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新たな場所、新たな出会い


約束の日。


秘色ひそくのドレスを纏い、髪は巻いて下ろしただけ、メイクも抑えめにお願いして、王都の屋敷に戻るヴィンフリートにくっついて、ブティックへ行くことになった。

そのまま3日間、王都の屋敷にお泊まりだそう。

3日後に簡単に合わせて、後はお任せなのだとか。

…全部お任せで良いんだけどな。

ホントにごく普通だから飾るだけ虚しい気がするのだけど。


んで、ついでに王都の屋敷の使用人たちにも挨拶を…と言われて。


そうそう。

案の定テオが大泣きして。

半ば強引にフォルクハルトから王都滞在の許可をもぎ取って、一緒に馬車に乗ってます。


テオも王都の屋敷の使用人たちとは顔を合わせたことがないとかで、一緒にご挨拶…だそうで、すっかりご機嫌です。

…あの大泣き烏はどこへ行った?!



「テオドールは眠ってしまったのですね」

「あれだけ泣き喚きましたもの。疲れたのでしょう。放っておけば宜しいかと。…もし食事だなんだということでしたら起こしますが」

「食事ですか…どうしましょうか。昼の支度は無用と言って来たのでどこか外で食べるつもりなのですが、何か食べたいものなどありますか?」

「うーん…食事などはまだ掴めていないので、何を食べたい云々というのは特には。ただ、あっさり目が有難いです…」

「あっさり…ふぅむ…」


少し考えるヴィンフリート。


ではと言って連れて来てくれたのが、日本むこうでいうところのファミレスっぽい雰囲気のお店だった。

ヴィンフリートが注文してくれたのは、ミネストローネ風のスープと、2種類のパン。


テオドールは大喜びで、ハンバーグを頼み、やっぱりこぼしている。

世話を焼いてやっていると、周りの視線が何だか温かくて苦笑いした。

…普通に家族団欒で違和感無いのが怖い。

というか家族団欒それで間違っていないのがいろいろと笑える。


明らかに夫婦と一粒種だよなー、姉弟きょうだいとは思えないよね…。


そんな事を徒然に思いながら、食べ終わったテオドールの手を拭いてやっていると、ふと、窓から溢れてきていた陽の光が陰った。


?と顔を上げると、屈強な男が1人、にやにや笑いを浮かべながら立っていた。

…瑠凪の感覚で言うと、イメージはNBAのセンターである。

先だって会ったアレシュ卿も背が高く体格も良かったが、この男は彼よりも縦も横もありそうだ。…ということは獣人なのだろうか。


ヴィンフリートを見ると、苦虫を1グロスくらいまとめて噛み潰したかのような表情かおをしていた。


「…これは…オスカル卿」


ふ、吹き出さなかった私を褒めてほしい。

いや、某薔薇の主人公がっ!

これならアン◯レもフェ◯ゼンも要らない。

1人で革命軍全滅させられるよ、歴史変えちゃえるよ。

…いや、まさかその2人の立ち位置が男の娘とか?!


思わず、阿呆な事を考えてしまったほどインパクトのある名前である。


ただ、気迫というかオーラというかはかなりなもので、肌にびしびし当たるものを感じる。

テオドールに至っては怯えてしがみ付いてきた。


「お前に妻子がいるとは初めて聞いたな」

「お話しするようなことでもございませんから」

え?! 誤解されてるのに、そのままで良いの?!


「もう終わりましたね、帰りましょう」

本当に冷ややかな眼差し。

こら、間違っても妻や子に注ぐ目じゃないぞ。


ヴィンフリートの袖を軽く引き、驚いたように瞠る深い藍の瞳に微笑みかける。

しがみ付くテオドールを抱き上げるとふわりと立ち上がった。

ヴィンフリートに手を取られ、その店を出る。


「では、邸へ行きますね。テオドールを預けてから、マダム・クラウディアへ参りましょう」


馬車に乗り込むと、一応ヴィンフリートに苦言を呈す。

「どういった関係の方かも、何故誤解をそのままになさるのかもお尋ねするつもりはありませんけど、あんな冷たい眼差しでは夫婦だ親子だって言っても説得力無いと思いますよ」


