驚き見上げた。


「なかなか気の強そうな女じゃねえか、気の強い女ってのは歯ごたえが良いからなぁ、嫌いじゃねえよ」


「わ、わたしに何の用があるっていうの!? あなた達はなぜ人々を苦しめるような事をするの!?」


「お前がガルイードにいると、ガルイード攻落の許可が下りねえからだ、人間を苦しめる事に理由なんてねえよ、単純に楽しいからやっているだけだ」


「そ、そんな……?? そ、それに、なぜわたしがいるとガルイードを攻めれないの?」


「理由は知らんが、大兇帝だいきょうてい様がお前がガルイードにいることを理由に攻落の許可を出さねえ……だったらお前がガルイードにいなけりゃいいってこった」


「だ、大兇帝だいきょうてい……そ、それは一体……?」


「ああん? お前知らねえのか? 知り合いじゃねえのかよ……? じゃあ、なんだって大兇帝だいきょうてい様はこんな女を気にしてんだ?? お前一体何もんよ?」


「そ、それは、わたしにも……」


「ふん……まあいい、とにかくまずはバジム様に報告だ、俺ではお前を兇獣きょじゅうにすることは出来ねえからな、バルム様にお前を兇獣きょじゅうにしてもらい、大兇帝だいきょうてい様に差し出せば、晴れてガルイード攻落の許可も出るだろう、そうなればいよいよあの城は俺様のもんだ!! グアーッハッハッハーー!!」


「そ、そんな……」


「おい、チェダー、俺はこれからバジム様の元へ行き、この女の事を報告してくる、その間、逃げ出さねえようにこの女をどっかに閉じ込めておけ、それと、ガルイード攻落の許可が出次第、即刻城を落としに行く、その時は総動員で出撃するから全兇獣兵きょじゅうへいにいつでも出撃出来る準備をしておくようにと伝えろ」


「はい、承知いたしました」


 そう言い伝えるとスカールは海辺へと移動し、海へと飛び込んだ。


 海へと入ったスカールはとてつもない速さで進み、バジムのいるクラスティック王国を目指した。


(ガルイードを落とし、城さえ手に入れれば、ついにこの俺様が最後の兇将きょしょうに滑り込みだ!!)

「グアーッハッハッハーー!!」


 スカールはどんどんと速度を上げ、一時間程でクラスティック王国までたどり着いた。




 ―― クラスティック城王室


「バジム様……」


「サグアか、なんだ?」


「スカールがバジム様にお話しがあると来ていますが、お通ししてよろしいでしょうか?」


「スカールが……? 通せ」


「はっ」


 しばらくすると奥からスカールが現れ、バジムの前に跪いた。


「どうしたスカール? ヴィルヘルムの奴らを捕らえたか?」


「いえ、奴らを捕らえるのはなかなか難航しております、いかんせん、どこでどう現れるかわからんもので……」


「なら何の用だ? くだらん用なら承知せんぞ」


「いえ、俺なりにガルイード攻落の許可が出ない理由はなんだろうと考えましてね」


「そんなもの貴様には関係ないだろう、今はガルイードよりもヴィルヘルムの方が優先だというまでだ、なにか不満でもあるのか?」


「え、いえ、滅相もない……ただ、どっからか風の噂で聞いたんですが、大兇帝だいきょうてい様がガルイード攻落の許可をお出しにならないのは、ガルイードにいるサオという女が理由ではないかと、と……」


 バジムの顔色が変わった。


「貴様……どうしてそれを……?」


「いや、へへへっ……部下に耳の良い奴がいましてね……まあ、そんなことより、バジム様、この俺にいい案があるんですよ……」


「いい案……?」


「ええ、へへっ、ガルイード攻落の妨げになっているのがそのサオっていう女なら、その女をさらって兇獣きょじゅうにしちまえばいいんですよ、それでそいつを大兇帝だいきょうてい様に差し出せば、大兇帝だいきょうてい様もお喜びになられますよ!! そいで晴れてガルイード攻落の許可が出て、ガルイードを落とせば、遂にこの大陸全土はバジム様の支配下となります!! どうです!? 良い案でしょう!?」


