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理事長の息子は権威を笠に着て練り歩く  作者: 大魔王ダリア
第二章 「憎悪の弾丸、狂愛の刃」
20/25

旧い平穏な日常、去り行く。新たな殺人、来たる

強大な敵に歯向かうことになっちまったが、ひとまずは普段通りの学生生活を送る。柳一が煩く、会長が煩く、葉詠も教室にまで押しかけてきた。この兄弟は俺に恨みでもあるんじゃないかと思いたくなるくらいに執拗に構ってくる。ああ、胃が痛い。心臓のあたりもじくじくしやがる。ここまで精神痛めつけられても暴力に及ばないあたり、俺が成長したのか、絆されたのか、とにかく辛いからやめてくれ。


「唯光~どうしたんだよ、いつもみたいな覇気がないぞ?」

「俺の覇気を奪い取ってんのは間違いなくお前らだ。おい、葉詠は何でいるんだ、帰れ」

「何を言うんですか。私は兄さんと話しに来ただけですよ」

「なら兄さんと話しゃあいいじゃねえか。会話の矛先が八割俺に向かっているのはどういうことだ」

「他意はありません」

「じゃあやめてくれ」

「わかりました。ところで唯光先輩、週末の予定はありますか?」

「何を理解したんだ、お前の頭は。他意ありまくりじゃねえか。週末の予定?んなもん週末になってみなきゃわからん」

「じゃあ、私と兄さんと祭先輩と一緒にお出かけしませんか」

「いかねえし、何で自然と会長の名前が入ってくるんだ」

「だって、初鹿野唯光を更生させよう委員会の会長ですから」

「やめろ」


ふざけた委員会は即座に解散だ。これ以上臼間に奇妙な団体はいらない、つーか会長自らSR部を設立して何になるんだ。


「いえ、部活では無く委員会ですよ。今は非公式ですが、いずれは正式な委員会として承認を求める方針で」

「断固拒否する」


親父に土下座をしてでも、活動を妨害してやる。まったく、何が悲しくてこんなことで理事長の息子特権を発動でにゃならんのだ。哀しくなる。胃がじくっと痛む。



独り心の中で抱腹絶倒(意味が違う)していると、教室の扉が開いて辰己祭が入ってきた。


「お邪魔するわ」

「お邪魔するな」

「葉詠さん、日曜日のお出かけはどこに行くか決まったかしら」

「いえ、これから唯光先輩たちと一緒に決めようと思っていたところです」

「そう。なら、鎌倉にでも」

「いえ、私は中華街へ」

「唯光と小田原城下町巡りをしたいな」


俺を見るな。ギャルゲの選択肢かよ、何一つ選びたくねえ、家でジェンガやってたい。


視線が痛い。何を言えば、一番面倒くさいことにならずに済む・・・?




ああ、そうだ。予定があればいいな。土日に何かをする予定はないが、逆に言えば作ればいいんだ、ここで。




「盛り上がってるようだが、俺には先約があってな」

「!」

「週末は火ノ鳥の幼馴染・・・じゃねえ知り合いと、幼馴染する予定があんだよ。残念だったな」

「?」

「とにかく、女と出かける予定があるんだ」

「⁉」


おい、そんなハトが焼夷弾食らったような顔すんなよ。地味に腹立つから。特に柳一。


「ってなわけで、週末は忙しい、朝から夜まで忙しい。わかったな」

「朝から」

「夜まで」

「どう忙しいんだよ、唯光」

「深掘りするな、いいから退いとけ。柳一、近い近いやめろおい」


思わず拳が出た。柳一が頭を押さえて唸っている。俺は、悪くねえよな?



