平穏が一番…。
1ヶ月空いてしまった…(⌒-⌒; )
行き当たりばったりの弊害ですね…(^^;;
温もりを感じて目覚めると。
「テオ…いつの間に…」
瑠凪は思わず苦笑いしてしまった。
小さな身体が猫の子宜しく布団に潜り込んで来ている。
起こさないように気を付けてベッドから抜け出すと、カーテンをそっと開けた。
随分と陽が高い。昼時に近いか過ぎているか。
…昨夜帰り際に、今日の訓練のお休みを願い出た。
二つ返事で了承されたのは恐らく騒動の後始末がある為だろう。
今日はカレーを作ってみるつもり。
お米は無さそうなので、仕方ないからチャパティにしようと思っている。
「テオ、起きなさい」
優しく揺すぶる。
「……むにゃ…」
目を擦りながら抱きついて来る温もりを堪能する。
…ここ暫く、魔力絡みで家人とも殆ど会話をしていない。行きは基本ヴィンフリートと一緒の馬車ではあるが、何やら疲れ切った様子で、訓練の成果を多少聞かれる程度で、あまり会話を振って来ない体たらく。
ふうっと溜め息を吐く。と。
「…あねうえ…」
腕の中のテオドールがもそもそと動き出した。
「おはよう…かな?」
「ちがうよ、あねうえ。おそようだよ!」
「あらあら、そうなの? じゃ、お昼は終わったのかしら?」
「うん。あねうえはおつかれだから、ゆっくりねかせておいてあげなさいって、あにうえが言ってたの。…あ、あねうえおきたらおしえてねってヘルガが言ってたからおしえてくるね!」
ヘルガって誰?
と思ったのも束の間、テオドールは腕からするりと抜けると、部屋を出て行ってしまった。
ややあって、コリンナが入って来る。
「随分とお疲れのご様子ですね、ルナイリス様。今日は如何なさいますか?」
「そうね、ここ1週間ほど、いろいろ考えたりしなければならない事がたくさんあり過ぎて、頭が飽和状態なの。身体がというより気持ちが疲れてしまったみたい。だから、久し振りにちょっと溜まったものを発散しようかなって」
「さようでございますか。…そう言えば、マダム・クラウディアのお店から、一度顔を出して頂きたい旨の打診がございました。これからお出掛けになられますか? ヴィンフリート様より、お出掛けになられるのであれば先日と同じく、ヨハンがお伴するよう承っておりますが」
「そうね…。ちなみに今時刻は何時頃なの?」
「今ですか? 青の時でございます」
この国の時間は日の出と日の入りを基準に、江戸時代の日本のように2時間毎に括って、干支ではなく色で表す。
日の出と日の入りは6時と決まっていて、自転によるズレはないらしい。
それでも気候の変動はあるのだから不思議なものだ。
流れとしては、日の出→黄→緑→金→青→橙→赤→日の入り→紫→藍→黒→灰→銀→白…となる。
青の時ということは、午後になったばかりという意味。
簡単にブランチを摂って出掛けることにする。
コリンナに案内されて食堂に行くと、野菜たっぷりのミネストローネ風のスープと、フランスパンのようなパンがたっぷり準備されていた。
コリンナ曰く、テオが言っていたヘルガというのは彼女の姉で厨房を仕切る女傑だそうな。ちなみにヨハンの奥様とのこと。
…何その職場結婚のオンパレード。
食後、外出の支度を整える。
今回は、ヒヤシンスのような紫がかった青い色のドレスにいつものコームで髪をまとめる。
小粒のサファイアのネックレスとイヤリングを付けて完了。
表に出ると、馬車を設えてヨハンが待っていた。
「本日の行き先はどちらへ?」
