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理事長の息子は権威を笠に着て練り歩く  作者: 大魔王ダリア
第二章 「憎悪の弾丸、狂愛の刃」
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鴨狩りの杜

定期試験により、更新が大幅に遅れてしまいました。赤熱の鉄靴を履いて踊りながら、お詫び申し上げます。


前半は慣れない三人称視点で。


後半は唯光視点です。

春染町には春染神社という社がある。


春染町の南東に角川邸がある神雨が位置し、神社は春染と神雨、更に神雨の北に位置する明念町の三境に立地する。明念町は火ノ鳥学院がある町だ。


春染神社の境内は七割方が森となっており、「春染の杜」と近所では呼ばれて親しまれている。山毛欅や槲が主樹で椎や椚木も高く聳え光を遮る、夏には避暑や虫取り少年に人気のスポットだ。


夏休みの時期には近所の学童が夜間に肝試しに来ることもあるが、流石に六月の今、その気配はない。



いまこの鬱蒼たる木々の下に、それも零時を越した真夜中に屯しているのは六人の男だ。


五人の男が、一人の若い男を半円状に囲み、正面には初老の男が難しい顔で唇をなめていた。



「な、なんですか。仰々しい・・・」


いきなり複数の人間に寄られ、狼狽したように声を上げる若い男。


津和野三代武だ。そのぼさぼさではねたまま固まっている髪や目の縁の脂から、ここ数日の生活環境がうかがえる。



「なんですか、だと。貴様、若造の癖をしてよくもこの角川鴨蔵に喧嘩を売ったものだ、その無謀だけは褒めてやろう」


初老の男が名乗り、横に控える巨漢に顎を向けた。そのままくいっと動かす。


「・・・」


巨漢は緩慢な動きで近寄ってくる。後ずさり逃げようとするが背後には祠があり動けない。回り込もうにも周囲は固められている。右手には小さな物置き場があるが、それ以外にはただ木があるのみだ。



「待って、くださいよ。俺はあんたの言うとおりにうまく片付けたじゃないですか。あんたらの配下になるのは断ったけど、情報だって何一つ漏らしちゃいないんだ。なあ、見逃してくれよ」


「戯けがあぁぁ!」


鴨蔵の怒声が響く。津和野が思わず飛び上がった。それどころか巨漢を除いた周りの仲間も驚いている。


「貴様、このようなふざけた手紙を送りつけてきおって何を吐かすか」


袷の袂から封筒を取り出し、苦々しげに放り捨てた。


「若造、儂を強請るとは愚か者が。高々二人を始末した程度でいい気になるな」

「けっ。こんなクソガキにやられたのかよ、妻書の野郎どもは。役立たずが死んだだけありがてえもんだなぁ、くけけっ」



鴉顔の小男が高い声で言った。薄くて長い目に、持ち前の短気さが溢れている。


熊村勝男。角川暗部に鴨蔵が派遣した目付役で、首領である沖田忠兵衛を御するために送り込まれた男だ。だが、性格は沖田に負けず劣らず残忍苛烈、他人を甚振り轗軻を喜ぶその精神は沖田のそれを越している。だが、そういった共通があるからか暗部内で沖田とまともに意思疎通を熟せるのは熊村のみである。


そして、発言の通り仲間に対しても憐憫など欠片も持ち合わせていない男だ。内輪では沖田よりも恐れられている。今も、熊村の発言に、下っ端の二人が追従の笑みを浮かべて頷いている。


