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3姉弟のじゃれ合い…?


「さて、結論が出たところで、この謎の諸々について説明をお願いしても宜しいですか? “姉上”」


にーっこりとたいっへん良い笑顔なヴィンフリートさんに顔が引きつる。


「あ、あのですね、ヴィンフリート様…」


「いやいや、姉上なのですから堅苦しい呼び方など不要。どうかヴィーとお呼び下さい」


ぜーったい遊ばれてるー!!


ぜーはー。



にわか作りの設定必死に思い出して。

うん、そうだ。


「いいえ、ヴィンフリート様。わたくしの母は平民でございますもの。侯爵家の姫君を母に持たれるお二方とは格が違います。姉上などとお呼び頂くなど滅相もない。どうかルナとお呼び下さいませ」


このやり取り、何故かライナルトさんにウケている。

フォルクハルト様は呆れたような顔。


「あ、あの、娘扱いとか要らないですからね?! 使用人枠でお願いします!」


慌てて釘を刺したものの…ライナルトさんにあっさりと引っこ抜かれてしまった。


「曲がりなりにも旦那様の“ご息女”を、使用人と同列になどおけませんよ。伯爵家の令嬢として、現在屋敷におられない『女主人』の役どころを是非お願いしたいと思っているくらいですから」


ひ、ひえー!!


「ちょっと待って下さい、き遅れのアラサーに何期待してるんですかっ! 大体、得体の知れないわたくしよりも、お二方の婚約者の方がずっとましで」


思わず叫んでしまったが、2人の顔が凍り付いてるのを見て言葉を飲み込んでしまう。


「え? 普通は貴族って10になるやならずで婚約決めてたりするのでは? 遅くなると釣り合いの取れた目ぼしいのは売れちゃうから、早めに体裁だけでも整える…って聞いたんですけど」


疑問を思わず口にしながら…最後の方はもごもごと。


「ルナ様の仰るとおりなのですけどね。丁度決めるべきその辺りで奥様が患われましてね。それどころではなくなってしまいましたのと、まぁ、所謂派閥系のごたごたにも巻き込まれましてね。決めそびれてしまっているのですよ」


…なるほど。


「じゃあ、お二人とも大変でしょうね。後のない令嬢たちに追い回されている図が想像出来ます」

そう言って苦笑いした私に、お二人が明後日の方向を見る。


「いやー、女って…勘弁してくれ」


「押しかけて来るくらいならともかく、強引に既成事実を作ろうとして来ますからね。噂が立っただけで、男は不利なんですよ」


「…あー、でしょうね、『責任取って結婚して』になりそうですもん。テオドール様まで目を付けられていそうです」


「テオはあまり…な。社交にも絡まないし、母親も子爵家だったから、そんなに知られても無いんだよな。…羨ましい」


しみじみ呟くフォルクハルト様に思わず吹き出してしまって睨まれる。


「ご愁傷様です♪」


「そういうルナはどうなんだ」


何故かフォルクハルト様から横槍が入る。


「俺たちより年上なら、日本くにに子どもでも残して来てるんじゃないのか。随分手慣れていたようだったし」


うわーん、とばっちり…。

完全に自爆だ、うん。


「残念ながら、わたくしも特定の相手はおりません。というか、作る暇がありませんでした。漸く暇が出来て、少し考えてみようかと思ったら、こんなことに」

肩を竦める。


「…実はわたくしが15の時に両親が事故で亡くなったのです。下に弟が5人いて、母親代わりを引き受けていたらそういうことになってしまいました。…ちなみに、3番目の弟とお二方が同い年ですね。そして末の双子がちょうどテオドール様くらいでしたので、思わずあの頃の喧噪を思い出してしまって。つまり、子育て経験はばっちりなのです。…ま、弟たちも18になりまして、漸く独り立ちしましたので、未練がなくて済むと言えば重畳ですわね」


ふわりと微笑うと2人が顔を引きつらせた。


「そ、それは大変だったな…」

「テオドールが2人いる様を想像しただけでげんなりします。すごいね、ルナ」


…ヴィンフリート様はホントに馴染むのが早いです。


「テオドール様ならまだ可愛いと思いますけど?」


双子とゆーイキモノは何かやらかす時に何故か倍ではなく3倍、4倍になる存在なのである。


ーイロイロとやらかされて悟ったある夏の日。


良かったよ、2人とも、それなりに真っ当に育ってくれて。

姉の苦労も想像出来るような良い子になって。


「ルナ姫の生国は18で成人なのですか?」


ライナルトさんが尋ねてくる。


「そうですね、法律上では一応そうです。基本的に大人と同じ扱いを受けます」


「法律上では…ということは、一般的には違うと? 貴族と平民で差があったりするのでしょうか?」


「わたくしの生国には『貴族』という括りはありませんね。ですので、家とか状況でバラバラです。50過ぎても親離れ子離れが出来なくて、問題視されてたりもしますから。…ちなみに50歳というのは子どもの年齢ですよ」


