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ルナイリスの3分間…?クッキング♪




魔術師団での夜会の翌々日。


ぐずるテオドールを何とか宥めて、瑠凪はリーンハルトの元へと授業に来ていた。


「さて…基本的な事は一通り教えたが、後は何か知りたい事などはあるか?」


師に問われ、瑠凪は首を捻る。


「イメージ的にお料理スキルなので、料理に使ってみたいな…とは思っているのですが、構わないのでしょうか?」


パスカルとヴィンフリートに呆れられたことを思い出して、おっかなびっくり尋ねてみると。


「微調整の良い訓練になるだろう、積極的に取り組めば良いと思うが」


あっさりと肯定され、ならば出るか…と立ち上がるリーンハルトに、慌てて付いて行く。



馬車に乗せられ、案内された先はー豪邸。


情けないがその一語しか浮かばない邸だった。


「お帰りなさいませ」


執事らしき老爺が丁寧に頭を下げる。


「こちらはどちらのご令嬢で…?」

「リートミュラー伯爵ルナイリス嬢、今の俺の弟子だ。訓練の一環で料理をさせようと思っている。エーファのところへ連れて行ってくれ」


「畏まりました。ルナイリス様…でいらっしゃいますね。こちらへ」


連れて行かれた先は厨房で。


恰幅の良い女性が、瑠凪をしげしげと見つめる。


「あたしがエーファだ。魔術訓練が目的だそうだな。属性は何が使える?」

「わたくしはルナイリスと申します。エーファ様ですね、宜しくお願い致します。属性は炎と水と氷…です」

「あたしに“様”なんぞ要らないよ。…にしてもまた随分と料理向きの属性ちからだねぇ。じゃまず水から見せてもらおうか。このグラスに水を満たしておくれ」


エーファに渡されたのはごく普通のコップ。

言われるがままに水を満たす。


エーファはそれを一息であおる。


「…ほぅ…これはまた、優しい味の水だねぇ」


目を細めながら零れたエーファの言葉に、瑠凪は目を瞠った。


「え?人によって味って違うんですか?」

「ああ、…ちょいとお待ち」

もう2つコップを用意される。

「あたしも水と風を持ってる。…ほら、もう一度自分でも出して、飲み比べてごらん」


エーファが出した水と自分のを飲み比べる。


…確かに。

エーファのは所謂硬水、自分のは軟水だ。


そういえば、師であるリーンハルトも水を持っていた筈。あとで味見をねだろう。


「あの、ちなみに風の力は料理ではどのように使うのですか?」

「…ああ、こうするのさ」


透明の筒のようなものを取り出して来て、その中に何かを放り込んだ。

手で筒を塞いで魔力を流し込む。


ーなるほど、フードプロセッサーって訳。


匂いは玉ねぎだが、涙は出て来ないという謎仕様の野菜である。

しかも、黒い皮を剥くと、出てくる中身がショッキングピンク。

しかし、刻まれると色素が壊れるのか、色が抜けて透明に近くなる。


ここが異世界ということを別の意味で味わった瑠凪だった…。









炎と水と氷、全てを使えそうな料理…。


パッと思いつくのはハンバーグ。


…というか、テオがいるならハンバーグ一択なんだけど…。


揚げ物でカツとかフライとかも良いかな…。

タルタルソース、作ってみようか。

卵を水の魔力できちんと洗えば大丈夫な筈…。

あ、水と翠を混ぜてみようか、そうしたら浄化の役割、無いかな?


考え込む瑠凪にエーファは、


「じゃ、次は氷かね。これに氷を満たして」


風で乾かしたコップを手渡され、言われるがままに氷を満たす。


まるでドリンクバーの製氷マシーンみたいなころころとした氷がコップから零れ落ちて、エーファの表情かおが固まった。

そのまま無言で洗い場に氷を捨てると、氷のサイズの指示を出されたので、言われるがままにロックアイスを作ったり、板氷にしたりしてみる。


…それらを見たエーファは天を仰いで、

「すまない、旦那様のところへ行ってくる。厨房にあるものは好きに使って、何でも作ってくれてて構わないから」

と言うと、真新しいエプロンを手渡して足早に厨房を出て行ってしまった。



うーん、もしかし…なくてもチート?


