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理事長の息子は権威を笠に着て練り歩く  作者: 大魔王ダリア
第二章 「憎悪の弾丸、狂愛の刃」
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水辺に弾けた赤い雲

第二章です。

前回よりもカタルシス要素が強くなっています。構成は七話程度を予定しています。

「またかよ・・・」

新聞をに目を通しながら、呟く。

なに不良が朝から新聞を読んでいるんだ、との声が聞こえてきそうだが、俺に言わせれば不良ですら新聞を読まなきゃ適応できないのが現代の社会だ。むしろ新聞すら読まずにSNSで真偽不明根拠脆弱な情報垂れ流したりそれを拾ったりしてるやつのほうがよっぽど不良だと思う。


とはいえ、俺も別に熱心に読んではいない。一面から国営企業労働関係法の新法案がどうだこうだと二、三面まで続き少し飛ばして経済欄に着地する。経済欄の一角には「津々浦々」という名の企業紹介コラムが設けられていて、今日は味原出身の企業が紹介されていた。「角川商社」といい、元は材木商だったものが不動産業に乗り換えて成功をおさめ、一大企業とはいかずとも県内有数の富豪に成りあがった経緯が記載されている。記事内の写真にはいかにも頑固そうな男の写真が載っている。角川鴨蔵。角川商社の五代目社長で、泡が弾けて傾いた会社を立て直した敏腕経営者・・・・・・である四代目角川駿五の息子であるとのことだ。なんとも微妙な立場だな。


だが、先の俺の呟きにこの初老の男は関係ない。経済欄に目を通し終わり、社会欄を開いたとき、こんな見出しが目についた。



【味原市内で射殺事件 連続殺人の被害これで四件】



これだ。近頃、何者かによる射殺事件が連続で起こっている。しかも、ゴールデンウィーク前に一件、最中に二件と相当なハイペースで行動しているから警察もてんやわんやだ。

先日、学内で起きた焼殺事件で賑わっていた記事やニュースは、この話題に持っていかれることだろうな。正確には学校の近所で帰宅途中の女生徒に乱暴をした何者かが校内に忍び込み、焼却炉の鍵を破壊して遺体を投げ入れ燃やしたという筋になっている。そこらへんの隠蔽工作、もとい辻褄合わせは親父が行った。それでもしばらくは警察の捜査の手をごまかし続けなきゃいけないと考えていたんだが、この騒ぎに紛れて追及も緩くなるだろう。油断はできねえが。


この連続射殺事件、標的になるのは決まってカップルだ。しかもデート中でいい雰囲気になったところに凶弾が飛んでくるという。同機は推して知るべしだが、この世にもてないこじらせ野郎はいくらでもいる。いや、案外犯人は女かもしれねえな。

被害者は一件目が男、二件目と三件目が女、今回は男と狙う相手に偏りはなさそうだ。

味原に凶悪犯罪の手がまたもや伸びてきたのか。いや、最初の犯行が確か四月の三十日(正確にはその事件が報道された日だ。当日ではないはず)、その後ゴールデンウィーク中に二件立て続けに起き、それから二週間以上空いて四件目だ。なんでだろうな。・・・・・・遠征気分か、地元だともう犯行を重ねにくくなったから西へ来たか、そんなとこだろう。


ちなみに味原市は東に藤沢、西に寒川、北には綾瀬と海老名南に茅ヶ崎という、南に行けば相模湾に近く藤沢を抜ければ横浜にも簡単に行けるという、要するに大都市圏に近い都市、大都市圏近郊都市だ。つまり都会でも田舎でもない中途半端に開発された町。まあ、俺みたいなもんだ。


それはさておき、新聞に再び目を向ける。殺害されたのは南田中に通う三年生の男子で名前は公表されていない。中学生が死亡したことで警察や関係者はコメンテーターや週刊誌などで雑巾のようにボロカスに言われているらしい。哀れなのは味原の警察だ。藤沢の所轄が文句を言われるのならともかく、一緒になって叩かれるとはな。寝耳に水、今も対応に大忙しだろう。公僕に感謝を。


