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戦闘開始

ここに助けが来る可能性は、せいぜい二つ。


 シェリーちゃんを送り届けたルカが分身を見破り俺を探しに来てくれるか、ティナが匂いを察知してくれるか。


 しかし、どちらも期待薄だ。ルカは確実に俺を探しに来るだろうが、彼女は一般人に毛が生えた程度の戦力でしかない。


 最悪、彼女も捕まって酷い真似をされる可能性すらある。


「おとなしくしろ、このガキ!」


「んなろっ!」


 手足を狙って斬りかかる男と、それを受け止め、斬り返す俺。


 結局俺が逃げる隙は、俺自身が作らねばならない。幸い、俺には手段を選ばなければ、打つ手は多彩にある。鏡花水月をやったことはない最大限に発動し鉈を持って攻撃を開始する。

 だが、俺の鉈は男の剣にあっさりと受け止められた。しかし俺は俺ではなくそこには誰も居なかった。男はきょとんとした顔になったのを確認して背後に攻めより斬った。浅かったが効果は合ったようだ。認識をずらしながら斬りかかりようやく倒すことができた。


 もう一人の男にも攻めより、男は懐に入られ、体勢を崩した男にとって、俺の取り回しについて来る事はできない。さらに【倍増】の能力を使用してさらに動けなくした。

 先端部分を太股に引っ掛けられ、深々と肉を抉った。


「ぎゃああああぁぁぁぁ!?」


 切れ味の悪い鉈では、剣のように綺麗に切り裂く事ができない。肉はまるで牙で噛み付かれたかのように抉られ、派手に血飛沫が飛び散った。


 俺はその返り血を浴びないように大きく飛び退って距離を取る。


 このまま反転して逃げ出す事も考慮しての行動だ。しかし、もう一人がその行動を妨げた。


 鉈を回り込むように俺に近付き、着地して体勢を崩していた俺の腕を掴みあげる。


 そしてそのまま鉈を取り上げようと捻り上げた。


「いたっ、放――せ!」


 貧弱な腕はあっさりと捻り上げられ、鉈を取り落とした。

 剣士にとって握力は生命線だ。武器を落としてしまえば、その段階で勝率は大きく下がる。


 しかしそれも状況次第の話である。

 俺が鉈を取り落としたのを見て、男は剣を捨て懐に手を突っ込んだ。


 何を取り出そうとしているのかは分からないが、相手の殺傷力が落ちたのは事実。


 そして俺はまだ、戦闘力を失っていない。これは相手の判断ミスと言える。


 反対側に持った小さな石を投げ飛ばす。

 だがここには俺と男達以外に存在する者がいた。残念ながら人ではないが。馬だ。


 すでに馬車の車軸を壊してあるし、繋がれているので、馬車そのものは数メートル進むのがせいぜいだろう。


 だがその数メートルの範囲内に、男はいる。


 繋がれた馬車馬は、俺がぶつけた石に驚き、嘶いななきを上げて進みだした。それも勢いよく。

 結果、男は馬車に引かれるのを避けるために飛び退る。その拍子に俺の腕も解放された。

 そして擦れ違いざまに車軸が限界に達し、馬車は音を立てて馬ごと横転する――男に向かって。



「うわ!? うぎゃあああぁぁぁぁぁ!」


 空洞になっているとは言え、大木を四本も積み込んだ荷馬車である。

 その下敷きになって、無事で済むはずがなかった。

 かろうじてその崩落から逃れた俺の元に、馬車の下から流れ出た血溜まりが流れてくる。


 この出血量ならば、おそらくは即死だろう。


「こ、このガキ……ぶっ殺してやる……」


 そのタイミングで、ようやく足を切られた男が立ち上がっていた。


 だがすでに勝負はついている。


 片足を深く抉られ、リズミカルに血を吹き出すさまを見ると、かなり大きな血管を傷付けた可能性がある。


 放置しておけば、おそらく男は息絶える。

 もっともそれを見逃してやるほど、俺も大人しくはないのだ。


 片足で立っている男は、非常に不安定な状況にある。ならばそれをひっくり返してやれば、こちらの勝利だ。


 【重力グラビティ】を発動させる。男は空へと上がり底で留まらせる。



「なんだ――ぐおっ!?」



 俺はその隙に鉈を拾い上げ、重力を解除する。

男は訳もわからず真っ逆さまに落ちていき背中を強打した。

 そして倒れてもがいている男に近付き、鉈の背を使って頭部を強打した。


「ぐふぉっ!?」


 男はくぐもった声を出して、気を失った。

 これで当面の戦力は無力化できた。



「ふぅ……どうにかなったか」


 相手が男三人だったら、おそらく危なかっただろう。


 だが一人が詰所に戻った事で、俺に余裕ができた。おかげで命拾いしたと言える。


 それに男二人もこちらを完全に舐めていた。当たり前の話ではあるが、おかげでその油断を突いて速攻で倒す事ができた。



「さて、さっさとトンズラして……」


「おっと、そう簡単に逃がすと思ったかい?」


 俺が逃げ出そうとしたその時、詰所から最後の一人が顔を出した。


 胸甲に大盾を装備してきた男は、どうやら他の二人とは違い、油断は無さそうだ。


 しかし状況は変わらない。男と俺の距離は大きく開いている。俺の逃亡を妨げる事はできないはずだ。


「無論逃げさせてもらうさ。この距離なら俺の方が早いからな」


「俺……? 口が悪いガキだな。まぁいい。なら俺は、この『箱』に火をつけて逃げさせてもらうかな」


「なっ!?」


 倒した男の一人から刺激臭が漂っている。


 恐らく攫われたエルフ達は、薬によって昏睡させられ、あの木に閉じ込められている。


 そこへ火を放ったりしたら……


「殺す気なのか!?」


「無論。顔も見られているからな。生かしておく理由は無いだろう。だが、お前がこの場に残るなら話は別だ」


「つまり……戦えって事かよ」


「別に『大人しく降参する』でもいいんだぜ?」


「断固拒否するね!」


 一言そう叫んで、俺は男に向かって踏み出していった。

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