俺の週末デート発言がかなり効いたようで、今日は比較的静かに過ごせた。これからは、毎週誰かとデートしよう。これを人は本末転倒と呼ぶ。








とまあ、このように物騒な事件のさなかであっても、初鹿野唯光の学生生活は、以前より数百倍姦しくはあるがおおむね平和に過ぎていくのだ。









なにが平和だ此畜生が。






*******************




下校。今日は会長が会長業務(生徒会だ。ふざけた委員会ではない。ないよな?)で忙しく、葉詠は華道部へ体験入部、柳一はまいた。いざ帰ろうとすると、途中で久しぶりに阿部喬平と出くわして数分会話して別れた。いや、人間の会話ってこのくらいがちょうどいいだろう。阿部のヒールボイスはもうすこし聞いていてもいいんだが。


とにかく、これでもう知人に絡まれることなく帰宅できるだろうと思い込んで正門を出たんだ。裏門を使うと石田達に出くわすから、避けた。




だが、校門を出た俺を待ち受けていたのは、絶望であり、胃の痛みであり、深海魚だった。




「お久しぶりです、坊ちゃん」

「ああ、本当だな、安永。相変わらず顔以外後から取り換えたような風采しやがって」

「はは、口が悪いですなぁ、坊ちゃん。いいですかな、顔が後からこうなったのですよ、体はもとからこうです。これでも若かりし頃は顔も蒼き狼のごとく凛々しかったのですよ」

「何がどうなれば、狼が鮟鱇に突然変異するんだよ。哺乳類が深海魚とか、退嬰もいいところじゃねえか」

「いいじゃあないですか、アンコウ鍋は温まりますし、捨てたものじゃないでしょう?」

「これから夏が始まるってのに鍋の話なんざ聞きたかねえや。おう、わざわざこんなところで待ち伏せして何の用だよ」

「まあ、歩きながら話しましょうや、坊ちゃん」



いつもは住宅街をまっすぐ突っ切り自宅へ着くのだが、今日は安永とともに雑草やはがれた舗装の目立つさびれた道を歩いている。


「坊ちゃん、この先には何があるかご存じでしょう」

「ああ、外道坂を上って下れば、雑巾町だ」

「ご名答」


雑巾町は、味原で一番治安の悪い溜まりで、本当の名前は澄田町なのだが誰もそう呼ぶ奴はいないし近づこうとするやつもいない。間違いなく神奈川有数のスラムだ。そして、俺が住む春染や臼間の生徒の大多数が済んでいる長木、高級住宅街である神雨など味原南部から見ると、雑巾町に入るための道には総じて勾配のきつい坂道があり、それらは総称して「外道坂」とよばれ、出入りは土地のやくざにより緩やかに監視されている。坂を下れば猥雑で饐えた臭いのこもる雑巾町、まさに雑巾のようなその悪臭は外道坂に囲まれた簡易的な盆地である地形と、住民の衛生観念の低さによるものだ。

ほぼ完全な自治が働いており、警察や行政もめったなことでは関与しない。重罪犯が逃げ込んだ時などは、引き渡しを命じることなどがあるが、基本的にはノータッチだ。むしろ、うまく付き合っていくばくか袖の下をもらっている連中がほとんどで、隣を泳いでいる鮟鱇なんかは最たるものだ。

ちなみに、雑巾町には揉め事を力ずくで解決する機関があり、それは屈強な男衆四十六人で構成されていることから、「外道坂46」と呼ばれて恐れられている。俺も、あの界隈は一回を除いてまともに足を踏み入れたことはない。



「おい、まさかあそこに連れ込む気か」

「そんなことはしませんよ。初鹿野先生に無断でそんなことをしたら、出入り差し止めになってしまいますよ、ぬへへへっ」

「じゃあ、なんだよ」

「そうせかさないでくださいよ、確かここら辺・・・あ、あそこですな」


そういって指さした先には、ビニールテープで簡易的に封鎖された、見覚えある空間が存在した。そう、半月ほど前の校舎裏のような。


「坊ちゃんは今、連続射殺事件と角川鴨蔵について調べてるんでしたねぇ」

「どこで知ったんだ・・・まあ、そうだ。で、それが何か関係あるのか」

「ええ。ここで昨日の夕方、二人の男が刺殺体で発見されました。一人は背中を四回に腹を五回刺されていましてね、もう一人も同じようにめった刺しですよ。警察では、一応怨恨の線で捜査してるんですがねぇ、この二人の身元があまりに胡散臭い」

