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理事長の息子は権威を笠に着て練り歩く  作者: 大魔王ダリア
第一章 「想いの灰は見つからない」
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土曜登校

土曜日の十時、臼間の理事会議室に十一人の人間がコの字に机を囲んで椅子に座していた。


議長席に俺。


右隣に会長。


左隣に石田角之介。


俺から見て左の列には松竹梅と阿部喬平。


右の列には雑賀柳一、雑賀葉詠、桂間数弥、井筒惣十郎。


あえて、親父には席を外してもらった。そのほうがやりやすい。


「無駄話はしねえ。さっさと始める」

宣言して、話し始める。

「庄和望を殺した人間を見つけなきゃならん。俺と会長が昨日一日捜査して、状況的に怪しい人間が二人いる」

そして、俺は阿部と石田うを指さす。

「現場近くでたむろしていた石田、正確にはその仲間もだな。そして、事件現場で不審な行動をしてた阿部だ」

そういってから、阿部が犯人から除外される理由を説明した。

「なるほど・・・それでは、石田君が怪しいというのかね?」

井筒の言だ。

「違うな。違うが、容疑者の絞り込みは後でやる。その前に、現場で阿部が何をしようとしていたかだ」

「・・・」

相変わらず陰鬱な顔をしてうつむいている阿部を見ながら言う。

「喋れとは言わねえよ。俺の話を聞いてくれりゃあいい。俺の言うことがあってたら、頷いてくれ。それだけだ」

「・・・」

幽かに頷いた。了解を受け、俺は阿部のやったことを告発する。








「阿部喬平。お前は、女を焼却炉で燃やしたんだな」










「・・・」



阿部が、こくり、と頷いた。




「どういうことかしら?説明して」

「簡単な話だ。こいつは自分がしでかした行為の証拠を焼却炉で燃やしたんだ」





「庄和望もろともな」




「!つまり、彼が燃やした、いえ燃やそうとしたのは庄和さんではない、と」

「ああ。燃やそうとしたのはおそらく・・・・・・」

再び阿部に顔を向ける。







「お前が燃やそうとしたのは、辰己祭だな」




こくり。ゆっくりと頷いた。




「正確には、プリントした会長の写真だろう。もちろん、盗撮だ」

「貴方・・・あの時の」

そう、多忙な会長を最近になってさらに悩ませていたストーカー、それが阿部喬平だ。

更に説明しようとしたとが、その前に阿部が口を開いた。

「僕は・・・」

相変わらず風体に似合わず綺麗な声だしかし、こいつも話す気になったのか。

阿部は、小さな声で訥々と自分の行動を話し始めた。



阿部は、以前から会長の姿を付け回してプリントカメラで盗撮していた。辰己祭が一年ながら生徒会長に選出された時からずっと、今まで。しかし、今年度に入ってすぐに隠れて撮影している姿を見られてしまった。実際には顔も体格も見られていなかったのだが、阿部は恐怖に苛まれた。プリントした写真はすべて、肌身離さず持ち歩いている。

悩みぬいた。血を吐くほど悩みぬいた。悩んだ五日間は一睡もできず、現在のような隈がこびりついてしまった。

だが、結局写真は処分することにした。それはもう仕方ない。でも、彼女の写真を、自分と彼女の唯一の繋がりを、絆を捨てることはどうしても自分の中の愛と誇りが許さなかった。


だから、燃やして灰にすることにした。業火に焼かれれば、彼女の煙は天に昇っていき誰のものでもなくなる。誰かに拾われたりする心配はなくなる。


「でも、灰が心配だったんです。本格的に警察の捜査が入ったら、彼女の、辰己さんの灰が、結晶が持ち去られてしまうんです。耐えられなかった。だから、焼却炉に行って、灰を持ち出したかったんです。事件があって、流石に鍵の管理が厳しくなっていたので、仕方なくドライバーを持っていきました」

その言葉に井筒が桂間を睨む。そりゃそうだ、こいつが幼女の催眠音声なんか聞きながら爆睡していなければ、こんな面倒なことにはならなかったんだ。その桂間は、何を考えているのかわからない顔をしている。不気味だから、あまり見ないようにする。


「つーことで、鍵を盗み出して焼却炉を稼働させ、会長の写真とともに庄和望の死体を焼いたのが阿部だ。つまり、それ以前に誰かが庄和の死体を焼却炉に隠した、ってことだ」

皆が息をのむ。会長だけは、桂間を侮蔑の目で見ている。何せ、真犯人に鍵を取られ、いつの間にか返され、その後に阿部に再び盗まれて帰されている間に何も知らずに眠っていたのだから。そんなに眠れるもんなのか、催眠音声。今度眠れねえときに試してみるか。

