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怒涛の変化、未だ足らず



食後、少ししてライナルトの案内で、書斎へと向かう。

書斎というだけあって、座っているフォルクハルトの後ろには大量の本が並んでいる。


ーこの国には地震、無いんだろうか。

地震でも起きれば間違いなく命を落とす。


益体もないことを考えてしまい、顔を引きつらせた。


「お話とは…?」


「まず、邸内の部屋だが、テオドールの隣に用意させた。元はあれの母親の部屋だが、寝室が扉で繋がれていて自由に行き来できる。恐らくそれが良いだろう」


「はい、お気遣い、有り難く存じます」


安堵の吐息と共に頭を下げる。添い寝のの必要がありそうな気がしていたので頼むつもりでいたのだが、気を回してくれたようでホッとした。


「それと、侯爵家から返事が来ているのだが」


え?!

ホント、つい、先刻よね、ライナルトさんが手紙書いて来ますーって出て行ったの。

あれから半日経つか経たないかよね?

ま、まさか、ドレス選びと入浴に気付かないうちに数日掛かってたとか言わないよね!?


瑠凪が硬直していると、困惑に気付いたライナルトが注釈を加える。


「ヴィンフリート様に魔術で転送して頂いたのですよ。侯爵家のご子息も魔術師であられますので、返信を即座に転送して下さいまして」


…なるほど。メールやラインで相談したようなものと考えれば良い訳か。


「いつでも大歓迎…との事だが…。どうする?」


「わたくしには全く素地がありませんので、早い方が良いのかとは思うのですが、正直支度がよく分からないのです」

「女人の必要など、こちらでも全く分からぬ。侯爵家が全て手配するので身一つで構わないとの事だったが」

「あ、あの…そこまでわたくしの立場で甘えてしまって良いのでしょうか…?」

驚いて瑠凪が問うと、フォルクハルトは苦笑いした。

「実は、相談を受けた侯爵夫人がすっかりその気だとかで、早々に部屋やドレスなど準備させているそうでな。侯爵家の娘は既に隣国ベリートの宰相に嫁いでいるから寂しいのだそうだ。跡取りの婚約者も、事故で亡くなっていてな、暗くなりがちな家が明るくなるだろうと皆が期待しているらしい」

「分かりました。因みに侯爵家まで行くのにはどのくらい掛かるのですか?」

「転移が使える条件を満たしているから一瞬で行けるぞ」

「条件…ですか?」

「ああ、第三者を“飛ばす”為には、入り口と出口双方に同格の魔術師がいるか、受け入れとなる側に魔術陣があるかどちらかが必要となる。とはいえ、陣があれば軍隊一つでも転送出来るので、陣は王宮にしかないがな」

「双方に同格の魔術師がいれば他国にも簡単に行けるのですか?」

「一応理屈の上ではそう言うことになるが、魔術師を揃えて位置を合わせて…というのはかなり難しいな」

「手紙が容易にやり取り出来るのですから、合わせるのも容易なのでは?」

「結界があるからな。未許可の手紙など弾かれるし、もし越えられたとしても国にバレる。こっそりとやり取りなんて、叛意を疑われても文句は言えん。やる意味は無いな」

「国内だと手紙のやり取りは簡単なのですね?」

「許可さえあれば魔術師は不要だ。手紙をやり取りする為の魔術陣が存在しているからな。たとえば、我がリートミュラー家だと、バルシュミーデ侯爵家とテオの母親の実家のファクラー子爵家、王都にあるリートミュラー家の屋敷くらいだ。ちなみに王宮とは全ての貴族が繋がっている。王宮専用の手紙陣があってな」

「では、許可の無い家に手紙を出すのはどのように? たとえばお茶会の招待状とかありますでしょう?」

「執事かその下辺りが届けに行くな」

「そうなんですね…。いろいろ面白いです」


「他に何か聞きたいことはあるか?」

「そうですね…。わたくしがこれから伺うバルシュミーデ侯爵家ですが、お二人のお母君のご実家なのですよね? 今の御当主様とお母君はどのような間柄なのですか?」

「今の当主は母上の実兄だ。俺たちの伯父になる。家には伯父夫婦と跡取りの長男がいる」

「なるほど。それと、もう一点確認なのですが、わたくしの対外的な立場は先代様の庶子…という事で良いのですね? 第三者に尋ねられてもそう説明して構わないのでしょうか」

「そうだな…。庶子という言葉は使わないでくれ。リートミュラー家の娘…で良い。当主の姉だ…というような言い方でも構わない。あの家には娘はいない筈だと言われたら、ただ微笑めば良い。向こうに想像させろ」

「義理の娘…的な勘違いをされそうなのですが」

「どちらにしろ社交界で噂になるのは目に見えているな。俺がエスコートするから気にしなくて良い」

「しゃこうかい…。あの、名を聞かれたら“ルナイリス・リートミュラー”と名乗れば良いのですか?」

「貴族なので間に『フォン』が入る」

「ルナイリス・フォン・リートミュラー…ですね。分かりました」

「では、明日、昼過ぎにでも行くか。俺も共に行こう。久々に伯父上に挨拶せねば」

テオが泣きそう…と思いながらも了承する。

「あと、期間がどのくらい…とかは決まっているのですか?」

「ルナが独り立ち出来るまでだろうな。出来ればこちらも仕切って欲しいのだが」

ニヤリと擬音を付けたくなるような笑みを浮かべてフォルクハルトが告げる。


その笑みは清々しく無視をして退室する。


ライナルトに、割り当てられた自室へ案内してもらい、暫くするとレナータとアメリアがやって来た。独りでは脱げそうにないドレスを着替えるのを手伝ってもらい、やはりクレメンティーネ様のだという夜着に着替えて、侍女たちが部屋を出ていく。


自分の格好をまじまじと見下ろして。

さすが人妻の夜着…。

私みたいなのが着ても何だか色っぽい。


部屋には水の入ったポットが用意されていたので有り難く頂いて、天蓋付きのベッドにひっくり返る。

と、境にある小さなドアから遠慮がちなノックが聞こえた。

行ってドアを開けると、枕を持ったテオドールが立っている。


「あ、あのね、ルナ、い、いっしょにねてもいい…?」

「良いわよ。隣でバタバタしたから目が覚めてしまったのね」


優しい笑みを向けると小さな身体を抱き上げる。持っていた枕をベッドの上に置くと、そのままゆっくりと身体を揺すりながら、部屋を巡った。

然程時を置かず眠ってしまったテオドールをベッドに横たえる。

自分もその隣に潜り込み、腕枕をして胸元へ引き寄せた。

久し振りだから潰さないように気を付けなくっちゃ。




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