第1話【想い】
ゼラル大陸西部にあるアダプター王国は、数十体の兇獣による襲撃を受け、 陥落寸前にあった。
「国王様!! こちらへ!」
「うぐぐぅ……こ、このアダプター王国も……もはやこれまでか……」
「お気をしっかり!! 国王様はこの私が必ずお守りいたします!!」
「グゴガアアアア!!」
「き! 兇獣!!」
【ガラモ】
岩が人型になった兇獣、高い硬度を持ち、怪力で岩をも砕く。
「ぐぬぬぅ……はああ!!」
アダプター王国軍ナット隊長は剣を抜き、ガラモへと切りかかった。
「グゴガアツ!!」
数発剣撃を当てるも、ガラモの身体は傷一つ付かず、逆にナットの剣がボロボロになってしまった。
「くっ! くそっ! 硬すぎる! どこか柔らかい部分はないのか!?」
「グゴガアアアア!!」
その時、ガラモはナットへと拳を繰り出してきたが、ナットはそれをうまく躱していた。
「そ、そうだ!」
ナットは剣を構えると、 ガラモの拳を避けながらも、ガラモの大きな口へと剣を突いた。
「ゴボグゴオ!!」
剣はガラモの口を突き抜けた、そしてナットはその剣を上へ突き上げ、そのまま頭部を切り裂いた。
「はああああ!!」
さらにナットはガラモの頭上へ高く飛び、 ガラモの頭上から剣を突きさした。
「ゴブ……」
ガラモは倒れた。
「はあはあ……はあはあ……」
「うああああああ!!!」
「!!??」
ナットが国王の方を振り返ると、なんと国王は兇獣に腕を噛み千切られていた。
【ガルド】
ヒューマからなる兇獣、爪や牙は肥大し、 頭頂部から背中にかけて角のようなたてがみが生えている
「国王!!!!」
「ナッ!!」
その瞬間、国王はガルドに頭部を食いちぎられた。
「うおあああああ!!!!」
そして叫ぶナットの背後から、さらに兇獣が襲い掛かってきた。
【ワラミル】
水の兇獣、どんなものにでも形を変えることが出来る、 敵を体内に取り込み窒息させる。
「ごぼぼおお!!」
ナットはワラミルの体内に取り込まれ、成す術もなく意識を失った。
―― ゼラル大陸東部クラスティック王国
クラスティック城では、一体の兇獣が王室へと入って行った。
「バジム様……」
「ザグアか……」
【ザグア】
人型の兇獣、身体全体に赤い罅のようなものがある。
「先ほど、兇獣兵より連絡が入り、アダプター王国を陥落したとのことです」
「そうか……」
「これでゼラル大陸にある王国はガルイードを除き、ほぼ手中に収めたかと、ただ……」
「奴らか……?」
「はい、ヴィルヘルムと名乗る集団……先日も、フィフスの谷付近で、数十体もの兇獣が一瞬にして抹殺されています」
「…………」
「奴らは拠点を持たず、至る所に現れては兇獣を倒してすぐに姿を眩ますので、なかなか捕らえることが出来ません……」
「……放っておけ」
「は?」
「兇獣などいくら消したところでまた作ればいいだけのこと、この俺を倒さない限りは兇獣の侵略が止むことは無い、それに気付きここへ乗り込んで来た時、この俺が直々に始末すればいいだけの事だ」
「は、承知いたしました」
「それより明日、大兇帝様にガルイード攻城の許可をいただきにゲルレゴンへ向かう」
「おお、遂にですか」
「なぜガルイードだけ残せと言われたのかは分からないが、ここまでゼラル大陸の侵略が進んだ今、いい加減、攻め入っても良いだろう」
「そうですね、奴ら、我々が攻め入らないのを良いことに、着々と軍事力を高めているようですので、面倒なことにならない内に、潰しておいた方が良いかと思います」
「ふんっ、たかが人間如きが軍事力をいかに高めようと恐るるに足りんがな、 ガルイードの人間共だけぬくぬくと暮らしているのが気に入らん」
「おっしゃる通りで、ではお留守はお任せください」
バジムは窓の外を見るとふと考えた。
(しかし、テツ様はなぜガルイードだけ残せとおっしゃったのだろうか……)
そしてザグアが王室を出ると、そこにまた、一体の兇獣が現れた。
「ザグア様」
「スカールか……」
【スカール】
メザックからなる兇獣、 腕と足が生え、 巨体を誇り水を操る、十年前マハミを襲い、リブを殺した兇獣。
