妖艶、清楚、可憐、凛然、…清婉?
なかなか話が進まない…もとい進められない。゜(゜´ω`゜)゜。
アレクシスにエスコートされ、邸内に戻る途中で、ヴィンフリートと出会い、エスコートを交代する。
アレクシスは本来エスコートする予定の姪の元へ戻り。
「アレクと一体何を?」
「ご両親に紹介したい…と言われて。四家の奥様方とのお茶会がいつになるか分からなくなってしまいましたでしょう? ですから」
ヴィンフリートが眉間を揉み解している。
解せぬ。
「ヴィーがわたくしを放って何処かへ行ってしまったのが悪いのよ」
つんとそっぽを向いてみせる。
ヴィンフリートがふわりと微笑った。
「そうですね、宰相の呼び出しなど蹴っても良かったでしょうかね」
「宰相…って、ルントシュテット公爵…でしたっけ。こちらにいらしているのですか?」
「ええ、此処は魔術師団内の交遊を目的とした夜会ですから、本来なら来ないのですけどね。全く、陛下といい宰相といい、曲がりなりにも国のトップに居るはずの人たちに、何故こんな益体もない話が届くのでしょうね」
「まさか、公爵さまもご夫婦で…?」
「当然でしょう。妻か娘以外をパートナーにしたら血の雨が降りますよ、姉上」
「それはそうだけど、お一人で少し顔を出す…などという訳にはいかないのね」
「公爵ともなれば無理ですね。私で辛うじて…です。兄上では出来ません。だから姉上にパートナーをお願いしようと考えていたんですよ。姉上にはパーティやダンス、エスコートに慣れて頂かないといけませんし、何より、私たち兄弟もいい加減婚約者を見繕わないと。頭の痛い話です」
(み、見繕う…)
眉を寄せながら溜息を吐く美麗な弟に軽く顔を引きつらせながら、ふと問うてみる。
「親族であるバルシュミーデ侯爵家とか、例えば貴方の場合は上司に当たるのかしら、ファーベルグ公爵家とかに紹介していただく訳にはいかないの?」
「可能ですがね…そこが入ってくるとほぼ決定事項になってしまいますから」
「なるほど、ヴィーの意思は無いわけね。あー、リーンハルト様でもいいんじゃない? 侯爵家だって聞いたわ。そんなに無体を仰らないとは思うのだけど?」
そう返すと、何故かヴィンフリートは目を逸らす。
「…さすがに、総帥の手を煩わすのは申し訳ないですから」
「? …そんなにリーンハルト様って手厳しい方なの?」
「そうではないのですが…」
不自然に泳ぐ眼差しに、先程のファーベルグ公爵の爆弾発言を思い出す。
「もしかして、リーンハルト様が奥様を亡くされているからお願いしづらかったりするの?」
そう問うたところ、ヴィンフリートが目を瞠った。
「侯爵夫人の事、お聞きになったのですか?」
「…はっきり聞いた訳ではないけど、後添えって言い方されたから」
「実は侯爵夫人のリーゼロッテ様はイゾルデ王妃の姉君なのですよ。王家に行きそうで恐ろしい」
「…奥様がご健在ならともかく、リーンハルト様がそんな事をわざわざ話すとは思えないのだけど」
…苦笑いしかない瑠凪。
ふと思い出したのは、騒動の直後のリーンハルト。
今の情報からすると、王妃はリーンハルトにとって義妹に当たる訳で、妻に続いて義妹までも喪うところだった…ということになる。
それは心も凍るだろう。
愚にもつかない事を囀っていると、ファーベルグ公爵夫妻と、もう1組の夫婦が中央ホールに歩み出した。
「ファーストダンスですね。主催者であるファーベルグ公爵夫妻と、出席者の中で最も身分の高いルントシュテット公爵夫妻です」
ヴィンフリートはそう囁くと、瑠凪はもう1組の夫婦を見つめた。
フランツィスカ様は妖艶、ユリアーナ様は清楚、クリームヒルト様は可憐。
そうすると、ルントシュテット公爵夫人アマーリエ様は何だろう…。凜然…かな?
隣で佇む宰相の夫にも引けを取らないバリキャリ感が有る。
純粋にカッコいいと思います♪
…え?!
あることに気付いてしまった瑠凪は、盛大に顔を引きつらせる。
夫の“宰相”って…!
