死者に鞭打つ?! 提案
なかなか話が進みません…。
ゴメンなさいm(_ _)m
ライナルトは改めて紅茶を淹れ直すと3人に差し出した。
「この国の名は、ラトレセイス王国と言います。現在の国王陛下は8代め。王妃様との間に、王子殿下がお2人と、王女殿下が3人いらっしゃいます。爵位を持つ貴族たちが領地を持ってその世話をしています。我がリートミュラー家も同様でございまして、農業と牧畜の盛んな土地柄なのでございますよ」
「そういえば、ティアナ殿が花と香草も広められないかと言っておられたな」
「さようでございましたね。敷地内に育てておいででしたが…1年近く放置されておりますのでどうなっていますやら」
「ティアナ様…?」
「テオドール様のお母君でございます」
香草ってハーブかな。アロマテラピーは好きだったから同じようなのなら見てみたいけど…。
「農業と牧畜が盛ん…ということは、土地が広大なのですね。いろいろとお世話が大変そうです」
ふわりと微笑むと、3人が顔を見合わせる。
何故だ。
「ちなみに、ルナ姫のお生まれは何処ですかな?」
ライナルトから爆弾を投げ付けられ、危うく紅茶を吹き出しかける。
好々爺な笑みが怖いよ…!
「ラトレセイスという国名を聞いたことがありませんので…多分、全くご縁の無いところかと。一応、日本、という国です…けど…」
突っ込まれたらどうしようと思いつつも、怖々と白状してみる。
「知らんな」
「知りませんね」
「存じませんなぁ」
…うん、当然だよね。
なのに何故、気持ちが何だかめげるのだろうか。
「近隣諸国といえば、ルーキフェルムとティオミス、ベリートくらいか。その更に先までは我らも知らんし、そっちの方にその、『ニホン』とやらもあるやも知れんな」
フォルクハルトはそう言うと腕を組んで瑠凪を睨んだ。
「ルナとか言ったな。お前の身の振り方だが…行くべき場所も行きたいところも無いんだな?」
「はい。全く分かりません。行きたいところと言われましても、何があるのかすら分かりません。夜露が凌げて食べられれば…くらいは願いとして持ち合わせていますが」
「テオドールが何故かお前に懐いている。世話係として雇ってもいいんだが、その際の問題はお前の素性になるんだ。得体の知れないものを、同僚にするのは他の連中も嫌がるだろうからな」
ま、まぁそれは…当然なこととしても、上手くごまかせるほど此処(ラトレセイス王国)を知らないから…。
「そうですね。もし、此処を出て何処かでお仕事させて頂くとしても、素性…はどうしようもありませんよね…。本当の事は言えませんし、ごまかせるほどの知識もありませんから」
ニホンとやらは何処にある?!とかって地図見させられても困るもんな。ある訳ないんだから。
「ルナ姫の素性…ですか。ごまかす方法ならばございますよ」
しれっと言い放つライナルトに、双子が驚いて視線をやる。
「お三方の異母姉ということにしてしまうのが一番楽でございますね。旦那様が奥様と出会う前に交際していた平民の娘がいて、縁組の話を聞いて身をひいたが、その時には孕っていた…。私が生前旦那様から打ち明けられてお捜ししていた…ということにすれば、今出て来ることにも違和感は無いかと」
ちょっと待って下さい! そんな設定、あまりにも“旦那様”に申し訳なさ過ぎますー!!
「ないしは、奥方様の遠縁の娘で、遊びに来ていた際にテオドール様に懐かれて…ということにも出来ますな」
そっちの方がまだマシかも。
「母上の遠縁ならば、侯爵家に話を通さねばならんだろう」
え?!
フォルクハルト様、あっさり受け入れるんですか?!
「さようでございますね。如何致しましょうか。どちらにしろ、此方の文化を学んで違和感なく溶け込んで頂く為に、バルシュミーデ侯爵家に暫くお預けして教師役をお願いはするつもりではおりましたが。ただ、ニホンという国について、後者の方法の場合は説明が必要となりますね。ですが前者の方法で有れば、礼儀を知らない平民の娘でごまかしてしまえると思いますよ」
「ちょっと待って。僕らの『姉』でいいの?」
ヴィンフリートが口を挟む。
「そうせざるを得ませんね。妹君では、旦那様の裏切りとなります。さすがに侯爵家が黙っておりませんよ。奥様がお二人を孕られるまでに2年ほどかかりましたので、3歳上…くらいならごまかせるでしょう。ルナ姫は落ち着いていらっしゃいますから」
すみません、もっと年上です。30越えてます。
ーとは言えず、顔を引きつらせる。
「どうする」
尋ねながらちらりとフォルクハルトは瑠凪を見る。
「さすがに歳を上に見せるのは腹が立つか?」
「…い、いえ。…実はもっと年上ですので…ご心配には及びません…」
顔を引きつらせて答える。3番めと同い年だ、よく考えれば。
「え?! 嘘でしょ!? 絶対年下と思ったんだけど」
驚いたようなヴィンフリートに、身の置きどころのない気持ちで俯く。
「おや、それは良うございますな。嘘は一つでも少ない方が、危険を減らせますし」
ふむふむと頷くライナルト。
「それで宜しゅうございますな、ルナ姫」
良くない、良くないけど…。
それ以外に方法は無いのだろう事は分かってしまうので何も言えない。
「亡き旦那様の事でしたら気に病む必要はございませんよ。既に亡い方なのですから、抗議の声が上がることもないでしょう。若気の至りは誰にでもあります事ゆえ」
ほっほっほっと擬音が付きそうな笑みを浮かべて注がれるライナルトの視線に、仕方なくこくりと頷く。
「よ、宜しくお願い致します…」
立ち上がって丁寧に一礼した。