プロローグ
(ふう、なんか疲れた…)
引き出物の包みを持ち替えながら、瑠凪はそう独りごちた。
従妹の結婚式。
比較的親しくしていたので二次会までは出たが、三次会はきっぱり断り、飲みまくる気満々な弟たちは放置して1人帰路に着く。
何故か複数の新郎の部下だか同僚だかに付きまとわれ、げんなりしながらの帰り道である。
(ドレスアップしたその気満々な女性たちいっぱいいたじゃない…)
ショウウインドウに写る自分を見ながら溜め息を吐く。
亡き母の形見の縹色の辻ヶ花の訪問着。
さすがに三十路越えて振袖はないだろうとのチョイスだったのだが、弟たちからは地味過ぎると非難轟々で。
いい人を捜せと弟たちは騒ぐが、結婚式は合コンではないはずだ。…そう。たぶん。
…溜め息を量産し過ぎて頭痛すらして来た。
益体もない事を考えながら歩いていたからだろう。どことどう間違えたのか、眼前に高い塀がそびえる。
ー家に帰るのに迷子になるなんて幾つよ!
自分に呆れてツッコミながら、勢いよく回れ右する。
ーーー!!!!
みちが、ない。
確かに歩いて来たはずの道が、無い。
360度回っても、塀に取り囲まれた状況は変わらない。
何で?!
あまりのことに混乱していると、目の前の塀がこれでもかとばかりに眩く輝き出した。
幾ら見回しても埒のあかない状況に、こめかみを抑えながら考える。
(えーい、ままよ!)
他に何も思いつけず、眩い塀に触れる。
塀は柔らかく溶け始め、瑠凪の身体を飲み込んでゆき、そしてー。
何事もなかったように、ただの路地に戻った。
見ていたのは冴えかな夕月のみ…。