あの時、無神経な発言を怒鳴りつけた相手だ…!!
ヤバい…かもしれない。存在がバレないように回れ右したい。
ヴィンフリートの腕に添える手に微かに力が籠る。驚いたようにヴィンフリートがこちらへ視線を注ぐが、その瞬間、宰相様がこちらを見つめて来た。
ふっと眇められた目が怖い!
口角は上がってるのよ? でも、目が笑ってない!
確実に目が合って存在がバレた。
主催者のファーストダンスが終わり、楽団が歓談の邪魔にならない程度の音量で奏で出す。
あちこちで挨拶に花が咲く。
アマーリエは内心で首を傾げた。
夫ファビアンの歩に合わせるのには慣れているが、この歩き方は獲物を見つけたそれである。
常なる魔術師団の夜会。普段顔など出さないものが予定を調節して参加すると言い出したことでも驚きなのに。
何が夫の気をそこまで引いたのだろうか。
歩み寄る先にいるのは、…ああ、リートミュラー伯爵の次子だ。確か、氷魔術の使い手で、2属性しかないにも関わらず、魔術師団にスカウトされた凄腕の持ち主。
パートナーはどこの令嬢だろうか。マダム・クラウディアの白いドレスをまとった、珍しい黒髪の美しい女性。
…そういえば、フランツィスカが、伯爵に隠し胤がいたと言っていたが、この娘がそうなのだろうか。
…性格の悪い夫に獲物認定されてしまった愛らしい姫君が狩人の手から逃げられるよう協力してやろうとは思っている。
微笑みながら佇むヴィンフリートの手を幾ら引っ張ってもにこにこしているだけで動いてはくれず、そうこうしているうちに、宰相様が目の前に…。あう、詰んだ。
取りあえず、御辞儀で濁せる…かなぁ?
アマーリエは扇の陰でくすりと微笑う。
ふわりと優雅なカーテシーは恐らくフランツィスカ直伝だろう。
ぎこちない様が何ともいえず可愛らしい。
彼女のような娘を産みたかったとしみじみ思う。
息子など可愛くない。どうせ嫁の方へ盗られてしまうのだから。
…彼女のような嫁ならそれも良し…か。
義娘として可愛がらせてくれるだろうか。
ファビアンは綻びそうになる口元を必死で押さえていた。
あの時氷水をぶち撒けた相手が、よもやこの国の宰相だったとは思いもよらなかったのであろう。
国王を揶揄っていたのだから少し考えれば解りそうなものだが、その辺りは平民上がり故か。
…いや、どちらかと言えば、リーンハルトの責任かもしれない。
姻戚関係故もあってか、あの男はトリスタン陛下に気安いからな。
柔らかく笑むと、礼儀に則り、その繊手を取ってその甲に軽く口付ける。
「先日は王妃、及び愛らしい王女殿下をお助け下さり、国の宰相として深く御礼申し上げる」
「い、いえ、過日は宰相様とは存じ上げず、大変御無礼を致しました。リートミュラー伯爵が娘、ルナイリスと申します。見知り置き頂ければ幸いに存じます」
口付けに仕来たり通りの礼を返しながら、紅唇が言葉を紡ぐ。
ヴィンフリートの腕にかけられた手には、かなり力が入っているようで、指先が白くなっている。さすがに痛かったとみえて、ヴィンフリートが姉の腰に手を回した。
少し驚いたようだったが、引き寄せられた事に安堵したのか、指に血色が戻っている。
「カント侯爵が掛け値なしに褒めていた。精度の高い聖女の手を持っていると。…他の魔術もかなりなもののようだしね」
くすりと笑みを浮かべ言外に無礼を指摘する。
「侯爵様が…? まだまだ未熟者ですのに光栄な事ですわ」
単なる褒め言葉と受け取ったらしい。
貴族社会の裏表まではまだ教わっていないようである。
さて、これほどの使い途、どう言質を取ってくれようかと考えていると、妻アマーリエが進み出た。
「初めましてね、リートミュラー伯爵令嬢。わたくしはこの人の妻でアマーリエというの。よろしくね」
妻が初対面の令嬢相手では珍しい、柔らかな笑みを浮かべて挨拶する姿に内心で舌打ちする。
学生時代からの親友でもあるバルシュミーデ侯爵夫人から何某か聞いているのであろう。
牽制されていることくらい分かる。
「ルナイリスと申します、ルントシュテット公爵夫人。わたくしの方こそ宜しくお願い申し上げます」
