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理事長の息子は権威を笠に着て練り歩く  作者: 大魔王ダリア
第一章 「想いの灰は見つからない」
12/25

予期せぬ炎上

「な・・・」


皆が、これまでにないほど絶句している。

俺に告発された井筒は、これまで綽綽としていた態度を崩れさせながらも、刺すような視線を向けている。だが、言葉は発しない。どう反論するか、考えあぐねているようだな。


「どうして」

重苦しい静寂を破り口を開いたのは、会長だった。

「どうして、井筒先生なの?臼間高校出身なのは桂間先生じゃ・・・」

ああ、それか。

「思い出せ、会長。桂間の年を」

「確か、二十四・・・・・・あ」

「そういうことだ」

桂間は二十四。

そして、制服がリニューアルされたのは、十年前だ。

十年前の桂間は十四、中学生だ。

「そう。そうね。桂間先生が臼間に入学した時にはすでに新制服だったのね」

そうだ。そうなると、ほかの職員を探さなきゃならないんだが、その時に頭に浮かんだのが井筒が発したひとつの単語だ。


井筒は、桂間のことを「後輩」と形容した。


勿論職場の若者のことを後輩と呼ぶのは不思議じゃないが、妙に引っかかったから親父に依頼して調べてもらうことにした。


「井筒先生。この学校の中で犯人として当てはまるのは、あんたしかいねえんだ」

「は、はは。世迷言を・・・ひとつ、君は見落としているよ。いいかい、臼間の制服は転売譲渡を厳しく禁止しているが、それは新制服に限ったことなんだよ。旧制服を校内の誰かが入手して、凶行に及んだとしても何も不思議じゃない。そうだろ、えぇ?」


そう来たか。

だがな、それだけじゃねえ。別の視点からも、簡単に井筒が犯人と言う結論に至れる。

「足跡だ。現場に残った足跡は八種類。庄和、葉詠、石田達不良四人、阿部、そして残りひとり」

判明している七人は全員現役生徒だ。だから、残りの一人が犯人。

「八人目の足跡は、井筒、あんただ。もしあんた以外が犯人なら、あんたの足跡が九個目として残ってるはずだ。そうだろ、第一発見者の井筒先生?」


ちっ、と舌打ちの音が響く。

「だが、それだけではエビデンスとしては能力に乏しいぞ。足跡なんて、ふとした拍子に消えてしまったり崩れたりするだろう。本格的な科学捜査もしていないのに、無理がある。違うか?」


井筒も相当焦っている。どうせもう警察の手が入ってしまえば逃れられないが、学校がそれを防ぐことを当てにしている。実際、そう動かにゃならんから始末が悪い。


「じゃあ、調べようか」

まだ五月だ、夜は寒い。事件当夜は曇っていたし、どうせことに及ぶ際に服は脱がずにしただろう。

「なあ、先生。衣服にこびりついた唾液や精液って、すぐに洗わないとなかなか落ちないもんだろ?」

そして、ひとつ、井筒が完璧に失念していたことがあった。

「偶々会長に聞いたんだが、今、当直室の洗濯機が故障してるんだってな。仕方ないから手洗いくらいはしたんだろうが、それだけで人一人の痕跡が消えていると断言できるか?化学教師の井筒先生に是非とも聞きてえな」


「うぐ、くそぉがぁぁ。・・・・・・ああ、わかった、いいだろう。俺の服を全て調べさせてやろう。だがな、もし何も痕跡が出なかったらどうなるか、わかってるだろうな、えぇ?」

もはや、人のいい中年教師の面影は少しもない。ただの、獣欲に狂った犯罪者だ。阿部よりも数倍醜い悪党顔をさらしている。


「ははん。望み通り化学教師として言わせてもらうがな、俺はたとえ何かが残っていたとしても検出できないと考えるな。どうせ、理事長のつてでどこかの大学の機械を使って調べるつもりだろうが、犯行から二日経ち、劣化したり壊れたりしている遺伝子を調べても無駄だと思うぞ。それでもいいなら、俺の家にある下着すべて持っていくといい」


そうか、そうか。どうせ逃れられないなら、少しでも粘って学校ごと心中しようってか。だが、最後の一言は余計だったな。


「なぁ、何で「下着」なんだ?俺は、「制服」の話をしてたんだぜ」

行為に及ぶ上で汚れる可能性があるのは、下着だけじゃなくズボンやブレザーの裾、袖口などもあるはずだ。なのに、井筒は制服の話から飛んで下着に限定してしまった。

「なぁ、なんでだ?どこから「下着」が出てきた?」

「それは、偶々頭に浮かんだのが下着だっただけだ!揚げ足をとるようなことをいちいち言い立てるんじゃ」

今までよりも激しく狼狽している。何故だ。犯人として指摘された時よりもうろたえている。







ああ、そういうことか。






「そうか。そうなのか、井筒先生よ。くはっ。まさか、お前・・・」










「庄和望の下着を、未だに所持してるんじゃないか?」







「うぅ・・・ぐぅぁ・・・」






やはりか。

ここにきて、周りの皆も井筒が本当に性的倒錯者であると悟ったようだ。

会長は激しい侮蔑の目を向け。

葉詠は恐怖と嫌悪の表情を浮かべ。

柳一は妹を穢そうとした変態に怒りの視線を向け。

桂間ですら奇異なものを見た顔をしている。

阿部は、複雑な表情をしている。自分も、変態的行動の末に問題を起こしたのだから思うところがあるのだろうか。

石田も、松竹梅も、それぞれ似たような顔をして、井筒を見ている。



「ち、ちがう!私は、ち、ちがうんだ!いいさ、今すぐにでも俺の家に案内しよう!そこで隅々まで調べ上げるといいさ!はん、どうせ何も見つかることは無いだろうがな」

そうか、家にはないのか。なら、より労力は少なくて済むな。

「とりあえず、近場から探そうぜ。そうだな・・・・・・」


家じゃないなら、校内だ。

自分のデスクか。いや、流石にリスクが大きすぎる。

当直室。それもほかの先生が利用するから危なすぎる。

何より、自分が毎日目にして手にできるところに置いておくだろう。

そして、人目に付かずできれば他人から見られることのない場所。



そうだ。









「とりあえず、職員用ロッカーを見せてくれないか?」








「うううううああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!ちくしょう・・・・・・このクソガキがぁぁぁぁ、よくも・・・・・・」

