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理事長の息子は権威を笠に着て練り歩く  作者: 大魔王ダリア
第一章 「想いの灰は見つからない」
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理事長からの依頼

俺は、今会議室にいる。臼間には種々会議室があるが、おそらく一般生徒には、最も縁のない、一度も踏み込むことのないであろう部屋。下手をすると一般職員でさえも。


理事会議室。用途は、まあわかるだろう。


俺ですら入ったことはなかった。さぞかし殺風景なのかと思いきや、生徒の古い写真や卒業生からの寄贈物である小物や甲冑が置いてあり、意外とユニークな部屋だ。甲冑は意味わかんねえけど。寄贈する意味も、会議室に飾る意味も。


部屋には五人の人間がいる。


俺。


雑賀柳一。


辰己祭。


知らない一年の女性徒。


そして、初鹿野政五郎。


「り、理事長先生。えっと」

会長が泡を吹きそうになりながら、要件を探ろうとする。俺たちは、朝っぱらから呼び出されたのだ。校内放送ではなく、わざわざ親父自ら俺を待ち伏せていた。会長も、訳が分からずに連れてこられたらしい。


「うろたえるな、辰己君。これから話すことは、極めて冷静に聞いてもらわねばならん。口外は厳禁だ。よいな」

一方的に話し始める。よいな、は確認ではなく強制だ。


「朝、ここにいる雑賀君・・・柳一君と葉詠君が理事長室の前で尋常ならぬ様子でうろついていた。どうも儂に話したいことがあっようでな。昨夜からとある仕事に追われていて忙しかったが、数分であればと許可した。だが、話された内容はとても聞き流せるものではなかった」


昨夜十九時ごろ、一年の女生徒、柳一の妹・葉詠と部活仲間の庄和望が学校の裏門から帰宅しようとしたところで、不審者に襲われたという。葉詠は一晩震えて眠り、翌日になって望のことを思いだした。兄に付き添われながら早めに登校して、見てしまったのだ。


校舎裏の一角に立ち入り禁止のテープが張ってあることを。そのテープに黒く書かれている「警視庁」の文字を。


親父が話し出す。

「昨夜、何者かが使用禁止の焼却炉を稼働した。二十二時頃に、気づいた職員が停止させ、中を確認したのだ。」











「中に、何者かの焼死体があった」



皆が、息をのむ。焼死体。おいおい。


「うぇ、えぇ、あ、ああ。そんな、望?そんな、望なわけないよね、そうだよね。兄さん。そうですよね、理事長先生!ねぇ!」

悲鳴のような声をあげながら、葉詠が声を絞り出す。


「被害者は、女性だそうだ。性的暴行を受けた痕跡もあるらしい。状況的にみて、庄和君とみて間違いないだろう」


「あああああ、あああ、あぁぁ、うぁぁ」

「葉詠!」

壊れた人形のように、狂い始めた妹を兄が抱き寄せる。痛々しい。居た堪れない。

会長も、言葉を失っている。くそっ、面倒くさいことになる気がするが、仕方ねえ。


「理事長。俺たちを呼んだ理由は?」

「うむ。本当は葉詠君に話してもらいたいが、あの様子では無理だろうな。はっきり言おう。犯人は、この高校の生徒だ」

「ッ!」

会長の顔がこわばる。妹も無残な顔をしている。だが、今は話を聞き出そう。

「何故、そう言えるんです?」

「葉詠君は犯人の顔も体つきも覚えていないそうだ。だが、抱き寄せられたとき、目の前の犯人の胸に「薊の校章」を見たという」

なるほど、な。目の前にあったのなら、いくら暗くてもそれは見間違えようがない。全国でも、薊の校章は珍しい。間違いなく、臼間の人間なんだろう。

雑賀兄妹を見やると、葉詠の左手首に鬱血の痕があるのが見えた。相当の力でつかまれたんだろう。

柄にもなく、こんなことでむかっ腹が立った。他人が傷つけられて怒りを覚えたのは、久しぶりだな。くそっ。

苛立ちを抑えて、親父と話を再開する。

「知っての通り、臼間の制服は転売、譲渡を厳しく禁止し、監視している。主要ネットオークションサイトは職員が日々調べ、波多野先生自身も目を光らせている。わが校の制服を着れるのは、わが校の生徒だけだ」

「卒業生は?高校の制服を取っておく奴がいても不思議じゃないでしょう」

「ないだろう。そもそも、裏門は事前に連絡を受けていないと、外側からは開けないようにしている。もともと業者用だからな。表門には監視カメラが死角なく作動している。怪しいものはいなかった」

