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インヘリテンス2  作者: 梅太ろう
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第1話【想い】

 ゼラル大陸西部にあるアダプター王国は、数十体の兇獣きょじゅうによる襲撃を受け、 陥落寸前にあった。


「国王様!! こちらへ!」


「うぐぐぅ……こ、このアダプター王国も……もはやこれまでか……」


「お気をしっかり!! 国王様はこの私が必ずお守りいたします!!」


「グゴガアアアア!!」


「き! 兇獣きょじゅう!!」


【ガラモ】

岩が人型になった兇獣きょじゅう、高い硬度を持ち、怪力で岩をも砕く。


「ぐぬぬぅ……はああ!!」


 アダプター王国軍ナット隊長は剣を抜き、ガラモへと切りかかった。


「グゴガアツ!!」


 数発剣撃を当てるも、ガラモの身体は傷一つ付かず、逆にナットの剣がボロボロになってしまった。


「くっ! くそっ!  硬すぎる! どこか柔らかい部分はないのか!?」


「グゴガアアアア!!」


 その時、ガラモはナットへと拳を繰り出してきたが、ナットはそれをうまく躱していた。


「そ、そうだ!」


 ナットは剣を構えると、 ガラモの拳を避けながらも、ガラモの大きな口へと剣を突いた。


「ゴボグゴオ!!」


 剣はガラモの口を突き抜けた、そしてナットはその剣を上へ突き上げ、そのまま頭部を切り裂いた。


「はああああ!!」


 さらにナットはガラモの頭上へ高く飛び、 ガラモの頭上から剣を突きさした。


「ゴブ……」


 ガラモは倒れた。


「はあはあ……はあはあ……」


「うああああああ!!!」


「!!??」


 ナットが国王の方を振り返ると、なんと国王は兇獣きょじゅうに腕を噛み千切られていた。


【ガルド】

ヒューマからなる兇獣きょじゅう、爪や牙は肥大し、 頭頂部から背中にかけて角のようなたてがみが生えている


「国王!!!!」


「ナッ!!」


 その瞬間、国王はガルドに頭部を食いちぎられた。


「うおあああああ!!!!」


 そして叫ぶナットの背後から、さらに兇獣きょじゅうが襲い掛かってきた。


【ワラミル】

水の兇獣きょじゅう、どんなものにでも形を変えることが出来る、 敵を体内に取り込み窒息させる。


「ごぼぼおお!!」


 ナットはワラミルの体内に取り込まれ、成す術もなく意識を失った。



 ―― ゼラル大陸東部クラスティック王国


 クラスティック城では、一体の兇獣きょじゅうが王室へと入って行った。


「バジム様……」


「ザグアか……」


【ザグア】

人型の兇獣きょじゅう、身体全体に赤いひびのようなものがある。


「先ほど、兇獣兵きょじゅうへいより連絡が入り、アダプター王国を陥落したとのことです」


「そうか……」


「これでゼラル大陸にある王国はガルイードを除き、ほぼ手中に収めたかと、ただ……」


「奴らか……?」


「はい、ヴィルヘルムと名乗る集団……先日も、フィフスの谷付近で、数十体もの兇獣きょじゅうが一瞬にして抹殺されています」


「…………」


「奴らは拠点を持たず、至る所に現れては兇獣きょじゅうを倒してすぐに姿を眩ますので、なかなか捕らえることが出来ません……」


「……放っておけ」


「は?」


兇獣きょじゅうなどいくら消したところでまた作ればいいだけのこと、この俺を倒さない限りは兇獣きょじゅうの侵略が止むことは無い、それに気付きここへ乗り込んで来た時、この俺が直々に始末すればいいだけの事だ」


「は、承知いたしました」


「それより明日、大兇帝だいきょうてい様にガルイード攻城の許可をいただきにゲルレゴンへ向かう」


「おお、遂にですか」


「なぜガルイードだけ残せと言われたのかは分からないが、ここまでゼラル大陸の侵略が進んだ今、いい加減、攻め入っても良いだろう」


「そうですね、奴ら、我々が攻め入らないのを良いことに、着々と軍事力を高めているようですので、面倒なことにならない内に、潰しておいた方が良いかと思います」


「ふんっ、たかが人間如きが軍事力をいかに高めようと恐るるに足りんがな、 ガルイードの人間共だけぬくぬくと暮らしているのが気に入らん」


「おっしゃる通りで、ではお留守はお任せください」


 バジムは窓の外を見るとふと考えた。


(しかし、テツ様はなぜガルイードだけ残せとおっしゃったのだろうか……)


