出会いー不審
フォルクハルトは傍に佇むヴィンフリートを睨み付けた。
「余計なことをするな」
「彼女は突然現れた暴漢からテオを守るつもりだったんだと思うよ?」
「暴漢とは誰のことだ」
「僕の目の前にいるね」
「敷地内に不法侵入した不審者が何を」
「その方法が分からないんだよね」
ヴィンフリートは肩をすくめ、すっと手を上げた。その指先に小鳥が止まって、何かを話しかけるようにちちちと鳴く。頷きながら聞いていたが、隣のフォルクハルトはつっけんどんに尋ねた。
「で、裏門の警備兵は何だって?」
指を鳴らして役目を終えた術式を解除すると、ヴィンフリートは目を伏せた。
「誰も通ってないって」
「じゃあどうやって」
リートミュラー伯爵家の敷地はかなり広い。
塀の代わりに樹が茂っているが、あの服装では樹など登れまい。
表門も裏門も見知らぬ女など通らなかったといいきった。
「本人に聞くのが一番早いよ。僕の部屋で聞けばいい。…そんな顔しなくても僕がこの女性を抱いていくよ。フォルクはテオを頼む」
そう言うとヴィンフリートは女性と弟を引き離すと弟を双子の兄フォルクハルトに預け、女性を抱き上げてさすがに固まった。
所謂“お姫様抱っこ”というものであるが、不思議な衣装の裾がはだけ、白い脛が露わになったのである。
彼女のものらしき見慣れぬ鞄も持っていくつもりではいたが、その為には手がもう一本必要になる。幾ら魔術に長けていると言っても三本目の手を出すことなど出来る訳もなく、テオドールを抱き上げるとすたすたと行ってしまおうとする兄を呼び止めた。
「待って、フォルク。彼女の鞄も頼めないか」
「…は?」
呆れたように振り返ったフォルクハルトの緑玉の瞳が大きく見開かれる。
「な、何という不埒な…!」
「いや、不可抗力だから。これで運ぶのはうら若い乙女にあまりに気の毒だろ。裾を抑えてあげないといけないから、彼女の荷物を代わりに持ってくれないか。…あ、別に僕がテオと彼女の荷物を持って、フォルクが彼女を抱いて行っても構わないんだけどね」
露骨に嫌そうな顔をしながらも女性の荷物ーといっても中くらいの紙袋が1つとハンドバックが1つの軽装でーを持ったフォルクハルトに軽く頷きながらはだけた裾を合わせるように持つ。
ふと気付いて細い首筋の傷を治してやり。
あまり見ない黒髪を結い上げ、見たこともない衣装をまとう、不思議な女性。
末弟テオドールとの関係も分からない。
ヴィンフリートは深い藍色の瞳を眇めながら、先にある我が家に目をやった…。