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ひよこぴよぴよ みぴよぴよ


時折、蹴飛ばされて目覚める事はあったものの、概ねぐっすりと眠った瑠凪が目覚めると、小さな身体が腕の中で丸まっていた。

起こさないよう気をつけながら腕を抜き、ベッドから抜け出す。

この夜着なりでは流石に部屋の外へは出られない。昨夜は部屋の中を見る気力すらなかったので、ざっと部屋を見てみる。ベッドと机と椅子だけの小ぢんまりとした部屋にドアが2つ。1つは昨夜テオドールが通って来たドアなので、向こうはあの子の部屋なのだろう。

もう一つのドアを開けてみて目を瞠った。

何もない、だだっ広い部屋である。10畳くらいあるのではなかろうか。その奥に更にドアがもう2つ。

1つを開けてみると廊下が見えたので、正規の出入り口なのだろう。もう一つのドアを開けると更にドアが3つほど。開けてみるとドレスが並んでいたので、如何やらクローゼットらしい。一通り見聞してみてシンプルなミントグリーンのワンピースを引っ張り出してその場で着替える。

夜着コレは…ベッドルームの椅子の背に引っ掛けておけば良いか。

クローゼットから出て来ると、向こうで微かな泣き声が聞こえた。

如何やらテオドールが起きてしまったようだ。

慌てて飛んで行くと、ぐずるテオドールを抱き上げてあやす。

そのまましがみ付くようにまた寝てしまい、置いて行かれてなるものかと言わんばかりに小さな手が胸元を掴む。

腕に掛かる重みを懐かしく思いながらも、小さな手でぎゅっと掴まれるのはさすがに痛く、外そうとするとぐずるので、諦めて抱いたまま寝室を抜けて、廊下へと顔を出す。


気付いたマリーナが飛んで来て、すみません!と頭を下げるのを気にしなくて良いと微笑い、時間を尋ねる。


「朝食なのでテオドール様を起こしに来たのですが、ベッドにお姿が見えなくて…。恐らくルナイリス様のところだろうとは思ったのですが、お部屋に入る訳にも行かなくて、困っていたんです。あ、あの、ルナイリス様は朝食は如何なさいますか? お疲れでしょうからお休みになられていても構わないとの事でしたが」

「そうね、頂きたい…とは思うのだけど、この有り様なのよ。手を離そうとするとぐずるので如何しようもなくて。このまま連れて行って、目が覚めたら食べさせて…でも構わないかしら」

テオドールの状況を見せながら説明していると、マリーナが俯いた。

「マリーナ…?」

「ルナイリス様が羨ましいです…。テオドール様が掴めてる…柔らかそう…」

マリーナの目線は瑠凪の胸に注がれている。

若干の爆弾発見に苦笑いしか出来ずにいると、マリーナははっと気付いたように、ばね人形宜しく頭を下げた。

「申し訳ありません、私ったら、とんだ粗相を!」

「気にする訳ではないけど…殿方の前では遠慮して欲しいかしら」

くすりと微笑い、テオドールを揺すり上げる。


そうこうしていると、レナータもやって来て。

しがみ付いているテオドールを見るなり、

「あらあらまあまあ」

と呟いてくつくつ笑う。


「このまま食事にしても良いものかしら…」

「それではお召し上がりになりづらいのでは? 私かマリーナが預かりますが」


そういうレナータに状況を見せ、手を離そうとすると嫌がる事も説明した。

「本当は起きているのではありませんか?」

不審がるレナータに、

「はっきり目覚めているという訳ではないと思うの。半分くらいは目が覚めているけど未だ眠り足らないのか、ただ甘えたいだけなのかは分からないけど。昼過ぎには侯爵家に出向くらしいから、それまでは目一杯甘やかしてあげようかと思って。この状態で食べるのはずいぶん久し振りだけど、多分大丈夫よ」


心配そうな2人に笑いかけ、食堂まで案内してもらう。


2人は先に来ていて、腕の中のテオドールに呆れたような顔をした。


「甘やかすな、ルナイリス」

「そうですよ。…マリーナ、引き剥がしなさい」


「そんな惨い事をなさらずとも。あと、ほんの1、2年の事でございましょうに。こんな幼いうちは正当に親に甘える権利を子どもなら皆持っているのですわ。代理で異母姉あねに甘えるからといって、責められる謂れなど無いはずです」