津和野も熊村の異常性に気づき、ぐうっと息をのんだ。


「てて、手紙だって?何を言っているんだよ、手紙で俺を呼び出したのはあんたじゃないか!」


顫える手で上着のポケットから手紙を取り出す。熊村に放り投げた。


「あんだぁ、こりゃ」


乱暴に受け取った熊村が、鴨蔵に指示を仰ぐ視線を送った。そっと筋肉質な手を出し、寄越せと意を示した。



「・・・・・・同じ筆跡だ。謀られたか・・・」


呟いて、先ほどの手紙の上にまた放り投げた。一瞬迷うような表情をして、熊村に命令を出す。


「何者かに誘き出されたようだ。・・・とりあえず、この男を始末しろ」

「・・・」

「へへへ、了解だぁ!」


無言で丸太のような腕をまわす沖田。

三割の大釵を腰だめに迫る熊村。

下っ端もドスを構えてにじり寄る。


「ひ、ひいいぃ、助けて・・・」


「やれ」






深更の杜に、断末魔が響き渡り、樹々に木魂していった。





*******************



「な、何が・・・・・・」


どさり、と体が頽れた。



鴨蔵が、背中から血を吹き零して痙攣している。


そして、黒いフードをかぶった人影が、血に濡れた包丁を手に佇んでいる。


五人は、唖然とすることしかできずにいる。



「何者だ」


沖田が初めて口を開いた。


闖入者は、肩を揺らしている。泣いているようにも、笑っているようにも見える。


状況をいち早くつかみ、行動に移したのは津和野だ。

固まっている暗部の脇を走り抜け、捕まらずに包囲から抜け出した。遅れて、暗部たちの意識も戻る。



「待ってください」


逃げ去ろうとする津和野の腕を、少女の血まみれの手が掴む。


確かに、女の声だ。



「き、君は・・・どこかで・・・」


「ふふふ、お待ちしておりました・・・こうやって、お話しさせていただけるときを・・・」




その時、森の中を一陣の風が吹き抜けた。



フードが頭からずり落ちる。




少女の顔を見た瞬間、攻撃の構えを見せていた暗部が再び固まる。信じられないものを見たかのような目で、怯えてさえいる。






「嘘でしょ・・・そんな」

「こういうことだ。これが真相だったんだ。雛」




そして、更に新たな乱入。



初鹿野唯光と角川雛が、物置き場から姿を現した。




*******************


焼津進馬を射殺したのは津和野三代武だ。

それを命じたのは鴨蔵だ。

沖田や熊村は鴨蔵の暗部。

雛は焼津と交際していた。


焼津ー津和野

焼津ー雛

雛ー鴨蔵

鴨蔵ー暗部


これらの関係ははっきりしている。


ただ一つ、わからなかったのが


鴨蔵ー津和野


この繋がりがどのようにして生まれたかだ。


警察の知らない射殺犯の正体を知ったのは、誰かから情報を得たんだろう。警察よりも鴨蔵に情報を届けることを優先する、恐らくは会社か邸内の人間だ。そして、その人物は津和野の犯行を目撃したに違いない。


津和野の初犯行は藤沢市内の菖蒲沢だった。そこで、安永の奴に頼んで事件前後に菖蒲沢ないしその周辺に角川関係の人間がいなかったか調べさせた。膨大な作業だろうが、藤沢市警は名誉挽回汚名返上のために奮励し、ついに一人も商社内、邸内の人間を見つけ出すことはできなかった。報告を受けたのは税所を尋問してから二日後だ。




大方、予想通りだった。つまりは、俺の勘が当たってたってことだ。



津和野の存在を鴨蔵に伝えた少女。


その津和野が殺されそうになるのを、殺人をもって阻止した少女。


この事件に、未だ名前すら出ていないが、確かに存在していた少女。


鴨蔵に、ある意味誰よりも近いその少女の名は。




「嘘でしょう・・・美鳥、どうして」




「えへへへ、あたし、好きな人ができたの」





この凄惨な状況に全く似つかわしくないその発言と可憐な笑い声。


右手には赤い雫を垂らす刃物を携え。


満面の笑みで。




「お姉ちゃん、こんなところでどうしたの?」




『焼津進馬の交際相手は、角川雛。あの角川鴨蔵氏の「長女」だ』


『大丈夫ですよ。鴨蔵も、娘「たち」には未だにある程度に信頼を寄せてますから』


『安永、もしかしたら・・・』

『角川鴨蔵には、次女はいるか?』

『ええ、ええ。確かにいますよ』




角川美鳥。



不明だった関係性をつなぐ、最後の鍵の少女が、そこにいた。

はい。

幼馴染、意志の強いお嬢様、深海魚、と続いてラブコメテンプレキャラである妹が登場しました。


深海魚はラブコメに必要ないとか、妹って他人のかよとか、散々待たせた上に三千文字行ってないじゃないかとか、そもそも待ってねえよとか、いろいろな声が聞こえてきそうです。


それらすべての声に、焼け爛れた足の裏に塩を揉みこむことでお詫びいたします。


いたい。

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