「だが、裏門を通って帰宅する生徒がいるんじゃ」

「ああ、内側から開けるのは簡単だ。だが、扉は自重で閉まるようになっている。先ほど言ったように、外側からアポなしで通るのは厳しい」

「そうか・・・」

朝に生徒に紛れて学内に紛れ込み、どこかに潜んで夜に凶行に及んだ。って可能性はどうだろう。ありえなくはないが、生徒が犯人ではないと言い切ることはできない。要は親父は犯人が生徒なのかどうか、それを俺たちに探ってほしいのだろう。もしそうなら、悪評ができる限り収まるように動かなければならない。それで、手駒として使えそうな息子の俺と会長を呼んだのだろう。雑賀兄妹には状況説明をさせようとしたのだろうが、流石に無理がある。

「警察は?」

「被害者の身元が判明するまで、学校内の大々的な調査は待ってくれるよう依頼した」

依頼、ということはなにがしか渡したことになる。

「期限は?」

なら、「身元が判明」する日は決まっているはずだ。

「月曜までだ」

「はぁ?今日は金曜だ、ですよ。三日もなしに調べろっていうのか、いうんですか?」

「その通りだ。正確には今日中に粗方調べてもらいたい。あくまで登校日は今日だけだ」

「うげぇ」

まじかよ。まぁことが強姦殺人と死体焼却だ。大っぴらにしないとはいえ、いくら払ってもそれ以上伸ばすのは無理なんだろう。

「わかったよ・・・・・・誰か、怪しい奴はいないのか」

「いる。焼却炉がある現場には、八種類の靴跡が残っていた。一人は庄和君、一人は葉詠君だろう。残りは六人だが、あのあたりには数人でたむろしている不良生徒がいると聞いている」

「あ、あいつらか。すっかり忘れてたぜ」

いつも五、六人で固集まってる小悪党たちだ。理事長の息子として威儀を振りかざすうえで便利な奴らだから手懐けている。あいつらは馬鹿だが、女に襲い掛かって殺して焼き捨てるような残忍性、ある種の覚悟を持ち合わせているだろうか。

いや、ねぇな。

とはいえ、やってないとは言い張れねえ。第一に疑われるのは、奴らだ。


「初鹿野君。辰己君。これは、臼間の未来にかかわる一大事だ。全力で調べ上げてもらいたい。本日の授業はすべて免除する。捜査に専念してくれ」

くそったれ。俺が、刑事のまねごとをしなきゃならんとは。だが、やらなきゃならない。理事長の息子なら、臼間に在学しているうちはこういった依頼を拒否できない。無念だ。

犯人を見つけるのも大事だが、一番大切なのはどう落とし前を付けるかだ。落ち着くところに落ち着けば、解決しなくても構わない。


だが。


涙も流れずに、ただただ震えているだけの一年女子を見ていると、犯人にはしっかり制裁を下したいところだ。くそ、本当に、なんかこう、腹がむかむかする。


「聞きたいことはあるか?」

「焼却炉の鍵はどこで管理されているんだ」

「第二管理室の壁にかかっている。管理室には教員が一人詰めているはずだが、ほかの鍵もあの部屋にあるからこっそり持ち出すのは可能だろう。杜撰な管理体制には遺憾だ。改めさせよう」

「焼却炉自体は稼働するのか」

「うむ。撤去費用を惜しんだがために、こうなった。事が済んだら、すぐさま撤去する」

親父が考えているのは、対外への言い訳と善後策のようだ。捜査は、俺たちでやれということか。

「あとは、そうだな。当日第二管理室に詰めていた先生は?」

「あの日は桂間数弥先生だ」

「ああ、社会科の」

「話を聞いていいか?」

「うむ。話をつけておく。他には話を聞きたい職員はいるか」

「・・・・・・庄和望のクラス担任、とりあえずはそれでいい」

「わかった」

丁寧に話すのも疲れたため、口調はぞんざいになっている。もう、繕うのも面倒だ。これから最高に面倒なことをしょい込むんだから、気づかいしてる余裕はねえ。


「いくか。おい、会長」

「へ、あ。うんそうね。」

茫然自失としていた会長を立たせて、会議室から出る。会長は雑賀兄妹にすこし憐憫の視線を向けた後、暗い表情でついてきた。


「ねぇ、初鹿野君って・・・・・・」

「あ?」

「なんでもない。・・・・・・こともないけど、今はいいわ。すこし、いえかなり、混乱してるの。ごめんなさい」

「あ、そう」


俺も、他人のことを考えてる余裕はない。やることをやらねばならん。



先生から話を聞くのは後だ。

まずは、不良のリーダーに話を聞かないとな。

理事長を、仙人的な長老キャラにするか、いかつい武人タイプの爺さんにするか、迷いましたが、あえて風体を記述しないことにしました。年は食っていて、汚れた老人ですが、憎めないキャラにしていこうと思います。理事長は、汚れキャラですが悪役ではないのです。

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