「…ってことは親は70とか80って訳か。随分長生きなんだな…と言いたいが、死ぬに死なない感じがするのは気の所為だろうか…?」


いいえ、フォルクハルト様。

気の所為などではございません。掛け値なしの真実でございますよ。


「フォルクハルト様は明晰な方でいらっしゃいますのね。まさしくその通りですわ」


紅茶を舌の上で転がしながら、軽く微笑む。






「そういえば、素性絡みでもう一点、少し気になることがございます」


いきなりそんな事を言い出したライナルトさんに、3対の目が向く。


「ルナ姫の名前です。ルナ…では貴族令嬢の名前としては短過ぎるのではないかと。愛称をルナということにして、取りあえず何か考えませんと、バルシュミーデ侯爵家に文を書けませんから」


はぁ…、そんなものなのか。

とはいえ、この世界のルールは分からない。

ドイツ語っぽいかなとは思ったけど、ドイツ語名なんて、女性が極端に少ない、某超有名スペースオペラ小説くらいしか心当たり、無いし(苦笑)


「ルナを愛称で…ですか。ちなみにルナとはどのような意味があるのですか?」


「古い言葉で、『月』だそうです」


「月…なるほど」


考え込むヴィンフリート様。


「では、月の女神の名の『イリス』を後に付けて、“ルナイリス”というのはどうでしょうか」


ほー、この世界のイリスは月の女神なのか。

ギリシャ神話ではイリスは、虹の女神だったけど。


「悪くないんじゃないか。あまり聞かない名では有るが、母親が平民で神頼み…的なイメージで」


何その謎なイメージ。


ーそう思ったのは私だけではないらしく、ライナルトさんがくつくつ笑ってる。


「ではそういう事で、バルシュミーデ侯爵家に文を認めてまいります。ヴィンフリート様、転送をお願い致します。それと取りあえずお召し物をを何とかしなければ。クレメンティーネ様、ティアナ様のドレスが少し残っておりますので、申し訳ないのですが当座はそちらでお願い出来ますでしょうか。お召し替えにはレナータを呼んで参りますので暫しお待ち下さいませ」


さらさらさら…っと宣って、さっさとライナルトさん、部屋を出て行ってしまった。



年の功か馴染みっぷりが早い。

お二人はまだ納得してないっぽいのに。

…説明してないんだけど、気にならないのかな。

何でもいい…って思ってるのかも。


思わず3人で顔を見合わせてしまった。


そだ、一つだけ。


「すみません、その荷物ですが、後でご説明致します。危険なものではございませんので今はお預かり頂いても宜しいでしょうか。…あ、ケーキがあるのですが傷んでしまうかもしれないのでそちらはお召し上がり下さいませ」


ぺこりと頭を下げる。



「分かりました。このまま状態保存の術をかけて置いておきます。状況が落ち着いたら返しますね」


ヴィンフリート様が笑みを浮かべる。


魔法があるのかな。私は使えるんだろうか?

何だかワクワクする。

…チートみたいなものは無いのかな。言語くらいなのかしら。


そんな事を取り留めもなしに考えていたら、ノックの音がした。


「レナータです。お嬢さまのお召し替えに参りました」

「入って」


入って来たのは私とあまり変わらないくらいの女性だった。


私の事を頭のてっぺんから爪先まで舐めるように眺めてほうっと息をつく。


「珍かなお召し物でございますね。こちらで誂える事が可能なものなら是非いろいろな生地で作ってみたいものですわ。姫様でしたらその、透けるような青だけではなくて、はっきりしたお色もお似合いだと思います。では、フォルクハルト様、ヴィンフリート様。お母君クレメンティーネ様のお衣装、少しお借り致しますね」


「別に構わん。着る奴もいないのだから合うドレスは全てルナのもので構わない」

「そうだね。母上は派手目のものはあまり好まなかったから多分大丈夫なはず」


ばいばーい、と言わんばかりに手を振られ。


部屋から出て真っ直ぐ広い廊下を歩く。

その突き当たりの部屋をぱっと開けた。


白と淡いブルーでコーディネートされた美しいへや


その中に引っ張り込まれて。


茫然としている間にレナータさんがドレスの山を持って現れた。






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