出会いIIー不穏
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車や電車など、仕組みを聞かれても分からないのに興味津々のルドガーとフォルクハルトからの質問責めに遭い、瑠凪は疲れ果てていた。
それでも必死で笑みを浮かべながら、言葉を交わす。
それをバルシュミーデ侯爵夫妻は何も言わずに見つめていた。
ふと夫婦の視線が合う。同じ疑問を持っていた事に気づいて、目配せし合う。暫し水面下での攻防が繰り広げられたが、敗れたリュディガーが唇を開く。
「ところで、ルナイリス嬢。1つ尋ねても構わないだろうか?」
「は、はい、何でしょうか?」
華奢な肩がびくりと震え、紅茶色の瞳が夫妻を見つめる。
「簡単な事だよ。何故フランの疑問にすぐに応えなかった? 応えていれば痛い思いはしなかった筈だ。得心出来るかはさておき、ね」
何の色も浮かんでいない瞳がこれ程までに怖ろしく感じるものだと初めて知った。
意に沿わぬ答えを返そうものなら、魔術で縛られて後ろの窓から捨てられそうな気すらする。
からからに乾いた喉から辛うじて言葉を搾り出した。
「確かに、考えたのはわたくしではありませんが、承諾したので同罪ですし…、それに、わたくしの事情も、詳しくはリートミュラー家の皆様にもお話ししておりません。それなのにこちらで先にお話ししてしまうのは、礼儀に悖るような気がして。それに…もし此の所為で2つの家の関係性が悪くなってしまうのも怖くて。でしたら、わたくしが悪者になってしまえばそれで良いのでは…と」
つらつら語ると、フォルクハルトが頭を抱えた。
「もしかして、来た時に俺が、リュディガー様に相談したい…って持ちかけたからか。すまなかった、ルナイリス。最初から素直に話しておけば良かったのだな」
「…その通りだよ、フォルク。しかし、ルナイリス嬢、此処までが全て計画のうちとは考えないのかな? こちらに懸念を持たれることを承知の上で貴女を俎上に載せたと」
「フォルクハルト様たちにそのような悪辣な考えは無いかと。ライナルトさんは分かりませんが。不穏分子を後腐れなく処分しようという考えも有り得そうです。…あ、そっか、手紙に全て書かれていた可能性もある訳ですよね。適当に処分して何処かに捨てて頂きたいとか」
そう唇から溢れて、身体が強張った。
そうだ、何故、あんなに簡単にライナルトさんを信じてしまったんだろう。
あんなめちゃくちゃ、ちょっと考えれば通りっこないのに。
小刻みに震える身体を、フォルクハルトは慌てて抱きしめる。ーそして思わず叫んだ。
「ルナ! 酷い熱じゃないか!」
そういえば…身体熱かったっけ。
頭もぼーっとする…。フォルクハルト様の手がひんやりと気持ちいい。
「幾ら速攻で治癒したとしても、熱傷によるショック症状は起こりますよ。発熱も可能性ありです。…あ、いろんなことあったから、知恵熱かもですね。心配ご無用ですよ、寝れば治ります」
へらりと笑ってみせて、でも、それが限界で。
瑠凪の意識はブラックアウトした…。
ぐったりとなった瑠凪の身体をフォルクハルトが抱き抱える。
目の前のリュディガーを見る。
いつもの穏やかな風情は何処かへ消え失せ。
苛烈な為政者の眼差しをしている。
自分が如何に愚かで未熟か、叩きつけられた気がして唇を噛んだ。
「さて、フォルクハルト」
冷ややかに呼ばれて居住まいを正す。
「取りあえず彼女を寝ませてやりなさい。話はそれからだ」
「はい」
細い躰を抱き上げると隣室へ移った。フランツィスカが付いてくる。ベッドに寝かせようとした時、呆れたようなフランツィスカの声が響いた。
「そんなドレスで休める訳ないでしょう。着替えさせるから出て行きなさい。あとは妾たちでするわ」
「…」
フランツィスカに頭を下げると、隣へ戻る。
席に戻るが、リュディガーの怒りを感じ、言葉が出ない。