「マダム・クラウディアのお店よ。それと、帰ったら少しお料理したいの。先日買った分だけでは多分足りないから、市場へ寄ってくれると助かるわ」
橙の魔力を行使して作った薬草は、王宮の医師たちに気に入られて高値で買い取ってもらえたのでちょっとした小金持ちなのである。
…とは言え、小市民な思考からすれば大金なのだが、一応伯爵家の令嬢としては小金と言うべきなのだろう。
「料理…ですか? お嬢様を厨房に入れる事にヘルガが同意しますかどうか…」
むむと眉間にしわを寄せるヨハンに、瑠凪は笑い出した。
「ほんのひと月かそこら前まで平民だったのよ? 令嬢扱いされても困るわ」
「だからこそ、ですよ。以前はどうあれ、今のルナイリス様は伯爵家のご息女なのですから」
さり気なく正鵠を射る一言に口を噤むしかない。思わず溜息を吐きながら、馬車の外に目をやる。
程なくして見覚えのある角を曲がった…と思ったら馬車が停まった。目的地らしい。
ヨハンのエスコートで中に入ると。
「まぁまぁまぁ、ルナイリス様!ご足労をお掛け致しましたわね。こちらのお部屋へいらして下さいまし。護衛の方は隣室へどうぞ。エッダ、お茶を宜しくね」
例の調子で捲し立てながら出て来たマダム・クラウディアに奥まった部屋へと引っ張っていかれる。
「さぁ、こちらですわ。自分で言うのも難ですが、素晴らしい出来と自負しておりますのよ」
目の前の2体のトルソーが着ているドレスに、瑠凪は目を奪われた。
線対称のドレスである。
片方は月白のシャンタン地、左腰の辺りに青藍のオーガンジーの薔薇細工が飾られている。
ワンショルダーで、覆われた右肩には青藍の糸で薔薇が刺繍されている。
シンプルなAラインで、ドレープが美しい。
片方は珊瑚珠のジョゼット地、右腰の辺りには白練のオーガンジーの薔薇細工。
こちらもワンショルダーで、覆われた左肩には輝く純白の糸で薔薇が刺繍されている。
こちらはプリンセスラインで、裾には珊瑚珠色の糸で編まれたレースが施され。
「如何でしょう、お気に召しましたか?」
「…ええ。…言葉が無いわ…。あまりに素敵過ぎて…わたくしに着こなせるかしら。ドレスに着られてしまいそうだわ」
「何を仰いますか。さ、取りあえず合わせてみましょう。こちらへ」
隣の部屋へ連れて行かれ、ぱっとドレスを脱がされる。あたふたしていると新しいドレスを着せつけられた。
マダムがあちこちを摘みひだを寄せたりしながら、瑠凪の身体に合わせて行く。
「白を夜会へ、紅を茶会へ…が宜しゅうございますよ」
そんなアドバイスを寄越しながら、てきぱきと動く手を瑠凪はぼんやりと見つめた。
うん、紅は造りからして色っぽい。
同じワンショルダーでも少し幅が細めなのと、膝上辺りまで切れ込んでいるサイドスリット。
こんなもの貴族子息の集まる夜会なんかに着て行ったら、お持ち帰りな未来しか見えない。
まだまだ女性の立場は弱い。
公爵家も侯爵家も四家以外に存在するし。
「さ、これで宜しいかと。夜会は明後日と聞いておりますので、ギリギリ間に合いましたね」
「そうでしたの?!」
聞いていなかった為声が裏返る。
四家の奥様方との茶会の予定は、当初は夜会のデビューのひと月後だったが、想定外の事が起きた為、取りあえず伸ばしてもらっている。
これで領地に戻ったら、その件をフランツィスカ様と話し合わなければ。
しかし明後日とは…。
ヴィーとは踊った事が無いのだけど…。
というか、ダンスなんてあれからしてないし付け焼き刃だもん、忘れちゃったよっ!
