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双烈のアルマ・アルマ  作者: 忍成アル
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第一話 この世界、ガルネギニア

この世界"ガルネギニア"には、人間を含めた様々な種族がひしめき合って生活している。


人語を解する種族だけでもエルフ・ドワーフ・獣人・水棲人・魔族、そして人間。

それぞれの生活圏を持って暮らしている。お世辞にも、仲が良いとは言い難いが。


この世界"ガルネギニア"には、豊かな自然が存在する。


鬱蒼と草木が生い茂り、瘴気漂う大森林が存在する一方で、

永久氷の獄牢と化した魔の山が峰を連ねている。

砂塵が舞い、黒いひび割れがどこまでも続くような荒野があると思えば、

色とりどりの花弁が一面に広がる平原も存在する。

この世界には言ってしまえば、全ての景色・・・・・がある。


この世界"ガルネギニア"には、「魔法」の概念がある。


魔法は自らの体に渦巻く魔力を消費して様々な現象を起こす事を意味する。

その種類は現在発見されているものだけでも軽く千は超え、威力や内容も小から大まで

さまざまに存在するが、強大な力を行使するには神の眷属と言われる精霊との意志が疎通

出来なければいけない。これには才能が必要だ。


この世界"ガルネギニア"でパルシェ・ブルーフォレストは生まれ落ち、そして育ってきた。


-------


僕、パルシェ・ブルーフォレストはごく普通の生活を過ごす15歳の少年だ。


眼前に村が広がる、丘の上の大きな岩にパルシェは立っている。


僕はガルネギニアに存在する中でも比較的小さなオリモア大陸の山間に位置するこのツム村で生まれ育った。


昔は冒険者をやっていた、腕っぷしがあり厳しいが家族思いの父親のリント・ブルーフォレストと、

料理が上手く常に笑いを忘れない母親のサーシャ・ブルーフォレストとの3人でのんびりと暮らしている。


暮らし向きはお世辞にも贅沢とは言えないが、ごくごく質素というわけでもない。昔取った杵柄というやつか、

父さんが冒険者時代に磨いた探査術や剣技、魔法でもって、村に近づき作物を食い荒らす魔物やらを村から追い払う用心棒の役目を担っているため、

その報酬で食いつなぐ事は出来る安定した収入があった。農業を主産業とする山間の村には付き物の問題なのである。


今は専業で主婦をやっている母さんだって、昔パーティを組んだ父さんに一目惚れして結婚、寿引退した元冒険者だ。

果実酒で酔っぱらった時に耳にタコが出来るほど聞いている。 いざとなれば二人がかりで対峙することが出来るため、村の人々も安心して役目を任せてくれている。



僕の家は村はずれの丘の上に立っており、玄関から数歩歩くと村が見渡せるような足場になっている大きな岩がある。

そこが僕のお気に入りスポットだ。子供のころからよくそこに立っては「この村は僕のものだー」とか格好つけていたっけ・・・。


「まぁ、今となっちゃ馬鹿な想像だったけど、やっぱり気持ちいいもんは気持ちいいな」


黄色い太陽が真上から照らし、新緑が輝くのどかな風景を見下ろしつつ、パルシェはそんなことを独り言つ。


「パルシェ、昼ごはん出来たわよー」

「そんなとこ立ってないで早く来い、俺は腹が減った」


後ろの家の玄関から両親のリントとサーシャが呼びかける。

食べ盛りの特徴なのか、父親の言葉に連鎖的に空腹を感じたパルシェは昼食を取るために家に戻ることにした。


「なぁパルシェ、お前将来はどうするつもりだ」

「急にどうしたの父さん」


昼食のシチューを啜りながらリントが唐突に訊ねてくる。珍しいことだ、基本的に朴訥な父親なのに。

子供の進路は流石に気になるのか。


僕は少々面食らってしまったけれど、おかわりの皿を母親に差し出しながら答える。


「うーん、今のところ具体的に決めてるわけじゃないけどさ、やっぱり冒険者になりたいって考えているんだ」


「あら、血は争えないわね。やはり冒険者の子は冒険者になる定めなのかしら。純血ね。」


サーシャが微笑みながら皿に大盛のシチューを盛ってくれた。

確かに、そういう意味で言えば生粋の冒険者家族なわけだから、当然の帰結なのかもしれないな。


「そうか・・・冒険者は危険な事も数多く経験する職だが、覚悟はあるのか?」

リントは厳しく、しかし咎めるつもりはない口調で再び訊ねる。


「父さんが経験してきたのがどんなものかはわからないけれど、やっぱりこの村だけじゃなくて色んな所を見てみたいんだ。迷宮都市ザガン、王都リンドヴルム、海上都市マリヌス…この世界にはまだまだ知らないところがいっぱいある。それに・・・」