…あ、いや、想像力の問題…なのかな。

訓練していて思ったのは、魔術というのは、自分の意識にかなり左右されるということ。



ファ○ガとメラ○ーマの件も然りだが、たとえば、戦闘時において、氷の魔術というものは、基本、槍の形で振るわれるもので、槍の太さや数で力量が分けられる。ないしは、足止めとして足元を凍らせる…程度しかなかった。


しかし瑠凪が吹雪を生み出したので、リーンハルトは文字通り凍り付いた。

瑠凪としては単に、雪女ごっこというか、リアル八甲田山で、ニュースで見た事のあるホワイトアウトを再現すれば強いんじゃないかなー、程度の意識だったのだが、実はここ、ラトレセイスは比較的気候が温暖で、雪は寒い地方で多少積もる程度、吹雪など間違っても起きはしない為、誰一人としてこんな手法は思いつきもしなかったのである。



ー魔術師団の総帥である。


一度見ただけでホワイトアウトをモノにしたリーンハルトは、ヴィンフリートを始めとする氷魔術の使い手を扱き、上位の数名はホワイトアウトを何とか出せるようになった。


その特訓風景を見ていた団員たちからは、「俺、氷使えなくて良かった…」と囁き合われる始末であったが。



…勿論、大量の魔力回復薬が必要となった訳だが、瑠凪が良質のアルデュ草をせっせと栽培して安価で売っていた為に、余り気味になっていた在庫が綺麗に捌けたところで事なきを得た。

ー当事者の一環な筈の瑠凪が与り知らぬ話ではある。



もしかしたら、氷のサイズなんかもこんなには無いのかも。


ま、いいや、騒ぎになったら…別の何か出してごまかそう。

リーンハルト様なら特別な魔術になりそうな知識を何か伝えれば、有耶無耶に出来るはず。

ー絶対零度とか真空とか。


そう気を取り直して、瑠凪は厨房に向き直った。


恐らくここはカント邸なのだろう。

さすがは侯爵家の厨房。広い。

日本いえの台所、いくつ入るかな?


スパイスを扱う家らしく、スパイスも豊富にある。


あちこちの扉を遠慮なく開けてみると、どうやら冷蔵庫らしくて肉やら魚やらがぎっしり。


これは何日分で何人分なんだろう?


道具も豊富。


カツでも揚げてみようかと肉の塊を取り出す。

卵と小麦粉っぽい粉はすぐに見つけたけど、パン粉が無い。仕方ないので一先ず肉はしまって。




粉の袋が3つあって、それぞれ色が少しちがう。試しに少しだけ粉を軽く水でこね、晒してグルテンを取り出してみて強力粉と薄力粉の当たりをつけ。


むぅ。



見た事のない材料ばかりなのは当たり前。

取りあえず、勘で何となくイケそうな野菜や果物を一つずつ集めて端から試してみる。皮を剥いて匂いをみて、少し歯を立ててみて。


形はレモンっぽいけど色味はスターフルーツっぽくて、味は紅玉…という果物を発見したので刻んでプリザーブを作ろう。


発見した土鍋もどきはよく洗い、果物を入れて水と砂糖を加え、コンロもどきに載せて、炎の魔力を流す。

弱火で炊きながら時折お玉でアクを掬い取り、煮詰めていくと優しい赤になる。

何か、皮ごと炊いて作った紅玉のジャムみたい。程良い酸味がとても美味しい。


うん、これは、アップルパイにしたい。

ー間違ってそう呼ばないように気を付けないとね。


2種類の粉をよく振るいー篩かな? 漉し器かな? よく分からないけど適当に使う。

細かく切ったバターを加えて切るように混ぜる。

バターが溶けないように手に氷の魔力を纏わせながら、丁寧に、でも手早く。


冷蔵庫の片隅に、まとめ上げて布巾で包んだ生地を入れ、寝かせる間に簡単なカスタードを炊いて、後は…。



卵は一杯あったから、卵焼きでも作ってみようか…。

あー、でも、出汁が欲しい…。


ん…先刻の観察時に椎茸によく似た香りのきのこがざるに一杯有ったんだけど…、あれ、干して使えないかな…。

ー待てよ、水の魔力は水に働きかけて動かせるんだよね。奪って乾燥…というかフリーズドライというか…出来ないだろうか。


出汁が出来そうなら卵焼きではなく、茶碗蒸しもありかな?




