出会いー稚さに囚われて
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ご期待に添えるよう頑張りたいですp(^_^)q
塀を抜けるとそこは見たこともない庭園だった。
よく手入れされた芝生。
見回してみると小高い丘のような感じで一本の木が生えている。白い花弁がはらはらと散りゆくのが見える。
(何かしら。辛夷…?とは違うみたいね)
足元に舞って来た花弁を拾い上げて観察する。牡丹のような花弁だが、牡丹があんな樹になるわけがない。
取りあえずあの木のもとへ行ってみよう。
小高い丘を上りながら考える。
あんな不可思議な状況で辿り着いた場所だ。ここは恐らく日本ではないのだろう。
(異世界転生とか好きだけど!あくまで読み専門であって、実体験したい訳じゃない!)
弟たちが成長してあまり手が掛からなくなってから、出来た時間はネットでいろいろ読み漁ることが多かった為、状況をあっさりと受け入れてしまった彼女は、ただ一つのことを願っていた。
どうか言葉が通じますように…!
…ん?
耳を打つ微かな泣き声。
子ども…?泣いてる…??
足音を立てないようにゆっくりと歩く。
大樹の根元に丸まっているナニカが見える。
えっぐ…ぐす…ちちうえ…ははうえぇ…。
幼い子どもが蹲って啜り泣いている。
ふと、デジャヴを感じた。
そういえば3番目の弟が、こうやって隠れて泣いていたっけ。
あの頃はその下の双子の世話にてんてこまいで、声もかけてやれなくて。
不慣れな子どもが子どもの世話をするのだから手が幾つ有っても足りない中で何もしてやれなかった。だからあの子とは未だに少し距離がある気がする。
その罪悪感が走らせるままに瑠凪は啜り泣く子に言葉をかけた。
「どうしたの? 何が哀しいの?」
ぽん!と音が聞こえそうなほどの勢いで丸まっていた子どもが跳ねた。
新緑を写し取ったかのような瞳で瑠凪をじっと見つめる。
(あら、可愛い)
3歳くらいの男の子だ。
春の日差しを切り取ったような淡い金色の髪と長い睫毛に縁取られたペリドットの瞳。白い肌は日差しを知らないようで。生成りのシャツとオリーブグリーンのパンツは何となく七五三の雰囲気がある。
「だれだ?!」
拙い誰何に思わず口もとが綻ぶ。
「瑠凪と申します。あなたは?」
柔らかく微笑みながら跪き、目線を合わせて問いかける。小さな紳士の機嫌を損ねないように丁重に。
未婚のアラサーだが哀しいかな、子育て経験はばっちりなのだ。
「テオドール」
「テオドール様ですね。ここで何をされていたのです?」
素直に名乗った子どもに、言葉が通じた安堵を噛みしめながら更に尋ねる。
テオドールと名乗った少年は唇を噛んで俯いてしまった。泣いていたことを素直に認めたくはないらしい。可愛いプライドである。
「お、おひるね…」
泣き腫らした目もそのままに、そんな強がりを言う。その強がりが愛らしくて瑠凪は手を伸ばしてテオドールの頭を撫でた。
「こんなところでお昼寝されては風邪を引きますよ?」
仕立ての良い服のあちこちに付いている花弁やら草の葉やらをパタパタとはたき落として、その小さな身体を優しく抱きすくめる。
あやすように背中を撫でてやると、ささやかな強がりはあっさり崩壊した。
「ちちうえ…ははうえ…あいたい…」
ぐすぐすと泣きながらしがみ付く温もりを懐かしく思いながら落ち着かせるように背をとんとんと叩く。
「ぼくは…はくしゃくけのこなの…だから…ないちゃいけないの…にいさまたちみたいに…つよくなるの…」
ふむふむ。この世界は爵位が生きてる訳か。歳の離れたお兄さんがいるのかな。
時々しゃくり上げながら訴えてくる身体が突然重くなった。
…寝ちゃった…。
さてどうしましょ。取りあえず起きるまでこのまま抱っこしといてあげようかな。
大樹の陰に移ろうかと立ち上がろうとした時。
首筋に、冷たいものが触れた。
視線をやると。
抜き身の剣が押し当てられている。
「何者だ」
耳朶を打つのは剣の冷たさに負けず劣らず冷ややかな男の声。
せめて、うでのなかの、このおさなごだけは、まもらなければ。
小さなテオドールの身体を隠すように身体を丸める。
首筋に痛みが走ったが、気にする余裕などなく。
反対側の首筋に衝撃が走り、瑠凪はそのまま気を失った…。