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理事長の息子は権威を笠に着て練り歩く  作者: 大魔王ダリア
第二章 「憎悪の弾丸、狂愛の刃」
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幼馴染

もうしばらく訪れる事は無いだろう、と思っていた。


理事会議室。一般生徒なら一度も訪れることのない部屋だ。


校内で起きた不慮の事件により数回訪れることになったが、それから半月そこらで再び足を踏み入れることになった。


「何の用だ」


当然、俺は不機嫌極まりない。昨日、急な腹痛で深更まで眠れずに呻吟していたのは親父も知っているはずだ。だというのに、朝の六時前に留守電が鳴り響き、話があるから早く登校しろと呼び出された。死ね。


「体調不良のなか呼び出したことは悪いと思う。唯光、とりあえず座れ」

「ああ、そうする」


親父が気を遣うということは、何か厄介ごとを頼んでくるに違いない。まさか、また校内で事件が起きたのか。

親父は、空咳をして話し始めた。


「唯光。近隣を騒がせている連続射撃通り魔のことは知っているな」

「ああ。おい、まさか、やられたのか」


思わず椅子から腰を浮かせて前のめりに質してしまった。声を荒げた後で、頭が急激に冷える。脳内でまたもや赤い雲が湧き出てくる。最悪の想像を無理やり押しのけて、話の続きを促した。


「どういう状況なんだ」

「水吹公園で、下校中のカップルが狙われた。死んだのは二年一組の生徒で名は焼津進馬。眉間を撃ち抜かれて死んだ」

「焼津、進馬か。知らねえな」




そうか、あいつらは無事か。





今日も朝から絡まれるのか、死ねばよかったのにな。はは。




「どうした?」

「いや、なんでもねえ。で、その焼津のお相手は誰なんだ?まあ多分知らねえ奴だとは思うが」

「ああ、それが今回の問題だ。そして、お前をわざわざ呼び出した理由でもある」

「こっちは一晩苦しんだあとなんだ、あんまりきつい仕事はごめんだぜ」

「そうか。とりあえず、話を聞いておけ。今回はお前に強制できる義理はないから、期限を決めないし断っても構わない」



「焼津進馬の交際相手は、角川雛。あの角川鴨蔵氏の長女だ」

「なんだと」


格差カップルというやつか。

だが、一つ疑問がある。


「角川雛って、うちの生徒じゃねえよな。流石に大会社の令嬢がいれば、俺でも知ってるはずだ」

「そうだ。角川雛は、火ノ鳥学院の生徒だ」


火ノ鳥学院。

近所にある私立の女子高で、貴族趣味な様式の校舎に、無駄に潤沢な予算で宣伝やイベントを催し県内のお嬢様を呼び寄せ、その寄付金でまた肥えていくという、典型的な地方名門女子高だ。多分に俺の偏見とひがみが入ってはいるが、あながち間違った表現ではないはずだ。

臼間とも緩く提携しており、表向きの交流はあまりないが両校間で個人的に交流したり合コンを組んだりすることは珍しくない。俺は、わけあってあまり近づきたくない。女は好きだが、女子高特有のあの臭いは嫌いだ。あまり女子高内に入る男子はいないから、わかるやつは少ないと思うが。

俺みたいなチンピラが、楽園とも花街とも聖域とも浄土とも表現される(石田談)女子高の校舎内に侵入できたのかというと、親父が原因だ。決して犯罪的な理由であの臭いを覚えたわけではない。


「火ノ鳥、ってことは逸平さんから何か頼まれたのか?」

「ああ、直接的には、そうだ」


火ノ鳥学院理事長職、米津逸平。東大卒のエリートで、教職であるとともに高名な経営学者であり、企業評論家でもある。


そして、親父の幼馴染でもある。


俺が幼児の時から高頻度で家に遊びに来て、将棋をさしたり、晩酌を共に酌み交わし、語り合っていたりした。特に記憶に残っているのが、棚から出てきたとある玩具を見つけた時だ。互い違いに木の棒を組んでいき、出来上がった木の塔から構成する棒を一つずつ抜いていく、単純だが案外盛り上がることで有名なジェンガだ。俺は、残念ながら他人と木の塔を崩す機会に恵まれなかったが、なかなかに盛り上がることは知っている。親父と逸平さんが、針を敷き詰めたような緊張感のもと真剣な表情でにらみ合い、燃えるような気攻めともに棒を抜き取っていく様は、まるで老剣客の果し合いのような迫力にあふれていた。とても、四十過ぎの男同士がジェンガをしている雰囲気とは思えなかった。通常の楽しみ方ではないと思うが、なんにせよ盛り上がる遊びなのは間違いない。何より、汚職に塗れて好きになれない親父に親しみを覚えられた。だから、俺は今でもジェンガという玩具が好きだ。時々一人で組んで崩している。