思い立ったが何とやら。


きのこを一つ掌に乗せて試してみる。


水の魔力をきのこに纏わせて…浸透したところでそれを追い出す想像して…。


あ。


これが可能なら、いつかのオレンジポマンダー、魔術で乾燥させてしまえばカビないし香りも保ててイイのではなかろうか?


ふと思いが逸れた時、パキン、と、微かな音がした。

はっとして掌を凝視するも、きのこは粉々。


馥郁たる香りが辺りを包む。

…水分を取り過ぎたという事か。


何となく勘所が掴めたので、幾つか乾燥させてみる。

そのまま微温湯ぬるまゆに放り込み。


出汁をとる間に、ちょっと考えて魚を一尾、三枚下ろしにする。塩胡椒して一口大に切る。

あちこち探ってお酢を発見したので、野菜も刻んで南蛮漬けに。

中落ちはつみれ風に丸めて生姜らしいものを刻み込み、さっと茹でる。


卵は茶碗蒸しにする事にして、卵を溶いて出し汁を加えてちょっと厚手のショットグラスみたいな器に中落ちつみれときのこ、青菜を入れて卵液を注ぐ。

蒸し器らしいものはないので、直蒸し。



蒸している間にパイ生地を取り出して、丁寧に伸ばして畳む…を繰り返す。


程良く馴染んだら型に合わせて、パイ生地を敷くと、カスタードクリームを入れてオーブンらしきものに入れて焼…こうとするが、使い方が分からず逡巡する。


(そうだ。温度設定とか出来っこない…)


あたふたしているところへエーファが戻って来て、卓上の騒ぎに目を見張る。

見たことも無い料理ばかりだ。


1つ野菜を摘んでみれば、(ヴィネグ)の酸味が爽やかで心地よい。


(これは、偏食気味の御子方にも良いのでは…)


あれは嫌、これは美味しくないから要らない、と我儘放題の子どもたちを思い浮かべてエーファはため息を吐いた。


「あ、丁度良いところへ。これ、オーブンですよね? パイを焼きたいのですが、使い方が分からなくて」


はにかむように微笑む令嬢に、エーファは、これだけの事が出来て、しかし、オーブンの使い方を分からないというギャップに苦笑しながら、コンロのように、上部と下部の透明の魔石に炎の魔力を均等に注げば良いことを教え…あっさりと上下の色を合わせてしまった繊細さに驚嘆する。


(うーん、基本は180度で25分…なんだけど…)


…実は、そんな風に考えながら魔力を注ぐと、勝手に色が合ってしまっただけなのだが、そんな事は周りには分からない。


予熱はどうしよう…と思いながらオーブンを開けると、既に中はかなり熱い。

元々の仕様で予熱要らずなのか、自分のイメージの問題なのかが分からなかったが、取りあえずパイを入れた。


早々に納めた空間魔術にしまっておいたスマホを、エーファが見えないように取り出し、25分のタイマーをかけるとエプロンのポケットに入れる。


後はどうしよう…。


「しかし、見たこともない料理ばかりだ」


嘆ずるエーファに少し冷や汗をかく。

久々に和食が食べたかったんだもん…。

お米に関しちゃ諦めてるのでご飯無いのは仕方ないけど。


「亡母からの直伝ですの。詳しくは聞いておりませんので、何処の料理かは解りかねるのですけど」


嘘…では無い筈。


「何かもう一品、あたしが見ているだけで作れそうな料理を作ってくれないか?」


突然に振られて少し考える。


「そうですね…。ではオムレツのアレンジを」


くすりと微笑うと、道具の中から1番小さいフライパンを選び出す。


卵をふたつ溶いて、砂糖と塩、スプーン一杯の水を加えて。

フライパンを温め、油を少し引いて卵液を流し込む。端を中に折り入れるのだけど…当たり前だが菜箸は無いのでターナーでやるのは…やり難い。菜箸作りたい。


少しぎくしゃくしながら端を処理してくるくると巻く。

また卵液流し込んで端を折り込み、くるくると巻くのを後2回。


ごくごく一般的な卵焼き。

…巻き簾は無いのでちょっと形は不格好だけど。

切って見せると、エーファの目が見開かれる。


「なるほど…。これは御子達の目も惹きそうだな」


目で楽しめる面があるのは事実ですが…ええっ?!