 そしてザグアが王室を出ると、そこにまた、一体の兇獣きょじゅうが現れた。


「ザグア様」


「スカールか……」


【スカール】

メザックからなる兇獣きょじゅう、 腕と足が生え、 巨体を誇り水を操る、十年前マハミを襲い、リブを殺した兇獣きょじゅう


「バジム様はなんと?」


「ヴィルヘルムの件については、放っておけ……だそうだ」


「な!? なんですと!? 奴らさえ殲滅出来れば、もはやこの大陸は我らの手中だというのに?」


「ああ、そのうち向こうから現れるから、その時に手を打てば良いと、おっしゃっていたよ」


「そのうちって、そりゃいつですか!? 奴ら、この数年でどんどん勢力を拡大してますよ!!」


「バジム様がああ言っている以上仕方がないだろう、今いる兇獣きょじゅう兵でなんとかするしかない」


「うう、くっ……」


「それと明日……大兇帝だいきょうてい様の元へ向かい、ガルイード攻城の許可をもらいに行くそうだ」


「おお! ついにですか!!」


「ああ、しかしそれこそバジムさまの留守の間に、ヴィルヘルムのやつらに攻め入られては面倒だ、くれぐれも周辺の警備を怠るなよ」


「は! かしこまりました!!」


 そう言うとスカールはその場を離れた。


(へっへっへ……ついにあの城を落とせる時が来たか、あの城にはずっと目をつけていたんだ、 今までこの大陸で数え切れん程の村や町を落としてきたこのスカール様にこそふさわしい城だってなぁ……)


 スカールは不敵な笑みを浮かべた。


(バジム様がお出かけなら……丁度良い……少しだけ……味見しちまうかぁ……)


 スカールはさらに不敵な笑みを浮かべた。



 ――ガルイード王国


 サオとティグは家で夕食を食べていた。


「ねえ、母さん」


「ん? なあにティグ?」


「父さんって、どんな人だったの?」


「んー……そうね……強くて……優しくて……探究心のとっても強い人だったわよ」


「へぇー……強かったんだー?」


「ええ、そして……正義感が人一倍強くて……自分の信念を持った人だったわ」


兇獣きょじゅうとは? 兇獣きょじゅうと戦ったりしてたの? 強かったんでしょ?」


「…………」


 サオは俯いた。


「母さん……?」


「お父さんはね……無益な争いは嫌いな人だったの……いくら兇獣きょじゅうといえども、命を奪うような事は考えないわ……」


「でも……襲ってきたら戦わないと殺されちゃうし、王国のみんなだって守れないよ?」


「そうね……」


 サオは悲しげな表情を浮かべた。


「ご、ごめん母さん……母さんは戦いとか、争いとか好きじゃないもんね……で、でも俺はみんなを苦しめている兇獣きょじゅう達が許せない……今よりもっともっと強くなって、兇獣きょじゅうを退治して王国のみんなを守りたい……!!」


 ティグは拳を強く握った。


「…………」


 サオは、強く握られたティグの拳を、優しく包み込むように掴み、ティグの目を見つめた。


「ティグの人を守りたいって言う気持ち……お父さんにそっくり」


「え……?」


「ティグのお父さんも、私達を守るために必死で戦ってくれたわ、傷だらけで、ボロボロになりながらも、最後まで諦めずに戦っていたわ」


「父さんが……?」


 サオはティグの頬に手をあてた。


「こんなに立派に成長してくれて……あなたは私の誇りよ……」


「母さん……」


「この先、あなたはあなたの道を歩いていく事になるわ……あなたはお父さんの子供だから、きっと正しい道を進んでくれると信じてる……」


「う、うん……」


「王国のみんなを守りたい?」


「うん!? 母さんや、王国のみんなを守りたい! もっともっと強くなって! 俺が必ずみんなを守ってみせる!」


「……」



 ――――



「必ず僕が守ってみせる!!」



 ――――



 サオはアンジを思い出していた。


「ティグ……」


「…………」


 サオを見つめるティグの目は、かのアンジと同じように、真っ直ぐで確固たる決意に満ちていた。


「…………」


 サオは複雑な表情を浮かべながらも口を開いた。


「わかったわ……でも一つだけ約束して……」


「うん……なに? 母さん」


 サオはティグの両手を取り強く握った。


「どんなことがあっても……必ず……必ず生きて帰って来て……あなたが守りたいと思う人もまた、あなたを守りたいと思っているという事を、忘れないで」


「母さん……」


 ティグもまた、サオの手を強く握り返した。


「わかった! 約束する!!」


 そしてサオはティグに優しく微笑んだ。


(アンジ……)


 しかしその後、目を逸らせたサオは哀し気な表情を浮かべていた。

次回第2話【連絡】

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