「…。まさか、連れていくとは言うまいな」

「まさか。そこまでは致しません。食事の間だけですわ。多分、お腹も空いているはずですし、匂いで目が覚めるとは思うのですけど」


テーブルに並んでいるのは、パンとスープ、サラダ、ソーセージ、というオーソドックスなもの。一通り取り分けてくれたマリーナに礼を言い、ゆっくりと食べ始める。

抱いた状態で堅めのパンを千切るのは少し大変だったが。

食事しながら優しく揺すり起こす。

もにゃもにゃと何やら呟きながら、薄っすらと目が開いて。

「テオ、朝ご飯よ、要らないの?」

「…たべゆ」

目が未だしっかり開いていないのだが、それでも匂いには勝てないらしく、口を開ける。

こんな半覚醒状態で下手に食べさせたら窒息しかねない。取りあえずちゃんと起こそうと、マリーナに洗面所の場所を聞いて、顔を洗わせようと思ったその時、業を煮やしたフォルクハルトの怒声が響いた。


「いい加減にしろ、テオドール! 食事だ、起きろ!!」


びくっと身体を震わせ、盛大に泣き始めたテオドールに瑠凪は溜め息を吐いた。

「全く、どうして殿方はこう、堪え性が無いのでしょうねぇ、困ったものですわ」

「だから甘やかすなと!」

「今まで良い意味で甘やかされていたのなら、わたくしだって何もこんな事致しません。誰にも甘えさせてもらえなかったから、ほんの少ぉし、箍が外れただけの事にございましょう。渇えが満ちれば、ちゃんと出来ます。…それとも」

冷ややかな眼差しを注がれ、フォルクハルトは思わず居住まいを正してしまった。


「必要な愛情を注がれなかった子がどんな大人になるのか知りたいと仰るなら、わたくしはこれ以上の手出しは致しませんけど? どんな人間が出来上がっても、きちんと最期まで面倒を見ると誓って下さいますなら」


3番目でこちとら苦労したんだから。


フォルクハルトが何も言わないので瑠凪は、えぐえぐと泣くテオドールをあやしながら、マリーナを手招きした。飛んで来たマリーナに洗面所に案内してもらう。


「さ、テオ。お腹空いたでしょ? ご飯の前にちゃんと顔洗おうね」

顔をきちんと洗うと、漸く覚醒したようだ。

それでも未だ、若干ご機嫌は斜めらしい。

歩かせようとするとむずかるので、抱いたまま食堂へ戻ると、2人は食事を終えて自室に引き上げたようだ。


ちょっとホッとしながら食事を始める。

テオドールはソーセージがお気に入りらしく、本当によく食べた。


「もう、お腹いっぱい! ルナ、お外で遊ぼう!」

ぽんっと椅子から飛び降りるテオドールを慌てて捕まえる。


「まず、マリーナに着替えさせてもらいなさい。話はそれからよ」


マリーナにテオドールを預けると、ライナルトに尋ねた。


「それで、この後どうすれば良いのですか?」


「午前中は特に何も予定はございませんので、ゆるりとお過ごし下さい。昼食の後にバルシュミーデ侯爵家へ出向く予定です」


「分かりました。…テオドールに泣かれますね」

苦笑すると、ライナルトも

「ご武運を、ルナイリス様」

と冗談交じりに返して来た。


部屋へ戻ろうとすると、レナータが追いかけて来た。


「暫くバルシュミーデ侯爵家に滞在なさると聞いたのですが…」

「ええ、わたくしは平民の出なので、貴族に必要な知識が全くありませんの。少ししごいて頂こうと思いまして」

「お召し物はどのように…?」

「先方で全て用意して下さるとの事なのだけど、そこまで甘えて良いのかしら」

「侯爵家がそう仰せなら、こちらが何か言う事は出来ませんので、お気遣いは無用です。では、取りあえず、お召替えを考えませんと。そのお姿では幾ら何でも侯爵家には無礼ですので」

「今決めておいて、お昼を済ませて着替えれば良いかしら」

「さようでございますね」

「じゃあレナータ、適当に見繕っておいてくれないかしら。まず、テオドールを宥めて来ないと。実は午後から出掛けて暫く戻らない…と言う話はしていないの」

「おや、では、朝の様子からしますとかなり揉めそうですね。ご武運をお祈り致します、ルナイリス様」


「父娘で同じ事を言うのね」


くすりと笑うと、テオドールの部屋をノックした。




一ヶ所、あれ?と思われる表現があるかもしれませんが、あえて、そちらの字にしています。ヒロインとしてはそれだけの覚悟を問いたいので。

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