想い思われ…
すみません、遅くなりました!
夜会が訓練の集大成。
そんな心算があったらしい。
取りあえず派手な粗相もせず、恙無く終わったと言っていいだろう。
…と言いたかったが。
瑠凪は帰路の馬車の中で頭を抱えていた。
少年を傷つけることの無いように、注意してお茶を濁したつもりだったのだが。
まさか、地雷のど真ん中だったとは。
リュディガーが教えてくれたのだ。
自分のやり方が、本来のやり方だったという事を。
こういう事の常として言動が派手になって来るのはよくある事だが、当初、男が傅いて女の手を取り、女はハンカチを男の胸元に挿す、この方法は騎士と姫などではなく、求婚とその了承だったのだそうだ。
それを聞かされて顔から火が出るかと思った。
向かいに座るルドガーがくつくつ笑っているので、取りあえず向こう脛に蹴りを入れる。当然ヒール部分で。
ちなみにその後、5代目の国王の時代に、王女の守護を命じられた近衛騎士が命じられた場で王女の手を取って傅き、その手に口付けしたのだという。それに王女は自ら付けていたイヤリングを下賜し、その行状に了承の意を表した。
その様子があまりにも絵になった為、広まったのだとか。
ー勿論この王女と騎士は後に結婚したそうなので、日本風に言うと『逆玉』という事もあり、それに肖りたい節もあったらしい。
大丈夫なのかと真っ青になったが、ルーベルト少年が口付けしていたらヤバかったらしい。
あれだったので、武断の家に生まれた少年が少し背伸びをしただけ…で終われるそうだ。
アンハイサー侯爵夫妻、お願いですから御子息にきちんと手綱を付けて下さい。
挙句、見ず知らずの相手との政略的な結婚をお願いする可能性もある、覚悟を決めておいてほしいと言われ。
…確かに、姻戚関係は強力だけれども!
結婚…か。
ここでなら、出来るの、かな。
誰か、私を、『みて』くれるのだろうか。
どうせ、期待なんか出来ない。
私は、ここでは何も持っていないのだから。
私みたいな怪しいのを拾ってくれたリートミュラー家や、教えてくれたバルシュミーデ家に恩返しの出来る相手なら誰でも良い、任せる。
そう言ったところ、3人して分かり易く固まった。
何でだろう。
「わたくしは何も知らないのですよ? どこの家にどんな人がいるか、派閥は、由縁はどうなっているのか、全く分かりませんもの。…あ、出来れば女性関係があまりに派手過ぎる殿方は避けて頂ければ有難いです。多分張っ倒しちゃうと思いますので」
笑みながらそう言ったのに、まだ溶けない。
「相手が誰であれ、良いところを捜して、愛を育んでいけば良いと思うのですよ? 最初から愛し合っている必要はないと思うのです。そういうのって簡単に壊れてしまいそうだから」
あまりの様相に思わず本音を零す。
何故か隣に座るフランツィスカに抱きしめられた。
「ごめんなさいね、突然。貴女の言葉が妾たちの娘、エレアノールと同じだったから驚いてしまって。あの子は一度も会った事がない相手にそう言って嫁いで行ったのよ」
「確か、ルドガー様の姉君で、隣国ベリートの宰相閣下の元へ嫁かれたのですよね?」
「ええ、国同士の結びつきを強める政略の色は強かったわ。ただ、宰相に請われた事も事実なの」
「宰相閣下は何故、エレアノール様を望まれたのですか?」
「あの子が描いた絵を何処からか手に入れたらしいの。色使いが素晴らしい、闊達さと繊細さのない混ざった見事な絵だと絶賛されてね」
…おおぅ、さすがは芸術の国の宰相閣下。
妻を選ぶ基準が凡人とは全く違う。
でも、その絵に堪らなく惹かれたんだろう。
だからこそ、描き手を手元に置いて愛しみたかった。
どんな方か知らないけど、描き手が隣国の若い姫君で侯爵家の息女…って分かった瞬間ガッツポーズしてそう。
だって、何の問題もなく妻に迎えられる相手だもの。
「リートミュラーやバルシュミーデの後ろ盾が無くてもわたくしを望んで下さる方がいらっしゃるのであれば、それは重畳ですわ。でも、それだけの事ですので、お気遣いは無用に存じます」
ふわりと笑まれる。
硝子細工の花のような透明で、儚い、今にも砕けてしまいそうな、笑み。
「ルナの気持ちは分かったわ」
フランツィスカは微笑んだ。
「任せておいて。貴女を抱きしめるに足る素敵な殿方を国を問わずに捜すわ」
瑠凪の顔を覗き込みながらそう囁くと、分かり易く真っ赤になった。