「直接的には、か」

「ああ。昨晩、電話があってな。逸平は、娘から雛の一件をどうにか調べてくれと頼まれたと言っていた。あやつは警察に任せておくつもりだと述べていたが、だいぶんきつくせがまれていたようでな」

「それで、どうして俺が呼び出されるんだ」

「一度、火ノ鳥に赴いてほしい。角川雛は、当然だがふさぎ込んでいるようでな。事情聴取もままならぬ様子だ。逸平はお前なら何か聞き出せるのではと言っていた」

「んな馬鹿な」


恋人撃ち殺されて、傷心中の女に俺が何かをできるわけがないだろ。それが引き金になって自殺でもされたらどうするんだ。


「正直、儂も期待はしておらん。だが、先方は明日にでも訪ねてくれと言っている」

「明日って、普通に平日じゃねえか」

「当たり前だ。学園の生徒を訪ねるのに休日に行っても仕方ないだろう。もちろん、その日の授業は免除だ。聴取が済み次第、勝手に帰宅してよい」

「ふーん」


なるほど、要は一日学校をさぼれるわけだ。本来は午後まで拘束される平日が、要求を受ければ、女子高に合法的に侵入でき生徒の一人と会話をして、終わり次第余暇を自由に過ごせるわけか。悪くねえな。女子高の臭いは嫌いだが、女子は大好きだ。少なくとも朝から蠅にたかられてストレスをため込むよりは建設的な一日の過ごし方だろう。昨夜の腹痛も、恐らくはあいつらのストレスが原因だろう。許さん。どうでもいいが、生理中の女性にストレスを与えてはいけない理由がよく分かった気がする。果てしなく気分が悪い中での蠅は、悪魔以外の何物でもないだろうから。生理中かどうかなんて見分けつかんからどうしようもねえがな。


「それなら、行く。明日、火ノ鳥だな。いつもの入り口から入るが、アポは確実にとってるだろうな」

「抜かりはない。万が一があっても、安永殿に話がついているから、事情を放せば解放されるだろう」

「おきやがれ。連行されるのはごめんだぜ。ってか安永も関わってるのか」

「ああ。というか、連続射殺事件の、味原市警の担当者の一人があやつだ」

「なるほどな」


味原市警捜査一課副課長、安永治右衛門。

すらりとした均整の取れた、細マッチョな体に市警の制服、上着には高級スーツ。首から下はいかにも仕事のできる公務員といったいでたちだが、首の上に乗っかっているその顔は一度見れば忘れることができない。彼の顔に一番良く似た生物といえば、鮟鱇だろうか。色も黒いし肌に不気味な光沢があるから、まさにといった感じだ。とにかく醜いを通り越して奇怪、魁夷な風貌だが捜査官としての腕は一流、そして親父が一目置くほどに隠蔽の腕も一流だ。焼殺事件の時、校内の捜査を待ってもらったときに交渉した相手も安永だ。

あれなら何かあっても助けてもらえるだろうが、正直関わりたくない相手だ。女子高内で捕まったなんて知れたら、分厚い唇を歪めて嗤うに違いない。


ふと、時計を見ると、授業開始まで残り十分もない。そろそろ戻らねえとな。明日さぼるわけだから、今日は真面目に出席しねえと、会長が煩い。


「おっと、そろそろ戻るぜ。明日は、直で向かうぞ」

「それでよい。まず、理事長室に逸平を訪ねろ。二人とも、会いたがっているそうだぞ」

「二人?おい、まさか、アイツも待ってんのか」

「知らぬ」

「おい」

「特段気にすることではなかろう。挨拶だけだろうし、捜査に支障はないはずだ。いいから、早々に戻りなさい」

「・・・・・・あいよ」



まじか、あれとまた会うのか。あれは、柳一とは別のベクトルにうざったいからな、気が滅入る。







なにせ、初鹿野唯光の幼馴染を詐称する奇人だ、精神異常者みたいなもんだ。相手をするのが、物凄く疲れる。





「はぁぁぁぁぁ・・・」




盛大な溜息をぶっ放す。廊下を歩いている数名が、反射的に身をそらせて退避した。いや、唸ってねえから。溜息一つつけない世の中に、溜息をつく。たとえ、すれ違うものに奇異の目で見られようとも。



俺も、大概奇人なんだろうな。











自虐しながら教室に入る。頭の中で引き合いに出したからか、今日の柳一は史上最高にうるさかった。死ね。

幼馴染、登場。親父さんの、と注釈がつきますが。

唯光君の幼馴染も、次回登場します。


そして地味に、唯光君を様々な事件に絡ませるためのキーマン、警察関係者が名前だけですが登場しました。何か刑事事件が起きた時、介入したり情報を得るためには必要不可欠な職種ですからね。これで、随分と動かしやすくなることでしょう。


次回は唯光の幼馴染?が登場、傷心の雛ちゃんに会いに行きます。傷ついた女の子に対し、半端な良心をもつチンピラはどう対処するのか、こうご期待!



しないで気軽に待っていてください。

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