「それに?」


「結婚相手だって道中で見つけられるんだろ?一石二鳥じゃないか」


僕はニヤリとしながらそう応える。


「生意気な奴だ。だが、決意は堅いようなら俺は止めねえさ」


サーシャが「まぁ」と頬を赤らめ、リントも照れくさそうに少し笑ってそう応える。

理解のある両親で良かったと、パルシェは安心してシチューをかきこむのだった。



昼食を終えると、父親による剣術と魔術の指南だ。

リントとパルシェは庭に出て、木剣を手に持って構え、対峙する。

こんなのどかな場所でも関係なく、男は強くあらねばならん、という父親のモットーに基づき、子供のころから続いている訓練だ。



「さぁ、今日も始めるぞ」

「ああ、冒険者になるって言ったからにはもっとがんばらなきゃね」


木剣を互いに軽く打ち合わせ、距離を取る。

サーシャを見物人として、今日も戦闘訓練は行われるのだった。



二刻は経ったころだろうか、パルシェは木剣を取り落とし、庭草の上に膝を着く。息も絶え絶えだ。


「はぁ、はぁ・・・やっぱり父さんにはまだまだ敵わないな」

「当たり前だ。昔は冒険者界隈じゃあ"瞬剛のリント"とも呼ばれた俺が、"まだまだヒヨっ子"のパルシェに易々と負けると思うか?」


パルシェの落とした木剣を手に持ち、自分の木剣と合わせて二刀流の構えを取りながらリントは少し鼻を高くして言う。

とはいえ、パルシェの戦いぶりが児戯に等しいというわけでもなく、リントはその短く切った黒髪から汗を滴らせていた。


その状況を見てなお、父親の言葉に対して全く以てその通りだ、とパルシェは歯噛みする。


木剣を打ち合い、強く弾いて体が空いたところに牽制の火魔法をぶち込む。そんな簡単な戦術だろうと父は中々付け入る隙を与えない。

もちろんその火魔法をぶち込むところだってパルシェが特別下手で遅かった訳ではないし、威力は下がるが無詠唱で行う比較的素早い術式だ。

しかし父の体制を立て直す速さと魔法を含めた周囲への警戒心はパルシェの予想とは段違いだった。

逆に魔法の詠唱に入ろうとするところに踏み込まれるという、典型的な攻められ方をされ、パルシェは数回にわたってひっくり返されてしまった。


「無詠唱とはいえ、小さくとも魔法陣マナクルが見えれば攻撃の隙を諸手を挙げて教えているのと同義だからな。

今度からはもっとうまく隠したり、気を逸らしたりすることだ」

父親からの忠告は、いつも実戦を想定している。


「うーん、それが簡単にできれば苦労はしないんだけどなあ」

「口答えせずに、鍛練するのが一番の近道だぞ」


いつものやり取りをして、パルシェは立ち上がる。流れる汗が心地よかった。

サーシャからタオルを受け取り、父子の訓練は終わりを迎える。

パルシェは次の行動に移るべくして、庭から家の中を通り家の正面から見て真裏の方に移動する。

右手には水を張った木桶を持っている。



家の裏側には、小さな墓石があった。

そこまで立派な墓ではないが、丁寧に手入れがされているため朽ち果ててもおらずしっかりと形を保っている。

墓石に刻まれた名前は"エステル・ブルーフォレスト"。出生年はパルシェと同じで、没年も同じ。

詳しくは聞いていないが、双子の兄がいたらしい。生まれてすぐに亡くなってしまったとか。


「兄さん・・・というのも実感がないけど、もしいたらどんな生活になってたんだろう?」


何度も繰り返された疑問を呟きながら墓石の周りの手入れを始める。

これもパルシェにとっては日課となっていた。顔も知らないし実感も湧かないが、死んだ者には敬意を払うというのがリントとサーシャの、いやブルーフォレスト家としての主義でもあったので、サボったことは無い。


墓の周りの草むしりをし、水とタオルで墓をきっちりと拭いてやる。

意外とパルシェはこういう作業に集中するタチで、一息ついた頃には真上にあった黄色い太陽は西側に移動し、今日ものどかな一日が終わろうとしているところであった。


「おーい!パルシェー!いるー?」


家の玄関の方から聞こえてきた、その声が聞こえるまでは確かにいつもの平凡な一日だったんだ。





初投稿です。よろしくお願いします。

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