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理事長の息子は権威を笠に着て練り歩く  作者: 大魔王ダリア
第二章 「憎悪の弾丸、狂愛の刃」
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死んで生まれる愛もある

愛が生まれ、死にました。


何気にこの話の中でここまで真剣に愛を描写したのは初めてですね。

ラブコメを掲げる以上、すべての物語に愛は絡んでくるようにします。


サブタイトルの元ネタは Some men are born posthumously です。捻りがなくてごめんなさい。

何が起こっているんだ。


全くついていけない。


鴨蔵からの手紙で呼び出されたと思ったら、殺されそうになった。


口封じの仕掛けかと思ったら、鴨蔵も手紙で呼び出されたといった。しかも、俺からの。


もうだめかと思ったその時、闇を震わす絶叫が響いた。


鴨蔵が斃れ、本能が察知した。


逃げるなら、今しかない。


包囲を抜けて、逃げ去ろうとしたところで腕を掴まれた。


滑っている。血だ。血に濡れた華奢な手が、俺の腕を掴んだ。一刻も早く逃げ出したいのに、解けない。


「待ってください」


女か。女に触れられるのは何年ぶりだろう。いや、そんな事じゃない。


その声は、どこかデジャヴを感じる、しかし聞き覚えのないものだった。だけど、この感覚は、一体・・・



フードが脱げ、少女の顔が露わとなる。見覚えはない。




「なんなんだ・・・」


状況が、理解できない。俺は、何に巻き込まれているんだ。




「津和野さん。私、角川美鳥っていいます」

「あ、あ、ああぁ・・・」


我ながら情けない声が出る。いや、声にすらなってないな。仕方ない、ここ一年の間は殆ど加工盤と火薬としか向き合っていない、女の子と話すなんて無理がある。唯一のコミュニケーションが、弾丸だ。俺の憎悪を一方的に送り付けただけだからコミュニケーションではないか。


「津和野さん・・・」

「ひいいっ」


来るな、来るな。血が滴る包丁を握りしめた少女と臆せず会話できるような高等技術はないんだ、来るな。



「私、津和野さんを」



一歩。




「一目見た時から」




半歩。





「恋に落ちたんです」






抱きしめられ、少女の瞳が目の前に来た。










瞬間、理解した。





「お前が・・・」





少女の、美鳥の視線をじかに感じた途端に、俺をやわらかい幸福感が包んだ。




ふわふわと、浮いているような。





そう、まるで。




カップルを撃ち殺した時のような。






「あの感覚の正体は、君だったのか・・・」

「感覚ですか?」

「ああ、気持ちよかったよ・・・俺が弾を放つとき、いつも見てくれていたんだろ」

「はい!本当に素敵なお姿でした。見ているだけで、しあわせになれるんです」



俺を見てしあわせになる少女。

少女の視線でしあわせになる俺。



つまり。これは。




「相思相愛、か」

「では、津和野さんも・・・」

「ああ、君の視線が、俺を癒してくれたんだ。そうか、俺にもこんな繋がりが・・・」

「はい!私たちは、確かにつながっているのです」



ははは。


全てを賭けて、懸けて、駆けてきた意義があったんだ。


俺の弾丸は、確かに美鳥の愛を勝ち取った。愚かな勘違いはあったけど、それでも相思相愛を確かめ合えた。運命は、遂に行き着いたんだ。






もう、何も思い残すことはない。




鴨蔵の亡骸を見やる。懐から、拳銃が覗いている。屈んで、それを手にした。



「弾は入ってるな、よし」



「おい、何する・・・」


熊村が咎める。雰囲気に呑まれるうちに、これで俺が反撃してくると思ったんだろう。



馬鹿。俺が行く道は、もう決まってんだ。




銃口を側頭にあてがう。美鳥の目を見て口を緩ませた。


「いいか?これで、本当にいいんだな?」

「勿論です。津和野さんに、お供させてください」


紛うことない、純粋な愛の視線を向けて微笑み、手に持つ刃を白い首筋に添えた。



「ありがとう、愛してくれて」




鋭い銃声と、液体の迸音。


美鳥の首筋から帯のように命が迸るのが、この世の見納めだった。

きっと、美鳥の目にも俺の赤い雲が映っていることだろう。





これが、本当の恋だ。






恋とは、血を吐き骨を砕くような、塗炭の苦しみと悶絶躄地を味わって成すものなんだ。





その辛苦の中に、至上のしあわせを感じることが恋なんだ。

そのしあわせこそが愛なんだ。





あまりに暖かい愛に包まれながら、俺は死んだ。





死んで生まれる愛もある。









*******************


「美鳥・・・」


顔面蒼白で、朦朧とした意識の中虚ろ気に呟く雛。

正直見てて辛いものはある。



だが、俺に何かを言う資格はない。


この残酷な茶番劇の、下手な脚本を書いたのは俺なんだからな。



雛のズボンのポケットには、握り潰された手紙が、美鳥の上着にも同じく封筒が覗いている。

両方とも、税所に仕込ませた。角川邸に近づくのは大分渋っていたが、まぁあの老人にいうことを聞かせるのは難しいことじゃねえ。幸い、うまくやり遂げて高飛びしたようだ。恐らくもう国外だろうな。



美鳥の存在と性質を考え、鴨蔵の始末に一役買ってもらうと、そんな下衆な考えしか思いつかなかった。

津和野と美鳥がその場で心中することまでは予想していなかったが、止める気も起きなかった。恐ろしく純粋な狂愛の舞台に呑まれていたってのもあるが、二人が死んでくれたほうが後がやりやすいと考えたのも確かだ。


結局、俺は太陽に恥じない生き方なんてできやしない。


悲しみに暮れる少女に、声なんてかけられない。



だから、最後までとことん理不尽にやることにした。




「お前、よくも・・・」


野太い声だ。

巨漢が、怒りに赧顔している。


「組を追われて四年半・・・やっと定職につけたってのに、許さねえ。お前ら、手を出すな。こいつは、俺が殺す」

「へへへ、そうかい。沖田さんがそういうんなら、従いてえとこだが・・・俺も次々に邪魔が入ってムカついてんだ。邪魔はしねえが、参戦させてもらうぜ」

「勝手にしろ」



二人は、同時に走り出す。

どちらも修羅場の経験は俺とは比べ物にならねえだろう。どう勝つか。俺が死ぬのはなにも困ることはないが、この場には雛がいる。俺が連れ出した以上、俺が死ぬのはこいつらを片づけてからだ。





「いや、死ねねえな。まだ、果たしてねえ約束があったんだっけ」




明日から休日、いやもう日を跨いでるから今日か。

なら、明日には美音と幼馴染しなきゃならん。


約束一つ果たさずに逃げるのは、嫌だ。




「来いよぉ、狂犬!俺が始末してやる」



「うおおおおぉぉ」

「なめんなクソガキャァァぁぁ!」






鴨狩りの次は、狂犬退治だ。

次回は、とうとうアクションが入ります。


戦闘描写は初めてです。様々な本を読んで、躍動感あふれて思い浮かべやすい戦闘シーンを描けたらと思います。

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