 バジムは黙って聞いていた、スカールは得意げに話を続けた。


「それでねぇ、バジム様、実は……そのサオとかいう女、捕まえておいたんですよ!! あとはバジム様があの女を兇獣きょじゅうにして、大兇帝だいきょうてい様に差し出せば完璧です!! そしてガルイード攻落の許可が出次第この俺がガルイードを陥落させれば!! 兇王きょおうバジムの誕生ですよ!! グアーッハッハッハーー!!」


「捕まえた……? そのサオという女を……?」


「ええ!! 今、俺の拠点のカーガモゥで幽閉しています!! さあバジム様!! 一刻も早くあの女を兇獣きょじゅうにして、大兇帝だいきょうてい様へと差し出しましょう!!」


 その時、スカールの顔に衝撃が加わり、スカールは王室の壁へと吹き飛ばされた。


「ぐわあ!!」


 吹き飛ばされ、壁に激突したスカールは倒れるが、すぐに顔を上げた。


「な! なにをしやがっ!?」


 バジムを見上げたスカールは凍り付いた。


「あ、ああ、あああ……」


 バジムは、とてつもない質量のオームを身体から滲ませながら、スカールを禍々しい眼で見降ろしていた。


「貴様……この俺の顔に泥を塗るつもりか……?」


「ひぃ、ひえ……滅相もございましぇん……」


 スカールは怯え切った目で答えた。


大兇帝だいきょうてい様は、ガルイードはまだ待てとおっしゃった、さらにはそのサオという女は大兇帝だいきょうてい様がご厚誼とされているお方……それをさらった……だと?」


「も! 申し訳ございませんんん!! し! 至急手厚く国へ送り返しますー!! な! 何卒お許しをー!!」


 スカールは床に這いつくばり懇願した、それをバジムはまるでゴミをみるような目で見ていた。


「ふんっ、貴様のような馬鹿は余計な事を考えず、ただ黙って言われた通り、ヴィルヘルム捕獲に努めれば良いのだ」


「ははーー!!」


「そのサオと言う女はそのままにしておけ、あとでこの私が自ら迎えに行く」


「しょ! 承知いたしました!!」


 スカールは逃げるようにして王室を出て行った。


 サグアがバジムへ話しかけた。


「バジム様、申し訳ありません、まさか聞かれていたとは……」


「……構わん、もしかしたら都合が良かったかもしれん」


「と、言いますと?」


「スカールの様な馬鹿が他にもいるやもしれん、女をガルイードへ戻した後、信頼できる兇獣きょじゅうをガルイードの周りに配置し、常に見張らせろ、大兇帝だいきょうてい様からの許可が出ん限り、ガルイードにも女にも絶対に手出しをさせるな」


「かしこまりました」


「……スカール……まがりなりにも大兇帝だいきょうてい様から直接オームを授かった兇獣きょじゅうだ……目を掛けてやっていたが、やはり器でないな……やはりあいつは所詮、士団長止まり……」


「では最後の兇将きょしょうは……」


「ああ、スカールが駄目だった今、五大兇将ごだいきょしょうを完成させるには、あともう一体、兇缺獣きょかくじゅうを作る必要があるな……」


兇缺獣きょかくじゅう

大兇帝だいきょうていからスクリアを授かった兇承獣きょせいじゅうが、そのスクリアの一部を分け与えることで生まれる、欠片かけらながらも スクリアを授かっているので、体内で自らオームを作り出すことが出来る。


「それではバジム様のスクリアが……大丈夫なのですか?」


「恐らくあと一体くらいなら、力にはさほど影響は出まい……」


「バジム様……どうかご無理はなさらずに……」


「構わん、とにかく今はヴィルヘルムをなんとしてでも探し出し、大兇帝だいきょうてい様に差し出すのだ、その上でガルイード攻落の許可をいただき陥落させる、そしてこの大陸にある五つの王国にそれぞれ兇将きょしょうを君臨させることにより、この大陸の支配を完了とさせるのだ!!」


「ははっ!!」

次回第17話【決意】

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