「君にも1つ尋ねよう、フォルク。…私が魔術審判を提案した時、何故反対しなかった。平民の彼女には魔術審判の何たるかが分かっていないが、君は分かっているのだろう?」
魔術審判ー。
それは、余程の罪でないと行えないもの。重罪であり、関係者が多く、一網打尽にしなければならない…などの条件が整わないと為されないものだ。
被疑者に心の掛け金を外す薬物を飲ませ、複数の魔術師で被疑者の記憶を文字通り『覗く』のだ。
ただし、特殊な詠唱が使われるので、審議が終われば、関係した魔術師たちの記憶から、見た被疑者の記憶も詠唱の言葉も消える。
また、もし、審判によって知り得た、事件とは関係のない記憶や特殊な詠唱を、審議の終わる前に何らかの形で残そうと試みるなら、その者の身から魔力が消えるらしい。
全ての記憶が覗かれ、精査される。
それがどれほどの羞恥を伴うものか、推して知るべし…である。
更に、人間、例外なく黒歴史の1つや2つ持っている。それも知られるのだ。
勿論、刑罰が確定すればそれらの記憶は見た側からは確かに消える。しかし、見られた側には見られたという事実も、突き上げを食らった内容も全て残っているのだ。
相手が覚えていないからといって、今まで通りの行動など取れよう筈もない。
「君が反対しなかったからこそ、君たちは何も知らない、彼女の口車に乗せられた、騙された側だとこちらは判断した訳なのだが」
その言葉にぐうの音も出ず項垂れる。
「彼女は詳細を話したがりませんでしたから…。正直、その手があったのかと思ってしまいました。無理に聞き出さなくても、『視せて』貰えば良いのかと」
その言葉にリュディガーは呆れてしまう。
「魔術審判はそんな安易に行えるものではない。王城に話が通り、国が出て来る。もし、真実彼女が異世界からの来訪者であれば、先ほど見た、あの魔道具だけでも大変興味深かった。確実に国に飼われる事になるよ。捕らえておいて記憶を調べ上げれば、今まで無かったものを作り上げることも可能だろうからね。あぁ、捕らえるなどとせずともあの見た目だ、王太子妃には難しいだろうが、アルフレート殿下の妃にしておけば、王城に留め置く表向きの理由にはなる」
「お待ち下さい、アルフレート殿下はまだ10にもなられぬ筈、幾ら何でもそれはー」
「身分も無いから側妃で構わないだろう。正妃にそれなりの家の娘を娶っておけば、どうとでも取り繕える」
「…」
反論を試みても切り捨てられて唇を噛む。
リュディガーの言は総て全くの正論である。
「気にはなっていたのだがね」
為政者の目に見下ろされる。
「教えられる前に父親が召されたのだから仕方ない面もあるが、根底に甘さがある。領地を預かるということは優しさや甘さだけではどうしようもない事だ。時には冷酷な決断も求められる。いい加減な考えでは、1番大切なものが、指の隙間から零れ落ちてしまうよ。メルヒオール殿のように謹厳実直で全てを覆うには、如何せん経験が足りな過ぎる」
フォルクハルトは突き付けられた真実に、何も言えなかった。
何の反論もしない甥に、リュディガーは苦笑した。
あまりにも素直過ぎる。
だが、今のうちならまだ、矯正も叶うだろう。
「3日ほど泊まっていくと良い。メルヒオール殿の代わりにみっちりしごいてあげよう」
その言葉に弾かれたように顔を上げると、まるで悪戯小僧のように、にっこり見事な笑みを浮かべた伯父と目が合い。
内心恐怖に慄いていると、いつの間にか部屋を出て行っていたルドガーが声をかける。
「父上、晩餐の仕度が整ったそうです。ルナイリス嬢はまだ休ませた方が良いとの母上の判断です」
「そうか、ではまず食事といこう」
3人は食堂へと向かった…。
…作中時間がまだ2日ほどしか経っていないという恐ろしい事実に気付いてしまいました。
亀にも嗤われそうな遅さで申し訳ありません(T ^ T)




