異世界の、お約束♪ からのー?
少しずつブックマークが増えて来ていて喜ばしい限りです♪
皆様、有難うございますm(_ _)m
翌日のこと、朝食の席で。
「今日は何か予定はありますか?」
「特に予定は…というより、予定自体を立てようがないのですけど。せっかくなので観光宜しくちょっとふらふらしたいな…とは思ってますが」
「でしたら、王宮へ行ってみませんか? …正確には魔術師団ですが。魔法の適性を調べておいた方が良いと思うんですよ」
「簡単に分かるものなのですか?」
「ええ、水晶玉に手を翳すだけですよ」
「面白そうですね。行ってみても良いですか?」
「では食後、着替えて出かけましょうか」
「何か服装の指示などあります?」
「特には有りませんよ。…ただ、…そうですね、その辺りはコリンナに言っておきます」
「はい」
…隣でテオドールが拗ねているのは綺麗にスルーしてヴィンフリートが立ち上がる。
「…待ってもらえますか?」
瑠凪は立ち去ろうとするヴィンフリートに声をかけた。
「明日はテオドールと出かけても構いませんか? 少し王都を歩いてみたいんです。買い物したりとか」
テオドールの目が輝く。犬ならぶんぶんと尻尾を振っていると見た。
「2人だけでは許可出来ません。僕も明日は都合が悪いので、誰か護衛をつけます。ガイドも兼ねて1人で大丈夫でしょう。嫌だというなら外出は認めませんよ」
「それは当たり前です。…というか、2人で出かけたら多分確実に迷子になります。皆様にご迷惑かける事は必至です」
護衛付きは正直有難い。曲がりなりにも伯爵家の令息、誘拐だ何だと十分考えられる事だから。
「分かりました。護衛の人選はこちらでします。…ではまた後ほど」
去って行くヴィンフリートを見ながら、食事を再開する。
テオドールの世話をしながら食べ終わると、小さな身体をぎゅっとハグして部屋に戻った。
そこにはコリンナが待っていて、手早く身仕度を整えてくれた。
淡い若草色のAラインのドレス。胸元には小粒のサファイアのペンダントをあしらい、碧玉色のヒールと髪に同色のリボンを加え、ざっくりと編んで片側に流す。
ヴィンフリートにエスコートされて、馬車で王宮に向かう。
城壁の周りを半周。数か所の門を全てスルーして、勝手口的なイメージの小ぢんまりした門の前で降りる。
門の脇に立っていた衛兵にヴィンフリートは軽く挨拶し腰に付けていた懐中時計を見せた。
そこには所属する第三魔術師団の紋が刻まれており、それを確認した衛兵は隣の瑠凪に目をやる。
「そちらの令嬢は?」
「私の姉です。許可証は此処に」
ヴィンフリートは懐から1通の書状を出し、それに目を通した衛兵は軽く頷くと門を開いた。
そのまま足早に歩くヴィンフリートに連れられて角を曲がる事3度。
1つの建物の前に辿り着いた。
前には1人の男性が立っている。
「今日は宜しくお願いします。こちらが姉のルナイリスです。…姉上、彼は魔術師団の団長、ヴァイラント伯爵パスカル卿です」
「お初にお目にかかります。今日はお時間を割いて下さり有り難うございます。ルナイリス・フォン・リートミュラーと申します」
蘇芳色の髪に、葵色の瞳。
顎のラインで切り揃えられた前下がりのボブは、品の良さを感じさせる。
「こちらこそ、貴女のような美しい令嬢にお会い出来て光栄です。パスカル・フォン・ヴァイラントと申します。以後良しなにお願いします」
手を取られて指先に口付けられる。
…本当に慣れない。焦って振り払いたくなってしまうのを漸く抑える。
「では、参りましょうか」
建物のドアが開けられ、招き入れられる。
階段を上がって突き当たりの部屋に入った。
四畳半ほどのそこには、テーブルが一つあり、その上には大きな水晶玉が鎮座している。
「これに手を翳して頂きます。…とは言っても不安でしょうか。先に自分がやってみますね」
パスカルはそういうと両手を翳した。
