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Lesson I -Dancing in the Moonlight


食後、瑠凪が部屋へ戻って暫くして、フランツィスカがやって来た。何故かルドガーを連れている。


「2ヶ月でダンスを基礎から叩き込むならかなり過酷になりそうね。ルドガーにはパートナーを務めてもらうわ。で、ルナ、聞くけどあちらでダンスの経験は?」

「皆無です。踊っている様を見た事すらありません。わたくしが暮らしていた国では、日常の中にダンスはありませんでした」

「うわ、爪先にミスリル板入れておくべきかな」

揶揄われたが、紛う事なき事実な為、悲しいかな反論は出来ない。


「そうね、取りあえず…基本のワルツから…かしらねぇ。ルドガー」


フランツィスカは息子を呼ぶと手を伸べた。

ルドガーは軽く溜息を吐きながら母の手を取る。

くるり、くるりと、フランツィスカが回る。伸べられる手がルドガーの手に吸い付く様に収められる。ふわりと花開くスカート。

目を瞠って眺める脳裏に、花のワルツが流れる。音楽と合わせながら見ると、動きの意味がより分かる気がして。


ルドガーの腕の中に収まったフランツィスカが艶やかに微笑む。


「如何かしら? コツは掴めそう?」


そう問われておずおずと尋ねてみる。


「あ、あの…音楽ってあったりは…」


「音楽?」

フランツィスカが目を瞠った。


「うーん、リュデイにピアノ弾いてもらった方がやっぱり楽?」


反対にそう問われて反射的に首を振る。


明らかにフォルクハルトを扱く気満々なリュディガーを引っ張り出そうものなら、絶対に恨まれる事受け合いである。

…フォルクハルトの救出にはなるのだろうけど。


ふと思いついて確認してみる。


「そ、そういえば昨日の魔道具は…」


「ああ、済まない、僕が預かっていた」


ルドガーはそう言うと、ついと目の前の空間からスマホを取り出した。

所謂『空間収納』っていわれる系の魔術だろう。便利そう♪ 私は使えないのかな?


そんなことを考えつつスマホを手にして驚く。


私は昨夜、話の最中に気絶したし、電源は落としていない。当然、ルドガーやフォルクハルトが落とし方を知っているとは思えない。(玩具にはしていそうだけどー)


それなのに、手渡されたスマホのバッテリーが100%あるのだ。無論、太陽光で充電出来るタイプのものではないし、よしんばそうであったとしても、空間の中に入れられては太陽に当たれる訳もなく、充電出来る筈もない。


脳裏にハテナを乱舞させながらも取りあえず携帯に入れてあった花のワルツを2人に聞かせてみる。


「この曲はわたくしの世界のワルツなのですが、これを流しながら練習してはダメですか?」

尋ねてみるとフランツィスカの瞳が輝いた。


「何て素敵なワルツなの。今度の夜会、これで踊ったらダメかしら」


「ダメに決まってます。大体、どうやって流すんですか。こんな異なものを公衆の面前に出す訳にはいきませんよ」


スマホを振るルドガーに膨れるフランツィスカ。ーフランツィスカが可愛い。こんな大きな息子がいるとは思えない。


「じゃ、気を取り直してもう1度踊ってみるわね。今度は少しゆっくり目にするから、足元、ステップを注意して見ていて」


「はい」


再び踊り出す2人に、2人の足元を凝視する瑠凪。優雅なステップと足捌きにクラクラしながらひたすら眺める。

ちょっと位置をミスしただけで、ルドガーの足に細いヒールを突き立ててしまいそうだ。

(爪先じゃなくて足の甲にミスリル必要なんじゃ…)


莫迦げた…とも一概には決め付けられない事を考えながら、ステップを追っていく。

元々、リズム感はある方だ。椅子に座った状態でステップを真似てみる。

(軽くステップ踏んで、ターンして…)


瑠凪の足元を見て、ルドガーはくすりと笑った。その表情を見てフランツィスカも瑠凪の足元を追い、ふふっと笑う。

比較的飲み込みが早いようで、これなら今日1日で基本のステップくらいなら出来るかもしれない。


「さ、ルナ、交代よ」

「え?」

「試しに踊ってご覧なさい」

「ええええー!!」

歩み寄って来たルドガーが、盛大に絶叫する瑠凪にはお構いなしで、その手を取る。


「基本、パートナーに委ねれば大丈夫だよ」

耳元に囁きを落とされ、腰に手が添えられる。

ひくっと瑠凪の白い喉が鳴り、身体が強張った。

ー家族以外の男とここまで密着するのは初めてに近い。


その体たらくを見たルドガーは、軽くため息を吐くと、腰に当てた手で瑠凪の背骨をすうっとなぞった。

きゃうっ、と、まるで猫の仔のような悲鳴を上げ、膝からかくりと力が抜けたようで、ルドガーの腕に重みがかかる。


その身体を脚で膝を支えるようにして立たせる。そのまま腰を持ち上げてくるりとターンしてみせた。ドレスがふわりと拡がる。


「さっさと覚悟、決めよ?」

瑠凪の耳朶に囁きが落ちる。はっとしてルドガーの顔を見ると、The•腹黒!というタイトルこそが相応しい、そんな笑みを浮かべている。


「すみません、足の甲を折る覚悟を、既に決めて下さっていたとは気付かなくて」


瑠凪も仕返しとばかりに艶やかな笑みで対抗する。そのまますっと背筋を伸ばした。


取りあえず音楽に頼らずやってみよう。




ー結論から言うと。


ルドガーの足は数回踏んだが、『パートナーに委ねろ』の台詞の意味は掴めた気がした。



何とかこなした瑠凪を見た2人がすっかり喜び、タンゴやジルバも叩き込もうと画策した為、翌日は全身が悲しいことになり、とても練習にはならなかったのだった…。























章タイトルに頭を悩ませてます。


ダンス繋がりで何となく拝借…。

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