この事件は県内だけでなく日本中の、まさに津々浦々の注目を集めている。そのきっかけのなったのが、某写真投稿SNSに載せられた写真だ。


タイトルは


【水辺の赤い雲】


藤沢市のどこかの河川敷で並んでいる大学生と思しき男女。その女の額からは血と脳漿が勢いよく噴出していて、その飛沫が落陽に照る川の流れと夕焼けの橙色とともに色づいている。本当に事が起こった瞬間らしく、隣の男は笑顔のまま歩いている。

この写真を投稿したのはどこかの美術大の学生らしく、当然物凄い反響を呼んだ。写真は秒速で削除されたが、ネットユーザーはコンマ数秒の世界に生きるもの。全国規模で拡散され話題となった。この学生の不謹慎さを罵る者、芸術性を掲げ絶賛する者、そんなことよりも犯人を捕まえろと叫ぶ者、網の上はいつも通りに混沌と方々の主義主張が喚かれている。ここで喚いてどうすんだ、て思う。思うが、それを書き込んだら俺もこいつらと同化してしまう。そういった思いから俺はあらゆるサイトに書き込みをしないことにしている。話していてむかつくやつが多いし、むかついても画面の奥じゃ殴れない。腹が立っても殴れないのは腹が立つから、書き込みはしないようにしている


んだが、やっぱり時々見ていると一言ぶつけてやりたくなる衝動はいったい何なんだ。どうせろくな意思疎通もできねえってのに。

あ、そもそもこうやって閲覧を続けていること自体が矛盾しているのか。


やばい、いつの間にか新聞を手放して画面に夢中になっていた。これじゃあ他人を馬鹿にできない。


三度新聞に視線を戻す。藤沢と味原の警察は合同で捜査に当たり、周辺の市町にも十分な警戒を呼び掛け、県警も動くそうだ。捜査関係者へのインタビューには軽い注意喚起が記載されていて、「自身の安全を考え、外出の際には危険の少ない場所を選ぶように心がけましょう」とある。まあ、流石に「恋人との外出は避けましょう」とはいえねえからな。危険の少ない場所つったって、普通に人がいる河川敷や公園で撃ち殺されてるんだから安全な場所は屋内だけだ。結局、犯人逮捕まで女と出かけないのが一番だ。


まあ俺には縁のない話だ。女遊びしようにも相手がいない。昔、中学時代の話だが、親父の立場を利用してある女子に体の関係を迫ったことがあった。確か、入試の際に便宜を図ってやるといったんだっけ。それに対してぞの女子生徒は、単純明快な策をもってして逃げ去った。志望校を変えたんだ。・・・・・・そりゃ、俺が理事長の息子やってる学校に入りたくねえよな。その後そいつが無事入学できたのかは知らない。

それ以来、俺は女に迫ったことがない。あの脱力感というか、さして抵抗もされずに手のひらから抜け出された感覚は大したものだ。

そんなわけで俺の身辺は安全だ。知り合いなんて石田達と会長だけだから、巻き込まれる心配も・・・


そこで、雑賀柳一と工藤篠芽の顔が浮かぶ。


あいつらはカップルじゃねえらしいが、殺人鬼の目にはどう映るだろうか。ああ、赤い雲をまき散らす柳一の姿が容易に想像できてしまう。


はあ、週明けに登校したら少し警告しとくか。




いや、別にあいつらが死んでも俺には何のかかわりもないんだが。だけど、なんか、このまま何も伝えずに死なれても寝覚めがわりいし。


心中で誰へともつかぬ言い訳をしながら、新聞をたたみぬるくなったコーヒーを嚥下した。

というわけで、二章一話です。

次回は週末くらいに投稿できたらと思っています

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