まるで、水の中に絵具を落としたように色が広がって行く。
赤が1番強くはっきりとしていて2/3程を染め上げた。残りが、濃い黄色と淡い水色、緑のマーブル模様である。
瑠凪は弟の玩具のビー玉を思い出した。
「綺麗…」
「量が多くて強い赤、これが自分の主属性です。つまり炎になります。そして、黄色が雷、水色は水、緑は風、ですね。混ざり合うのは訓練によっては併用が可能という事を表します」
「併用ですか?」
「分かり易く言うと、右手で風を、左で雷を…なんて事が出来ます」
「…つまり、右手で炎、左手で風は出来ないという事でしょうか」
「はい、その通りです。但し、両手使いが出来ますので威力は倍では済みませんよ?」
にやりと笑うパスカル。続いてヴィンフリートに視線を向けた。
ヴィンフリートが肩を竦めながら水晶玉に手を翳す。
ヴィンフリートは、藍色と濃い水色の見事なマーブル模様だった。
「藍色は氷、ですね。ヴィンフリートは魔術師団でもトップクラスの氷魔法の使い手なんですよ」
氷と水…何だかものすごくヴィーらしい気がしてしまう。
ふと気になったので尋ねてみた。
「2人に同じ水色がありましたけど、濃さが違いました。濃さにも意味があるのですか?」
「濃さは強さを示します。なので、純粋な水魔法では、自分はヴィンフリートに敵いません」
「ず、随分正確に分かってしまうものなのですね。これは全ての人がするのですか?」
「貴族であれば、7歳の誕生日を迎えた月末にここに連れて来られます。そして、自身の持つ属性を理解して使いこなす為の訓練を始めるのですよ」
「色が付かないこともあるのですか?」
「ヴィンフリートの兄君のように、ほぼ透明…という人は稀にいますよ。彼のは珍しかったですね。透明な水晶玉の中央を赤い光が通り抜けたような感じで。そういう人は力に長けますから騎士の道を選びますね」
2人から視線を注がれ、瑠凪は怖々と水晶玉に両手を翳した。
鮮やかな翠色が広がってゆく。
2人の顔が驚愕に彩られた。
基本は翠で、その次が濃い橙のマーブル模様。後は赤と藍と水色のマーブル。そちらは量は多くないが色味がはっきりとしている。
5色のマーブル模様…ではなく、水晶玉の容積のうち、2/3が2色の、1/3が3色に分かれてそれぞれマーブル模様を構成しているのだ。
「『聖女の手』だ…」
パスカルが零した物騒な言葉に瑠凪は固まった。
せ、せ、せ、せ、聖女…?!
勇者と共に魔王退治とかぜっっっったいに嫌ー!!
「どうします…?」
「取りあえずヴィンフリート、お前は黙っておけ。下手に広まれば大事になる。陛下と宰相への報告は俺からしておく」
「了解です。訓練はどうしましょう…?」
「その辺りも拝謁の際に相談しておく。そうだな、接続はここでやってしまおう。俺がやる。…但し、翠を繋いだ経験は無い。万一暴走したら、頼む」
「はっ」
瑠凪が“お約束”にプチパニックに陥っている間に、深刻そうな表情のまま2人は相談を進める。
「い、い、今の、『聖女の手』…って…」
「はい、ご説明致します。まず、この色、先ほど自分に有った緑とは異なる、“翠”です。この翠は治癒を表します。つまり、怪我やある程度の病を癒す力をお持ちです。また、重度の怪我や病を、和らげる事も出来ます。そして、橙は植物を表します。この2つの属性が混ざり合ったものを『聖女の手』と呼んで、生きとし生けるもの全てを癒す事が叶うと伝えられております。自分は此処で働き始めて10年経ちまして、様々なお子を見て来ました。しかし、これだけ色濃く、くっきりと混ざり合う様を見たのは初めてです」
ひぇー…何というチート…。
「しかも、炎と氷と水が併用出来る。実に素晴らしい」
「…氷が使える…ってつまり、モノを凍らせたりとか出来る訳ですか?!」
「訓練は必要ですけどね」
「氷菓子とか作れますか?!」
「…は?…氷…菓子……?? た、多分可能だと思いますが…」
やった! 人間冷凍庫化に成功!
