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戦装束艶姿


バルシュミーデ家に来てから間もなく2ヶ月が経とうとしている。


夜会デビューを明日に控え、瑠凪は貴族名鑑を眺めながら名前と領地の状況を復習さらっていた。

ダンスは…ルドガーの足は踏まなくなったが、フォルクハルトの足はたまに踏む。


夜会用にと仕立てられたのは白殺しでワンショルダー、マーメイドラインのドレス。

ショルダー部分に施された濃い菫色の刺繍がが映える。ハイヒールも濃い菫色で揃えられ。

来る時に着けていたエメラルドと、新しく贈られたコームで髪を夜会巻きにしてもらう事にして。…勿論こちらに夜会巻きなどは無いのでラウラに教え、それに手頃なコームを頼んだ訳だが、プラチナの台にエメラルドとペリドットが花のようにあしらわれたコームはあまりにも華やかで。

こんな高価たかそうなものを本当に良いのかと焦る瑠凪に、コームを見たフランツィスカが、「フォルクも虫避けに必死ね」と笑ったのは瑠凪が与り知らぬ話である。


「名前は完璧に覚えなくても大丈夫よ。必ず誰かが側にいるから」

眉を顰めながら本と向き合う瑠凪を見て、フランツィスカが笑う。

「かもしれませんけど…ある程度の素地が無いと思い出すことすら出来なさそうなので」

瑠凪は変わらず小難しい顔をして名鑑を眺めている。


今度の夜会はフランツィスカ様のご実家、アンハイサー侯爵家が主催者なのだという。


アンハイサー侯爵家って確か四家の1つで…。

ルドガー様ってさり気なくめちゃくちゃ毛並みが良いんだ…。


失礼な感想を抱きながら夜会の準備を進める。


とにかく、背筋を伸ばす事、指先まで意識を届かせることと、所作はなるべく柔らかく。

売れっ子ホストな次弟が口を酸っぱくしてお説教して来てた事と被るのが何とも言えないけど。

…はいはい、あの子が正しかったのよね。

もう少し女性らしさを…って。

面倒としか思わなかったけど。だって要らないのが釣れるし。それどころじゃないってのに。



取りあえず、知らない相手からのダンスの申し込みは絶対に受けないように、と皆から言われた。

知らない人の足は踏みたくないので受けません…って何度言っても信じてもらえない。


「フラン様、1つお尋ねしても宜しいですか?」

「なぁに?ルナ」

「もし、見知らぬ殿方から手を取られたりなどした場合、振り払っても大丈夫なんでしょうか。対策を練っておくに越した事はないような気はするのですが」

「そうね…。今回は小規模な夜会で、メインは当主である私の弟の末息子のデビューなのよ」


末っ子くん、御年12歳。満を辞してのデビューだそうで。


「縁者しかいない夜会だから、ルナのデビューにもぴったりだと思ったの。だから、多分、ガードの固いルナには近づいて来ないとは思うのよ。一応皆さん婚約者持ちだし」

「でも、知らない人がいるかもしれません。なので、念の為のルール確認です。無理強いされたら振り払うとか引っ叩くとかしても良いんですか?」

…ないしは、手袋叩きつけるって、有りですか?

「どちらもダメよ。その場合はヒールの踵を鳴らしなさい。そうしたら、わたくしたちか主催者か、少なくてもその関係者が来てくれるはずよ」

「靴の踵ですね、りょーかいです」

脳内にメモメモ…と。





当日は早めに昼食を済ませて身支度に入る。


多分、高級スパってこんな感じ。

そう思いながら瑠凪はラウラとエラに身を任せた。

今夜がデビューだと、信じられないくらいに気合が入っている2人を揶揄うと、叱られてしまった。瑠凪としては薹が立ち過ぎているのに、そんなに頑張ってもらうのは申し訳ない気がするのだが、2人はデビューの身支度を任されるのは初めての事で張り切っているらしく。


全身をマッサージされ、香油が塗り込められる。ベルガモットの香りをチョイスしたら何故か驚かれた。

後で聞いたところによると、デビューの際は、甘く柔らかなローズのような香りをまとうのが定番らしい。

甘い香りは若くて愛らしいお嬢さんには似合うと思うけど、私みたいな薹立ちしてるのは多分甘い香りより凛とした香りの方が合う気がする。


正直、コルセットのない世界でホッとした。

似たようなものはあり、締め上げられはするのだが、肋骨が折れて内臓に刺さってしまうほど締め上げられるものではなく。



ドレスを着付けてもらい、髪を結われる。メイクはあまり派手にしないようにお願いして。



「仕度は出来たか?」

ノックの後聞こえてきたフォルクハルトの声に驚く。もうそんな時間なのか。




さぁ、いざ、戦場(かいじょう)へ。




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