「リーンハルト様、お子がおいでなのですか?!」


「いやいや。旦那様のお子では無い。ご当主様…つまり弟君に当たられる方のお子でな」


エーファによると、リーンハルト様は本来であれば、ここ、ユーベルヴェーク公爵(?!)家の跡取りなのだそう。

ユーベルヴェーク家は国の中枢に絡む四家とは別に外交を一手に担う家として存在している。


だが、齢7つの折、仕来たりどおりに水晶玉に手を翳したリーンハルト少年の運命は激変する。


七色に染まった水晶玉に、大人たちは絶句した。


そのまま即座に複数の指導者を擁しての魔術師としての訓練が始められた。

成人の儀と同時にユーベルヴェーク家の持つ爵位の一つ、カント伯を継承した彼は、魔術師団に入隊し、その後エウィールとの間の戦における功績で、侯爵に陞爵し、今に至る。


エウィール…なんて国、知らない…と思ったら閉鎖的な小国ティオミスの前身だとか。

この戦でラトレセイスに完膚なきまでに叩きのめされたことで、国そのものは消滅してしまい、当時の交戦的な王に真っ向から対抗した宰相を筆頭に、すっかり懲りた面々は国を建て直して細々とやっているのだという。




ちなみにリーンハルト様は、水晶玉の様相から、隣国ルーキフェルムでは、『虹の悪魔』と呼ばれ、恐れられているらしい…。


…まぁ、剛胆な獣人と繊細な魔術の相性の悪さは鉄板だものね。


「御子はお2人、姉君のエルヴィーラ様で御年8つと、弟御のコンラーディン様で5つになられたばかりなのだが、まぁ、偏食の強い御子方で」


溜息をつくエーファに一つ苦笑を返して。


「苦手なのはやはり、癖があるというか、味のはっきりしたものでしょうか?」

子どもたちの苦手とするピーマンや人参などを連想しつつ尋ねてみる。


「というか…食事そのものをあまり好まれない風がある。お菓子ならば良いのだが」


「…なるほど。何かやりたい事があって、食事よりもそちら優先…という感じですか? 例えばご飯より本読んでる方が良い!とか」


苦笑と共に首を振られ、瑠凪は考え込んだ。


「単なる周りの甘やかし…という訳ですのね?」


エーファの言葉を聞くにそうとしか思えず、思わず辛辣な物言いをすると、彼女はただ視線を逸らした。


まぁ、雇い主の子どもを悪くも言えないだろうし、かといって正論だから否定もし兼ねる…という事だろうと瑠凪はそれ以上問うのを止めた。


取りあえず、お子様方に会ってみたい。

勿論、面と向かわずとも、どんな子か遠目で見るだけでも構わない。

場合によっては、テオドールを連れて来て、発破を掛けさせる…なんてことも考えてみて。


一つ気になる事があり、瑠凪は尋ねてみた。


「ユーベルヴェーク公ご夫妻は、御子方のこと、どのように考えておいでなのでしょう?」


エーファはただ首を振る。

…分からない、ということか。


子どもを愛してはいるが、接し方が分からないだけなのか、跡取りさえいればどうでも良いという考えなのか、その辺りでこちらの態度も変わってくるが…。


まぁ良い。


まずは良い食事の習慣をつける事が大切。


瑠凪は内心で腕まくりをし、小さな姉弟きょうだいに勝手に戦いを挑むことにした…。


何だかもう…ちまちま書いているので、次がいつになるか分からない体たらくでございます(・_・;


もし、続きが気になる…と思って下さる稀有な方がおいでなのなら、ブックマークなどして頂けると、がっかりさせてしまう頻度を減らせるのではないかと愚考致しまする…〈(_ _)〉

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