…帰ったら料理より練習しなきゃ、かも…。
ストレスを解消するどころか更に積み上がりそうな予感に頭を抱えながら、店を後にする。
「ヨハン、あなたは今日のヴィーの予定、聞いてる?」
「…はい。特に何用も無いとのことで、普段通りのお戻り…と」
「そう。…実は、明後日、魔術師団での夜会があるそうなの。ダンスの練習が必要とね、わたくしは思いますの。伝言宜しくね」
「承りました。…して、この後のご予定は?」
「どうしましょう。取りあえず、料理どころでは無さそう…なのだけど…でも…さすがにいろいろと…」
突如打ち込まれた予定にこめかみを解しながら考える。
カレンデュラオイルもローズマリーオイルも仕込んだのが10日前ではまだ無理だし…刺し子とか刺繍とかしても、結局後の使い途が無いし…あ…オレンジポマンダーでも作ってみようかな、この頃放ったらかしてるテオと一緒に。
そう思い立って、前に寄ったリートミュラー家のアンテナショップと、リーンハルト様、アレクシス様のお家のお店に寄ってもらう。
アンテナショップでは手頃なサイズのオレンジを2つ買い、リーンハルト様のところでクローヴの乾燥した蕾をたくさんと、シナモン、オールスパイスを適当に粉末で購入。
勿論、名前は全て違っているので、自分の記憶が頼り。
…オールスパイスは自信ないけど。
で、アレクシス様のところでは、オーガンジーをスカーフくらいの大きさに2枚裁ってもらって購入。後はリボンを2種類、マスキングテープ代わりに使う廉価なものと、吊るす用に、一目で気に入った臙脂のベルベットのリボンを。
テオには瞳の色のペリドットのものを選んで。
帰邸後、コリンナに頼んで料理に使う短めの串を1本持って来てもらい、テオドールを呼んで来た。
「夕食までお手伝いお願い出来る?」
「うん! なにするの?」
「いい匂いのする飾りを作るの」
「かざり?」
「そうよ」
オレンジに十字にリボンでマスキングして、空いた部分にバランス良く穴を開けて行く。
これは危ないので自分でやって、テオドールには穴にクローヴを刺してもらった。
クローヴの先を潰してしまわないように教えながら、見本を見せる。
滲み出る果汁を小まめに拭き取りつつ、クローヴを刺していく。
小さな指でクローヴを摘み、オレンジを睨み付けながら、えいっとばかりに刺していくテオが何とも言えず愛らしい。
思わずスマホ引っ張り出して動画を撮ってしまった。
「できた!!」
びっしりとクローヴに覆われた2つのオレンジ。
「じゃあ、白いリボンを外してくれる?」
「うん!」
つぼみを壊さないように、一所懸命丁寧にしているのもまた可愛い。
前に買い物した時の包紙を広げて、シナモン2にオールスパイス1の割合でパウダーを作る。
丁寧にオレンジにまぶして。
テオドールはすっかり面白がって、ころころと転がしている。
「それで、このあとは?!」
「このあとはこうやって暫く吊るしておくのよ」
クローヴのつぼみの間に詰まったパウダーを丁寧に取り除いてからオーガンジーの布で包み、白いリボンで結えた。取りあえず朝日が入らない側の窓の外へ吊るしておくことにする。
日光は大敵だから、昼頃になったら夕日の入らない側に移動させよう。
「どうしてつるすの?」
「オレンジの中にはたくさんのジュースがあるでしょう? あれを頑張って突き刺したクローヴが吸い出してお外に捨ててくれるのよ。ジュースが無くなったらカラカラになっちゃうよね? そうしたら出来上がり、よ」
「クローヴのすいだしてくれたジュースはのめないの? おいしそう」
その発言に思わず吹き出してしまう。
説明が悪かったかもしれない。
「少しずつしか出してくれないから残念だけど無理ね」
くすくす笑っていると、夕食に呼びに来た。
ちょうど良かった。
挙げ句の果てに、投稿したつもりで出来てなかった(>_<)