少し緊張も解れたのかカーテシーが柔らかい。
アマーリエはくすりと笑った。
「こんな意地悪爺いと話していたらお腹の中まで真っ黒になってしまってよ。ヴィンフリート、彼女を少し借りるわね」
「はい、公爵夫人。…ただ、姉はまだ世間知らずな面が多々ございますので、もしも何か非礼がありましたらどうかご寛恕を」
ヴィンフリートが些か失礼な発言をしながら姉を送り出す。
アマーリエは彼女を従えてゆっくりと歩を進める。
従者から琥珀色のパリーニャのグラスを2つ受け取ると、彼女に差し出した。
差し出された琥珀色の飲み物。
香りを確かめてゆっくりと口に含む。
…昔、一度だけ弟が奢ってくれたドンペリだ、これ…。
多分、此処では名前が違うんだろうけど。
同じパリーニャのグラスを持ってクリームヒルトがこちらへ来た。
魔術師たちは見慣れない令嬢に話しかける気満々だったのだが、公爵夫人を押し退けてまで声をかけられず、遠巻きにして見ているだけで。
3人のその様子を遠目で眺め、虫除けを夫人たちに任せることをヴィンフリートが真剣に考えていると、肩を叩かれた。
振り返ると、珍しく正装姿のリーンハルトが立っていた。
「総帥」
「今来たのだがもう踊ったのか」
問われてヴィンフリートは首を振った。
「ファーストダンスが終わって挨拶周りの最中です。姉上はあちらに」
指す手の方を見ると、公爵夫人たちに勧められてキッシュをつまんでいるようだ。
「しかしファビアンまで顔を出すとはな」
苦笑いしかないリーンハルトである。
性格の悪いファビアンの事だ、水を掛けられたことをこれ見よがしに持ち出したのであろう。
「そうですよ。何故国の上層部が姉上の話を知っているのでしょうか。平和ボケというやつですかね」
辛辣に呟くヴィンフリートを軽く小突く。
「そんなに軍を出したいのか」
「そういう訳では」
はっとしたように軽く目を瞠る。
…まだまだ若造な。
これでは老獪な宰相に勝てる訳もない。
ヴィンフリートに任せていては宰相が乗り出してきた以上、彼女の将来に不安しかない。
「…で、ルナイリス嬢の此処でのファーストダンスはどうするつもりだ?お前が踊る方が良いのか? 俺が引き受けても構わないが」
「有難うございます。最初は連れて来た私の方が良いかと。可能ならばその次をお願いしたいと思っていたのですが」
「分かった、引き受けよう。2曲でいいのか?」
「出来れば3曲…と思っているのですが」
「ならば3曲目はパスカルに頼むのが良い…ああいや、2曲目をパスカルが良いな。ラストを俺が引き受けよう。立て続けに踊らせるのは酷だろうから、2曲踊った後で少し休ませてやると良い。…あと、宰相には気を付けておけ、獲物認定されてるぞ」
最後の一言は囁くかのように耳朶に吹き込む。
「獲物って…」
唖然としているヴィンフリートの肩を軽く叩く。
「仕方ないだろ。それなりの年齢で婚約の決まっていない貴族令嬢なんてそういない。しかも、5属性持ちと来ている。はっきり言って息子たちに婚約破棄させてでも国に留め置こうと画策する可能性大だ。…良くてアレクシスだろうな。…異母姉でなければお前も候補者だったろうよ」
「総帥も候補のようですが?」
発せられた言葉に危うくワインを吹き出しかける。
…そうだった。リーゼロッテが嫁に来たのは見た事のない属性持ちだったからだ。
水晶玉を使い魔力の系統を調べられるようになってから500年ほどになるが、その歴史の中でも初めての色ー紫。
光を表す金すら珍しいのに、何の属性か不明な色までも持ち合わせた女性。
さんざん調べて、漸く幻惑関係の魔術だと予測がつき、その実験と顔合わせが込みという、恋愛などあまり聞かれない貴族の婚姻としても、例を見ないスピードであったらしい。
…当事者でありながら『らしい』という反応な辺り、彼女には申し訳ないことをしたと思っている。
…次で終わらせたいな。奥様方との顔合わせが期せずして済んでしまったので、お茶会も一話で済みますように…(>人<;)