後でアイス試してみよう♪
…あ、とすると炎も水も…。
「なるほど、つまりこちらはお料理スキルでしょうか」
3色のマーブル模様の部分を指で弾き瑠凪はそう独りごちる。
魔術師を敵に回しそうな暴言に、2人はあんぐりと口を開けた。
「いや、ルナイリス嬢、訓練次第では魔術師団長にもなれる属性をお持ちですよ」
おずおずとパスカルが声をかけるが、瑠凪はまるきりスルーで、うきうきと何やら計画を立てている。
「あ、訓練ってどうするのですか?!」
キラキラとした眼差しを向けられ、パスカルが絶句する。
「取りあえず訓練の前に、ですね。まず、所謂『回路』を繋げる必要があります。団長がやってくれるそうですので、指示に従って下さいね」
ヴィンフリートに言われて、瑠凪は穏和しくパスカルに視線を向けた。
「ヴァイラント伯爵、わたくしは何をすれば宜しいのでしょうか?」
「パスカルで結構ですよ、ルナイリス嬢。…ではこちらに」
隣のもう少し広めの部屋に連れて行かれ、椅子に座らされる。ヴィンフリートが後を付いてきて。
「このようにお手を拝借出来ますか?」
左手は掌を上に、右手は手の甲を上にした様を見せてもらい、それを真似て手を差し伸べる。
「失礼致します。…触れますね」
パスカルは掌を合わせるように瑠凪の手を握り込んだ。
左手に熱を感じ、眉をしかめる。
「どちらの手が熱いですか?」
「ひだり…が…」
火傷しそうなくらい熱い。
「では、その熱が、身体の中を通って右手から抜けるようなイメージを抱いて下さい」
「は、はい…」
言われるままに熱が動く様子をイメージする。
本当にゆっくりと熱が動いていくのを感じ。
その熱の塊が、心臓辺りに到着した時だった。
胸に、灼けるような痛みを感じた。
「ぁぁっ!」
苦鳴とも喘鳴とも付かない熱が唇から零れ落ちる。前に崩れ落ちそうになったが、前に立っているパスカルの胸に頭を押し付ける形になって止まった。汗が床に滴り落ちるのが解る。
「はぁ…っ…ぁ…」
心臓を蝕む灼熱に、手を振り解く事も胸を押さえる事も叶わず、床に落ちる汗の滴を数える事しか出来ない。
パスカルとヴィンフリートは目を見合わせた。
ヴィンフリートは床に跪くとハンカチで瑠凪の汗を拭う。手をくすぐる吐息は信じられないほどの熱を孕んで。
元々微調整は得意なヴィンフリートは、魔力でハンカチを凍らせると瑠凪の額と頰に軽く滑らせた。緩む吐息を確認してから、震える背に冷やした己が手をそっと当てる。
「すみません、姉上。苦しいと思いますが、途中で止める方が危険なのです。ゆっくりで構いません、熱を右手から抜いて下さい」
優しく背をさすりながら声をかける。
瑠凪は必死で胸の熱を動かそうとするも、なかなか動かない。心臓が焼け爛れてしまうのではないかと思えるほどの苦しみに意識を手放してしまいたくなる。が、背中に押し当てられているヴィンフリートの冷たい手がそれを許さない。
少しずつ、少しずつ、灼熱が動いていく。
苦痛はどれほど続いただろうか。
漸く右手に熱が移る。
「よく頑張りましたね、ルナイリス嬢。最後の仕上げに、右手の熱を繋いでいる自分の手にお渡し下さい」
そうパスカルに囁かれ、何も考えずにその熱を繋がれた手へと送り込む。
その瞬間。
がくりと意識が遠退き、パスカルの胸に抱き留められる形になる。
ゆっくりとパスカルは身を起こし、片腕に収まる華奢な体躯をヴィンフリートに預けた。
瑠凪と繋いでいた左手は紅く焼け爛れている。