野獣のようなうなり声とともに、ようやく観念した井筒が背もたれにだらしなく寄り掛かった。







*******************



井筒は、罪を認めた。

恨み言や呪詛とともに、犯行の詳細を語りだした。といっても、行動に関しては葉詠の話とほぼ同じだった。


「当直業務の途中、深夜になったら焼却炉の死体を運び出して始末しようと思っていたんだ。だが、校内の見回り最中にどうも胸騒ぎがして焼却炉に行ってみたら・・・」


燃えていた。もちろん外から炎は見えないが、井筒の目には目の前に赤く燃え上がる火柱が迫ってわが身を焼き焦がそうと迫っているように見えた。

まさに、予期せぬ炎上だ。その炎は、庄和の死体や阿部の宝だけでなく醜い犯罪者をも焼き焦がしたのだ。


「くそ・・・おい、初鹿野。俺をどうする。ここまで来たらもうどうにもならんだろう。だがな、もし俺が逮捕されたら警察内で臼間のありとあらゆる負の情報を喋りつくしてやるぞ。何せ、お前の父親も相当に汚いことをやっているからな。平教師の俺だって、いくつかは掴んでるんだ。地獄へ行くのは俺だけじゃない。へっ、ざまぁみろ、小僧が」



「はぁ?臼間が、自分たちに不利なことをするわけねぇだろ」

「!」

当たり前だ。俺が親父がから下された司令は、できる限り臼間の名前に傷がつかないように事件を終息させることだ。井筒は逮捕されなくていいし、逮捕されてはいけない。

「じゃぁ、見逃してくれるのか」

「な、何を言うのよ、そんなのだめに決まっているでしょう!」

「いや、逃す。なぁ、井筒。逃すし、一切お前のことは臼間は記憶しない。つーか、そもそも井筒惣十郎という教員はいなかったんだ。お前も、これだけは忘れるなよ」

つまり、こっちは井筒のすべてを忘れるから、井筒も臼間に関わっていたという記憶すべてを消してもらう。

「お前が教員として働いていた期間の経歴は、親父が用意するはずだ。臼間がやるのはここまで、お前はさっさとどこかへ行ってくれ。他人には、二度と臼間の話はするなよ」

偽の履歴の用意。これが俺が親父にした依頼の一つだ。実はもう一つあるが、それは明日にでも効果が表れるだろ。

「なっ!初鹿野君、正気なの!」

「親父には話をつけてある。もうすでに辞職届は用意してあるんだ。こっちで勝手に受理すっから、お前は荷物をまとめて去れ。ロッカーの中の「私物」も忘れんなよ」

「く、ふふはは。そうか、流石に初鹿野政五郎の息子なんだな。わかった、どうせ教師の職には未練がない。さっさと俺はいなくなることにする」

そういって、気持ち悪い笑い声を漏らしながら、軽い足取りで会議室を出て行った。


「ふう」

「ふう、じゃあないでしょう!」

「初鹿野、お前何を考えてるんだよ」

会長と柳一が嚙みついてくる。せっかく悪事を暴いたのに、俺の印象は絶賛降下中らしい。やってられねえぜ。

「くそ、葉詠はあんなに怖い思いをして、友達が死んだのは自分が逃げ出したせいだってずっと自分を責めて・・・・・・それなのに、そんな思いをさせた奴は職を失っただけでのうのうと太陽の下を歩いていけるのかよ!おかしいだろ、そんなの・・・」

ははっ。おもしれえことを言いやがる。

「バカかよ、お前。いや、バカだったな」

そういえば、こいつは露骨にアピールしてくる女子の好意にも気づけない、他人の意図に鈍感な奴だった。

「バカって、なんだとこのぉっ!」

「兄さん!落ち着いてください!」

掴みかかろうと迫る柳一を当の葉詠がとどめる。


「いや、バカだろ。あんなゴミみたいな性犯罪者がそんな安楽に過ごせるわけがねえだろ。どうせ、酷い目に遭うさ。だがな、酷い目に遭わせるのは俺らじゃねえ。少なくとも、俺や親父、会長にはその権利はねえよ」

まあ、葉詠や柳一にはあるかもしれんが・・・・・・こいつらは動かなくてもいい。


「明後日、登校するころには少しはお前らの溜飲が下がるようにしとくさ。それまではがたがた抜かさずに黙って飯でも食ってろ」

『・・・・・・』


皆、渋々ながらも了承し、理事会議室を後にした。イレギュラーな土曜登校は、終了だ。


俺は一人会議室に残っている。この後のことを親父と打ち合わせておかなきゃならん。昨日の時点で大まかな計画は練ったが、その最終確認だ。
















井筒惣十郎を、このまま生かしておくつもりはない。

というわけで、次回がざまぁ展開と後日談になります。

書いている間に一つ矛盾を発見したので、そのつじつま合わせも次回やります。

では、週末にまた!

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