こんにちは、あかちゃん♪
「すみません、わたくし、翠が使えます。陛下に言われてこちらへ参りました」
声をかけると、その場にいた人々がこちらを振り返った。
「お気持ちは有り難いが、ご覧の通り、足が見えている。これでは産むことは叶わぬ故、陛下にご決断をとお伝え願えぬか」
侍医らしい老女に言われて見ると、確かに足が出てしまっている。
「取りあえず試させて下さい。陛下の許可は得ております。妃殿下も御子もお救いすることができるかもしれません」
唖然としている人々を尻目に、瑠凪は正妃の元へ歩み寄った。
「ほ…ん…とぅ…に、この…たすか…」
喘ぎながら漏れる言葉に微笑みを返し、その身体を抱きしめるようにして背に手を当てた。
訓練通り、双の掌に魔力を満たす。
背中をさすりながら癒しの力を注ぎ込む。
顔色が少し良くなって来たのを見計らい手を離す。
少し離れて小脇の酒の瓶を開けると手にかけた。強い酒の匂いに、侍医の老女がぎょっとした顔をする。
「酒だと…?!」
「御子に触れるのに何かあっては困りますから」
やっぱり消毒とか衛生面での危険とかっていう観念は無いか…。
どうやって説明しよう。
危険性は感じつつも、何とかなるかと気を取り直し、改めて双の掌に訓練通り、聖女の手の魔力を込める。
片手を腹部に置き、片手を赤子の足に添える。
ゆっくりと、胎内に押し戻すイメージを込めて魔力を流す。
さ、あんよを引っ込めましょうね…そうそう、上手上手。
「な…足が…」
驚いたような騒めきを尻目に、消えてしまった魔力を込め直すと、今度は双の掌を腹部に当てた。
レントゲンのイメージを込めて魔力を注ぐと、…やった、成功!
胎児の姿が朧げにだけど見える。
良かった、臍の緒は巻きついたりしてないみたい。
今度はあんよをぎゅっと縮めて…そう、いい子ね…次はくるっと回れるかな…?お、うまく出来たね…。じゃ頭を下にそのままもうちょっと降りてきてね…こっちだよ…。
心の中で語りかけながら魔力を注ぐ。
よし、産道に入った!
これで後は妃殿下の出番。
妃殿下の手を握る。
「もう御子は大丈夫ですわ。後は母君の頑張りのみです。さぁ、いきんで下さいまし」
消えた魔力を込め直して、今度は片手を腹部に、片手は妃殿下の手を握り、魔力を注ぐ、注ぐ、注ぐ…!
「ぁああぁ…っっ!!」
甲高い悲鳴と共に、
「お産まれです! 愛らしい王女殿下にあらせられ」
侍医の老女の言葉が止まる。
赤子が…泣かない。
そんな…ここまで…来たのに……!!
慌てて侍女たちが湯を使い、身体を清めても、泣こうとしない。
空気がざわつき始める。
ふらつく身体を必死で起こし、手を伸ばす。
「御子をわたくしへ…!」
伸べた手の中に小さな身体が収められる。
…ごめんね。
震える手を振り上げ、赤子の小さなお尻を引っ叩いた。
「おぎゃあ…おぎゃあ…!」
か細い泣き声が響く。多分体力を使い果たしているのだろう。
少しだけ翠の魔力を手に込めて赤子を抱く。
柔らかな温もり。
「さ、妃殿下。抱いてあげて下さいまし」
疲れた顔で、でも、一仕事やり終えたという表情の正妃に赤子を渡す。
「髪の色は陛下に…瞳は…あら、王太后殿下から頂きましたのね。きっと可愛がって頂けるでしょう」
…微妙に嫁姑の確執を感じさせる発言だな。
「不躾を伺いますが、乳母はもう…?」
「ええ」
「さようですか。ですが、御子を丈夫にお育てになりたいなら、最初の1週間ほどだけでも、母君御自ら授乳なさる事をお勧め致します。胸が張る事も抑えられますし、母君の回復も促してくれます。良い事尽くめですわ」
初乳だの何だの、知っている訳がないと思うので取りあえず説明だけして立ち上がる。
…身体がぐらりと揺れた。
魔力の使い過ぎだろう、貧血のように気が遠くなる。必死で足に力を込めて、きちんとお辞儀をした。
侍医らしい老女が何か言っているのを聞こえないふりをして部屋を出る。
部屋の前には心配そうな父親と師匠が立っていた。
震える足に力を込めてもう一度国王に向かいお辞儀をする。
「陛下、ご安心下さいませ。愛らしい王女殿下にあらせられます。妃殿下曰く、髪は陛下に、瞳は王太后殿下に似ておいでとか」
引きつった笑顔を浮かべる…までが限界で。
力無くくず折れた瑠凪を、慌ててリーンハルトは抱き留めた。
「魔力切れだろう。後は俺が診る。お前は奥方のもとに行って労ってやれ」
抱き上げたまま、転移で自室に戻る。
ベッドに横たえると、部屋を離れた。
もやもやとした想いが沸き上がるのを必死で押さえ込む。
ルナイリスに罪は無い。
…理不尽な…怒り。
何故、あのとき、きみがいなかったー!
ブックマークが少しずつ増えてる(๑>◡<๑)
有難うございます(≧∇≦)




