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理事長の息子は権威を笠に着て練り歩く  作者: 大魔王ダリア
第二章 「憎悪の弾丸、狂愛の刃」
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狂犬乱武

はじめて戦闘を描写しました。


キャラの動きがわからないとか、何か動きに矛盾があるとか、いろいろございますでしょうが精進してまいりますので容赦ください。


追記

おそろしい矛盾がありましたので、修正致しました

沖田が突進してくる。


受け止めることなんかできやしない、そんなことをすれば宙を舞う。

脇に飛んで避ける。沖田も追ってはこない。沖田の狙いは俺と雛が潜んでいた物置き場、そこに置いてある角材だろう。



沖田忠兵衛。

外道坂に連れていかれたあの日、安永から耳打ちされた情報は、沖田の素性についてだった。


通称「狂犬の忠兵衛」。

四年近く前に壊滅した暴力団「狼巣」の組員で、ほぼほぼ抗争用の特攻兵器と扱われていたらしい。

得物は鉄棒や角材など、その場で調達する。時には味方すら巻き込んで暴れまわるその凶暴さは誰もが恐れており、敵味方合わせて狂犬の餌食になり落命した者は二十を超えるという。

ある時、縄張りを荒らした闇金のビルに殴り込んだ際に、用心棒二人を薙ぎ倒すと同時に指揮を執っていた組長の息子まで殺してしまい、組を追われた。

半月後、狼巣は原因不明の組長と若頭の死により解散し、その名も忘れられていった。

それでも警察の世話にならずにすんでいたのは、忠兵衛の手にかかる人間はすべて極道の人間、堅気を害したことはないからだ。


やくざ同士が殺しあってくれるのなら仕事が減ってありがたや。おまけに調停の際には臨時収入まで入ってくる。

安永は、そう言って愉快そうに顔を歪めていた。最初から歪んだ造形だから表現はしにくいが。


とにかく沖田は固くて太くて長いものを我武者羅に振り回して周囲を破壊しつくす、それが沖田の戦闘スタイルとのことだ。



「ひゅうううぅぅっ」


口笛か、昂奮で息が漏れているのか、熊村が妙な音を漏らしながら三割の大釵を鳩尾に向けて突き込んできた。


「おりゃあ」


僅かに体をひねり、突き込んできた腕をいなす。少し体制が崩れたところに、背中のベルトに挿していた短刀を抜き手の甲を切りつけた。


「ぎゃっ」


思ったより深く入ったな。ガキだと思って舐めてたんだろうし、武器を背中に隠していたことにも気づかなかったんだろう。

だが、傷を受けたことで覚醒したんだろう、目がより細くなり、据わった。鴉のそれから、鷹のような斬獲者のそれに変化した。


「ひゅううううぅぅ」


来る。来る。

俺が隙を見せた瞬間に、来る。



じゃあ、隙を見せるまでだ。


「死ねええええぇぇぇきぇええええええぇぇぇ!」


より洗練された一撃を見舞おうと走り寄る熊村。今度は胸を狙ってくる。

横には避けない。

後退もしない。




足の力を抜き、その場に倒れ込んだ。



直後、血の雨が降る。

顔に、体に、生暖かい液体が降り注ぐ。



ぱっと、立ち上がる。



「ふう、一人片付いちまったな」

「俺の前に立つからだ。参戦したのはあいつの勝手だ、文句は言わせない」

「別に俺は文句はねえぞ。そこの鴉がどうかは知らねえが」

「死人に口なしだ」


確かに、口なしだ。いや、顔そのものが原形をとどめていない。

俺が倒れ込むとほぼ同時に、背後に迫っていた沖田が五尺を越しそうな黒木の木材を振りぬいた。俺の脇腹を吹き飛ばすつもりだったようだが、哀れ熊村の顔を完膚なきまでに破壊することになった。