「バジム様はなんと?」
「ヴィルヘルムの件については、放っておけ……だそうだ」
「な!? なんですと!? 奴らさえ殲滅出来れば、もはやこの大陸は我らの手中だというのに?」
「ああ、そのうち向こうから現れるから、その時に手を打てば良いと、おっしゃっていたよ」
「そのうちって、そりゃいつですか!? 奴ら、この数年でどんどん勢力を拡大してますよ!!」
「バジム様がああ言っている以上仕方がないだろう、今いる兇獣兵でなんとかするしかない」
「うう、くっ……」
「それと明日……大兇帝様の元へ向かい、ガルイード攻城の許可をもらいに行くそうだ」
「おお! ついにですか!!」
「ああ、しかしそれこそバジムさまの留守の間に、ヴィルヘルムのやつらに攻め入られては面倒だ、くれぐれも周辺の警備を怠るなよ」
「は! かしこまりました!!」
そう言うとスカールはその場を離れた。
(へっへっへ……ついにあの城を落とせる時が来たか、あの城にはずっと目をつけていたんだ、 今までこの大陸で数え切れん程の村や町を落としてきたこのスカール様にこそふさわしい城だってなぁ……)
スカールは不敵な笑みを浮かべた。
(バジム様がお出かけなら……丁度良い……少しだけ……味見しちまうかぁ……)
スカールはさらに不敵な笑みを浮かべた。
――ガルイード王国
サオとティグは家で夕食を食べていた。
「ねえ、母さん」
「ん? なあにティグ?」
「父さんって、どんな人だったの?」
「んー……そうね……強くて……優しくて……探究心のとっても強い人だったわよ」
「へぇー……強かったんだー?」
「ええ、そして……正義感が人一倍強くて……自分の信念を持った人だったわ」
「兇獣とは? 兇獣と戦ったりしてたの? 強かったんでしょ?」
「…………」
サオは俯いた。
「母さん……?」
「お父さんはね……無益な争いは嫌いな人だったの……いくら兇獣といえども、命を奪うような事は考えないわ……」
「でも……襲ってきたら戦わないと殺されちゃうし、王国のみんなだって守れないよ?」
「そうね……」
サオは悲しげな表情を浮かべた。
「ご、ごめん母さん……母さんは戦いとか、争いとか好きじゃないもんね……で、でも俺はみんなを苦しめている兇獣達が許せない……今よりもっともっと強くなって、兇獣を退治して王国のみんなを守りたい……!!」
ティグは拳を強く握った。
「…………」
サオは、強く握られたティグの拳を、優しく包み込むように掴み、ティグの目を見つめた。
「ティグの人を守りたいって言う気持ち……お父さんにそっくり」
「え……?」
「ティグのお父さんも、私達を守るために必死で戦ってくれたわ、傷だらけで、ボロボロになりながらも、最後まで諦めずに戦っていたわ」
「父さんが……?」
サオはティグの頬に手をあてた。
「こんなに立派に成長してくれて……あなたは私の誇りよ……」
「母さん……」
「この先、あなたはあなたの道を歩いていく事になるわ……あなたはお父さんの子供だから、きっと正しい道を進んでくれると信じてる……」
「う、うん……」
「王国のみんなを守りたい?」
「うん!? 母さんや、王国のみんなを守りたい! もっともっと強くなって! 俺が必ずみんなを守ってみせる!」
「……」
――――
「必ず僕が守ってみせる!!」
――――
サオはアンジを思い出していた。
「ティグ……」
「…………」
サオを見つめるティグの目は、かのアンジと同じように、真っ直ぐで確固たる決意に満ちていた。
「…………」
サオは複雑な表情を浮かべながらも口を開いた。
「わかったわ……でも一つだけ約束して……」
「うん……なに? 母さん」
サオはティグの両手を取り強く握った。
「どんなことがあっても……必ず……必ず生きて帰って来て……あなたが守りたいと思う人もまた、あなたを守りたいと思っているという事を、忘れないで」
「母さん……」
ティグもまた、サオの手を強く握り返した。
「わかった! 約束する!!」
そしてサオはティグに優しく微笑んだ。
(アンジ……)
しかしその後、目を逸らせたサオは哀し気な表情を浮かべていた。
次回第2話【連絡】