「・・・」

「一人は妻書今次、もう一人は大北銀八といって、どっちも身分証明書の類を一切持たない怪しいやつでね、特定に苦労しましたよ。その上、懐にはリボルバー、幅広の短刀と物騒なもんを持っていてね」

「この界隈じゃ珍しくもねえだろ」

「まぁそうですがね。一応調べてみると、その拳銃の所有者名義は面白い人物でしたよ」

「誰だ」

「ぬへへっ、角川鴨蔵ですよ」

「何だと」


ここで、やっと話がつながり始めた。


「坊ちゃんがじれったそうなのではっきり言いますとね、妻書と大北は、角川鴨蔵の飼っている暗部の一員ですよ」

「そうか、そう来たか」

「そして、肝心なことですが、二人は雑巾町から出ていくところでした。これは、監視のやくざに金を掴まして訊いたから間違いないですねぇ。それも、武器を忍ばせて。いったい、何をしようとしていたんでしょうねぇ」

「まぁ、普通に考えれば何か汚れ仕事をしようとしたってところだろうな」



何者かを消そうとした、ないし傷つけて拷攻しようとした。そして、返り討ちにあったか、第三者に討たれた。

角川の暗部なら、その司令は鴨蔵の意思だったとみて間違いない。

今、角川鴨蔵が狙う人間としては、


角川雛:殺意を察知して

俺:協力者と嗅ぎ付けた

米津美音:同上

狙撃犯:口封じ


こんなところか。まあ逸平さんや親父にも飛び火するかもしれねえが、とりあえずこの四人だろう。

一番可能性が高いのは、角川雛だ。鴨蔵は百戦錬磨の悪党らしい。娘が怪しい行動をしていたらすぐ気づいてもおかしくねえ。


そして、何者がこの刺客を惨殺したか、だ。



「どうやらまだ、この事件には役者がそろっていないようですねぇ」

「ああ、そうみてえだな」

「とりあえず、お気を付けくださいよ、坊ちゃん。射殺魔に、悪徳豪商に、刺殺事件だ。それに・・・・・・」


分厚い唇を近づけ、とある情報を耳打ちしてくる。



そうか。やはり、角川を相手取るには決死の覚悟がいるらしいな。









いや、覚悟だけじゃなく、それなりの作戦を立てなきゃならん。だが、安永の言う通り、役者がそろってねえ状況じゃ、なんともしがたい・・・・・・・・・・







あ。










「安永、もしかしたら・・・」


今度は俺が安永のてらてらした耳朶に顔を近づけて耳打ちする。



「ええ、ええ。確かにいますよ」

「そうか、それなら・・・あとは、美音から連絡がくりゃあさらに進むはずだ。そしたら、まず手始めにあそこから攻めるか・・・・・・」






自然と口からは哄笑が漏れ出た。何がおかしいのか、安永もつられて笑いだす。肩を怒らせて歩くチンピラと、高級スーツを身にまとった深海魚が、笑いながら歩くという外道坂であってもなお奇妙な光景が、落日の砂利道に繰り広げられていた。

というわけで、深海魚警察官登場です。この物語において、捜査の段階で唯光の支えになるのはこの男なことが多いと思われます。話が進むと、あの娘が関わることも増えてきますし、悪党への制裁には、既に登場したあの娘と、あいつが関わることになります。こちらは、この章のクライマックスで早速判明しますので、ご安心ください。


次回は、調査を終えた雛ちゃんから連絡が来て、最終確認のために大胆な行動に出ます。投稿は、恐らく月曜から水曜になるかと思われます。ただ、木曜日から定期試験が始まるので、いろいろとずれる可能性もあります、お許しください。

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