それは、まあいい。



「んで、肝心の庄和と葉詠を襲って庄和を犯し、殺した真犯人だが・・・」

「・・・」

皆が固唾をのむ。




「すげえ簡単に、容疑者を一人に絞れるぜ。つまり、そいつが犯人だ」

「!!!」



誰も何も口を挟まない。会長も、何も聞かずに目線で続きを促してくる。



「何も難しいことじゃねえよ。説明するよりも、やって見せたほうが早えな」

そう言って、後ろに畳んでおいた黒い布を持ってくる。

「それは・・・ブレザー?」

「ああ」

そう、臼間高校の正式な制服であるブレザー、これに縫い付けられた校章から、犯人が生徒だと推測されたんだ。


「柳一。立て」

「へ」

「いいから、立ってこっち来い」

「お、うん。わかったよ」

着慣れないブレザーを着ながら、柳一を立たせて近づかせる。

「何するんだよ」

「何って、勿論」

現場の再現だ。

突っ立っている柳一の左手首を掴み、そのまま左に引き寄せる。柳一の顔が、俺の胸にうずまりふがふがと呻いている。我ながらきもちわりい絵図だな。

「に、にいさん!」

「初鹿野さん、何やってんすか!」

「初鹿野君、ふざけているのかね?」

「ひゅーひゅー」

誰が何を言ったのかは理解してもらえると思う。最後の奴に関しては、考えなくてもいい。あえて言うなら黴の声だ。

俺の奇行に、ただ一人、会長がその意図に気づいて声を上げた。


「あ・・・校章が!」


「!」


そう。葉詠は、手首を掴まれて、左に引き寄せられた。葉詠が左に引き寄せられたのなら、その顔がうずめられたのは当然犯人の右胸だ。





そして、臼間の校章は、左胸に刺繍されている。





「どういうことだ・・・」

最初に考えるのは、葉詠の勘違いだ。だが、目の前に浮かぶ薊の校章、犯人の顔も何もわからない中で唯一記憶に焼き付いている証拠を勘違いで片付けるのは扱いが軽すぎる。今は、葉詠が正しいと仮定して話を進める。

それならば。

「つまりは、だ。犯人が着ていたのは臼間の制服じゃねえってことだ」

「なるほど、そうなるわね」

「しかしそれなら、他校の制服とでもいうのかね?」

「いや、それには無理があるだろ」

探せば薊を校章にしている学校もあるだろうが、間近で見て他校のデザインと見間違うほど似通っているものは無いだろう。いろいろ問題があるだろうし。

「じゃあ、犯人が来ていた服って・・・」

「あるじゃねえかよ。この部屋に」

「!?」

困惑する皆を置いて、壁に歩み寄る。この部屋には、意味不明な甲冑や、昔の先生や生徒が移っている古い写真が飾ってある。


そう、写真だ。


俺は、適当な写真を指さして、皆を見やる。

正確には、写真に写っている生徒を。

もっと正確には、その生徒が着ている、制服を。


その校章を。



「右胸にある・・・」

「そうか、旧制服か!」



その通り、臼間の旧制服の校章は、右胸にあるのだ。



「場所が違うが、デザインは同じだ。色合いはかなり違うが、暗闇だからわからなかったんだろうな。ところで葉詠、入学式以降ブレザーを着たか?」

「い、いえ、着ていません。暑がりなもので・・・」

「なら、決まりだな。材質も違うらしいが、一度来ただけの制服だ、違和感もなかったんだろう」

すこし、息を落ち着かせる。喉が渇いた。自販機で茶でも買ってきておけばよかった。くぴくぴと呑気にレモンソーダを飲んでいる桂間に殺意を覚えながらも、結論に入る。


犯人が着ていたのは、新制服ではない。

つまり、犯人は現役学生ではない。

犯人が着ていたのは、旧制服だ。

つまり、犯人は臼間出身だ。





「臼間出身で、この学校内に怪しまれずに侵入できる、つまりはこの学園の関係者である人物が犯人だ」



「そう、あんただよ」









「臼間高校第三十一期卒業生である」



























「井筒惣十郎先生」

会話メインにしようか地の文メインにしようか迷いましたが、どっちつかずになってしまいました。

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