その遺骸は石の祠に激突し、ぼろきれのようになっている。


「じゃあ、次はてめえが口なしだぜ」

「ほざけ」


真上に振りかぶり、脳天を目掛け落としてくる。


「うおっ」


だいぶん余裕をもって避けたつもりだが、風圧で耳鳴りがする。とんでもない怪力だ、掠っただけで骨がもってかれる。


「くうりゃあっ。ほううっ」


くそ、意外と俊敏なうえに得物が得物なだけに踏み込めない。こちとら半尺もない短刀一つだぞ。


いつの間にか熊村が斃れている祠の近くまで後退してしまった。退路を断たれる前に抜けねえと・・・。


やや右に寄った一撃が来る。本能で、腰をかがめて左に避ける。



「うぎゃああっ。痛てえっ」



くそが、飛んできた石の塊が腰に直撃しやがった。

手を使って起き上がり転がるように駆けだす。


激痛で腰が伸びず、老婆のように不格好な前傾姿勢で沖田に走り寄る。


これが、最後のチャンスだ。


沖田は怪力だが、その体は人間のそれだ。

祠は粉々になって砂利と化している。それ程の力で叩きつけたんだ、奴の腕も相当痺れているはずだ。


走る。大した距離じゃないが、怪我と緊張のせいで万里の路にも感じられる。

沖田も、感覚のない腕を酷使して構える。流石に真上に振りかぶるのは難しいのか最初の一撃と同じ、横薙ぎだ。


だが、はるかに低い。先はしゃがんで避けたが、これだけ低いなら。



「ぬおおおおおぉぉぉ」

「ひょいっ」


跳んだ。腰の状態が状態だから不格好極まりないが、それでも衝撃は足の下を通り抜け、その風圧で更に浮上する。

そのまま沖田のそばを通り抜け、着地する。


事はできずに膝で着地して転がる。ここが森の中でよかった。土の地面だからそれほどの衝撃はない。

いや、腰が大変な悲鳴をあげているが、エンドルフィンの御蔭で動けないことはない。


沖田は片膝をついたまま微動だにしない。両手には角材を握りしめたまま、彫像のように静佇している。

蟀谷には、深々と短刀が突き刺さっている。脳髄まで届いているだろう。

沖田の肩に手をかけ、ぐぽっと刃を抜き取る。激しく血が迸ることはないが、青白い脳漿混じりの液体が泉のように湧き出てくる。


前触れもなく、その巨躯が揺らぎ、倒れた。死んでみると、その体も一回り小さく見えるから不思議だ。



「う、嘘だろ・・・狂犬の忠兵衛さんが殺られた・・・」

「わああっ、バケモンだ逃げろ!」


忘れてた。そういえば二人下っ端がいるんだ。


「ああくそ、流石に鬼ごっこする余力はねえぜ・・・」


まあ後から安永に拿捕させればいいか。雛を人質に取られる危険性もあったわけだから上々ってとこか。



だが、逃げ去った下っ端の一人が吹っ飛んできた。白目を剥いて泡を吹いている。



「痛い、くそぉこのアマあああぁぁ放せよぉぉ」


もう一人も捕らえられてきた。


「お前らは・・・なんでここに」


全く予定してなかった、二人の登場。



「初鹿野さん!ひでえ怪我してるじゃねえっすか、だから俺も一緒に行くって」


がちゃがちゃうるせえなあ。

言わずと知れた石田角之介だ。


だが、もう一人はそれ以上に意外な人物だ。


「暴れるな。仕方ない、少し意識を手放してもらうぞ」


鮮烈な肘鉄を首筋に決め込み、意識を刈り取った女。

長い黒髪を後ろに束ねて、切れ長の鋭い瞳を向けてくる。


「富永・・・これは読めなかったぜ」


富永懐希。我らが臼間高校の生徒会副会長。いや、俺も最近知ったんだが。


「ふん。生徒会室にこの男が駆け込んできたときには驚いたぞ。祭や尖華の貞操を狙う狂人が現れたのかとな」

「へっ。流石に【麗剣士】様だぜ。扉を開けた瞬間に手裏剣が飛んできやがった」

「それは剣士じゃなくて忍者じゃねえのか、あっとっと」


ああ、今頃になって腰の激痛が蘇ってきやがった。尻もちをついて呻く。


「これは・・・全て貴様がやったのか?」


富永が俺を見下ろして言う。


「ああ、まあそうなるな。それより、おまえらはどうしてここに」

「祭から連絡があった。お前が春染のどこかで何者かと殺しあっているから、死なせないようにしてくれとな」

「俺は、いつもの所で林檎喰ってたらなんか裏門で喚いてる女がいやがったんすよ。午後の七時過ぎにですぜ。これを渡されて、初鹿野君を頼む、って言って走っていきました。火ノ鳥の制服着てたっすけど、知り合いすか?」

「それは・・・」




間違いない。俺が書いた、五通目の手紙だ。


「しかし、なんで会長が・・・いや、不思議でもないか」



この手紙は、まあ遺書みたいなもんだった。死ぬつもりは全くなかったが、生きて帰れる保証もなかった。



だから、もし死んだら約束を破って悪い、とそういう内容を米津美音に送っといたんだが。




「美音も会長も、近隣の学校の生徒代表同士だしな。交流があっても不思議じゃない、か」



火ノ鳥は女子高、荒事の頼りになる人物はいないだろうし俺を助ける義理があるやつもいない。一方臼間には俺の配下がいると思い込んでいる。実際には石田は配下じゃないんだが、とりあえず助かったのは確かだ。

人脈の厚そうな会長に頼るついでに石田の事を聞き出して、その足で臼間まで走ったのか。


そして石田は奇しくも会長に協力を要請しに行き、冨永と走り回ったとの事だ。


「すごいな。この大男を相手にしていたのか・・・祭の見込み通り、気骨はありそうだな」

「しっかし、俺らが来なくても解決したみてぇですね、余計なお世話でしたか?」


妙に感心している富永と、不安げに見てくる石田。




「全く余計じゃねえよ。こっちは立ち上がることもできやしねえんだ。ちょいと担いでくれや」




「了解っす!」




石田に担がれて、血なまぐさい森を後にした。後の始末は安永がやってくれるだろう。



思えば、数々の血が流れた。



赤い雲を噴いた少年少女。


外道坂でめった刺しにされた男二人。


背から血を噴き零す鴨。


血の帯で彩るつがい鳥。


顔を破砕された熊。


蟀谷から血の泉の犬。



数多の血が、命が流れ落ちた。

それは残忍な父親のエゴであり、凶暴な暗部の自業であり、糞みたいな芝居を立てた俺の呵責でもある。



だから、目の端に彼女の姿を捉えた俺の心は、少しだけ救われた。



「ありがとうございました」



ただ一人、血を流さずに綺麗な姿を保った雛が、深々と頭を下げていた。

ということで、唯光君の相棒となるのは石田と懐希様です。

石田は先にちらっと示したように棒術の遣い手、懐希様は麗剣士ですから剣の遣い手です(手裏剣を用いた理由は、すぐに示されると思います)


次回、後日談。


美音ちゃんと、うふふ。

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