「心配無用ですよ、ルナ。多分オスカル卿は、僕が何か下手を打って、どこかの貴族の未亡人を子どもごと押しつけられたとそんなふうに考える筈ですから」


な、なーる…。


…いや、そうじゃなくて。


「それで良いの!?」

「ええ」

間髪入れずに恐ろしい答えが返って来た。

「貴女につまらない興味を持たせない為です」

「返って興味を持たれたような気がするのですけど」


最後に向けられた視線に、何だか肌が粟立つようなものを感じた。

ドレスの下を見極めようとするような…いや。


「あの方は獣人ですか?」

「え?…ええ。よく…分かりましたね。もしや獣人がいるのですか?」

「…いいえ。ですが、バルシュミーデ侯爵のところでお会いしたのです。その方も長身でしたが、先ほどお会いしたオスカル様も、ひどく屈強な感じで、何となく雰囲気が似ていましたので」


あれは…狙いを定めた獣の目。

リートミュラー家に突然現れた娘の噂を知っていて、ヴィンフリートを揶揄った感じ。


謹んで遠慮しよう、うん。


あんな好き勝手やらかしそうな人、相手してたら疲弊するのは目に見えてる。



馬車はのんびりと進んで、邸の前に着いた。

ヴィンフリートにエスコートされて中に入る。


「お帰りなさいませ、ヴィンフリート様。…ようこそお越し下さいました、ルナイリス様、テオドール様。私は王都邸を与るアルベルトと申します。宜しくお願い申し上げます」


多分ライナルトさんの立ち位置と思われる人が、恭しく頭を下げる。

瑠凪もテオドールを下ろすと、小さくカーテシーをした。


「お初にお目もじ致します。ルナイリスと申します。暫くですがお世話になります」

「ぼくはテオドールです。よろしくおねがいします!」


隣でテオドールが真似をして、元気よく頭を下げる。執事さんは優しく笑うとテオドールに目線を合わせた。


「実はテオドール様がお生まれになったばかりの頃、お会いした事がございます。本当にお小さくあられましたが…月日の経つのは早うございますな」


後でヴィンフリートからアルベルトさんはライナルトさんの弟…と聞いて驚愕した。

ライナルトさんと同じく妻子がこの邸にいたりするのか聞くと、やっぱりいるって。

奥さんが、王都邸での私の侍女になったコリンナさん、息子が1人いて、彼は王宮でヴィンフリートの侍従をしているのだとか。

執事の一族…みたいなのはこの国には多いらしい。


部屋に上げてもらい、テオドールをお昼寝させると、縹色のドレスに着替えてマダム・クラウディアのお店へ。







「まあまあ何と麗しいお嬢さまでしょう! しっとりと野に咲く白百合のように清楚で、なのに紅の薔薇のように艶やかで。このクラウディア、腕が鳴りますわ。ちなみにどちらの夜会へ? …何と、ファーベルグ公爵家でございますか?! しかも、四家の奥様方との茶会のドレスもお仕立て頂けると? では、ファーベルグ公爵夫人は目の良い方ですから、双方に関連性を持たせましょう。令嬢のイメージをそのままに、夜会のドレスは白薔薇で、茶会のドレスは紅薔薇で仕立てましょうか。如何でしょう、ヴィンフリート様」


マダム・クラウディアは、ザ・マダム!と言いたくなるような恰幅の良いご婦人で、瑠凪の周りを回りながらまくし立てた。


白と紅の布を数種類持って来させ、瑠凪の肩から垂らすと、月白げっぱくと珊瑚珠色を選び出した。

そして、採寸だと言われて別室へ案内されたのだが、マダムが手ずから測ってくれた事に少し驚く。

「数字も大切ですが、目で見た印象や触れた肌質なども加味して作り上げますからね」


ーあぁ、だから彼女のドレスは着心地が良くてファンも多いんだろう。


そんなふうに思った。









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