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街のざわつき

 俺の魔力測定が終わったので、たっぷりと砂糖を使った甘いお菓子をシェリーちゃんとごちそうになった。二人とも魔力が高く入学には申し分ないと言われた。


 どうやらヴェルデにしては珍しい行動だったらしく、気遣って奮発したのだろう。

さらに測定中に昔の話をし始めて、ファングの名前を出す度に俺を見てきた。


 なんだか、怪しまれてるぽっい、俺?


 それは置いといて……甘いお菓子というモノは、前世から俺の隠れた好物だったので、ここはありがたく頂戴しておいた。ルカとシェリーちゃんの幸せそうな顔も見れた事だし、研究馬鹿のヴェルデにしては褒めてやろう。


 特にルカのそう言った顔は、ある意味希少である。彼女も不愛想と言う訳ではないが、表情が硬いんだ。せっかく元はかわいいのに。


 ひとしきり俺の育成方針や生活について、ティナとヴェルデが話し合った後で、その日は一度解散する事になった。


 俺達がヴェルデの屋敷から出る時、そのヴェルデ本人から声がかかる。


「ティナ、悪いがお前には少し話がある。少し残ってくれ」


「なに?この子達だけで帰せって言うの?」


「それもあるが、『あの件』でな」


「――それならしかたないけど……それなら余計にこの子だけでは危ないんじゃない?」


「お主の家までなら大丈夫じゃろ。それほど距離もないし、まだ人通りもある」


 神妙な表情でそう告げるヴェルデには、先ほどまでの好々爺然とした雰囲気はない。

 それを受けて、ティナは俺達に向かって振り返った。


「悪いけど、先に帰っててくれる? これが家の鍵」


「あ……ハイ?」


「ちょっと今、この街で問題が起きていてね、その相談なの。だから部外者には話せなくって……」


「あ、そうだったんですか。わかりました!」


 仮にも二人はこの国の宝。いや、世界の宝だ。ティナの立場は一教師に過ぎないが、それでも彼女個人の名声は高い。


 その二人が部外者をシャットアウトして話し合うのだから、かなり不穏な話になるはずだろう。


 俺とシェリーはそれほど荷物を持ち込んでいなかったが、シェリーちゃんは引っ越しにふさわしいほどの荷物を持ち込んでいる。


 旅慣れた俺と違って、一から住環境を作らないといけないのだから、当然だ。


 家までの帰路、ルカとシェリーちゃんは近くで触れ合った英雄たちの素顔に、興奮気味に感想を述べあっている。


 俺達の村の人間はライルとアニューの存在がある為、英雄の憧れへ耐性を持っているが……先程の状況は、一般人だったら卒倒していてもおかしくない状況だった。


「でもヴェルデ様もティナ様も、思ったより優しくてよかった!」


「そうですね。お二人共、実に親しみやすくて。もっと謹厳な方かと思っていました」


「これからティナ様にも、色んなこと教えてもらえるんだ。ドキドキするね!」


「はい。私も昔の事を色々お尋ねしてみたいですよ」



「それにしてもティナ様とファング様がー。んふふ、ロマンスの予感ね!」


「そうですか? 私としては少し――」


 能天気に昔話を楽しみにしているシェリーちゃんと違い、想い人に彼女がいたという事実に、困惑を隠せないルカ。


 まぁ、俺としてもティナの事は、転生してからも少し思いを寄せている。しかしこの思いは少しずつ薄れていくような気がしている。たまに昔のことを忘れるときかある。

 だがそれを忘れないため時にメモして残している。今俺にとってルカやシェリーちゃんは大事な存在になっていた。



「……あら?」


 そんな浮かれた気分を切り替えたのは、そのルカだった。



「ん、どうかしたの、ルカ?」


「ええ、先ほど……いえ、きっと気のせいですよ」


「なに?」


 少し気になったと言う風で、ルカは小さく首を傾げている。


 通りは夕刻。人通りも多くなり、ひっきりなしに荷馬車が往復していた。


 中には太い材木を運んでいる馬車もあって、気を付けないと跳ねられてしまいそうな程の喧噪だ。


「いえ、先ほど通り過ぎた馬車ですけど……なにか音が響いていたな、と」


「音が響く?」


「ええ、なんだか楽器みたいな」


 そう言って長い耳をピクピクさせる。その仕草が小動物染みていてカワイイ。


 エルフ族は耳が大きいだけあって音に敏感だ。その能力を活かして、音楽の道に進む者も多い。


「それは……何か気になる、かな?」


 先ほど、俺達のそばを通り過ぎた荷馬車は、太い材木を運ぶための物だ。


 森に囲まれたこのクランヘイムの王都は、頻繁にこういう材木を運ぶ馬車が往来する。林業は、この国の主要産業でもある。


 だがそれはそれとして、楽器のような音ね……それはつまり木の中がくり抜かれているとか、そう言う系だろうか?


 だとすれば、なぜそんな事をするのか、俺も少し気になったのだ。



「少し様子を見に行ってくる。ルカはシェリーちゃんを送ってあげて?」


「ちょっとシノブ様!?」


「わたしも!」


「シェリーちゃんはダメ。ちゃんとお引っ越しの準備を済ませないと」


「あうぅ……」


 シェリーちゃんも引っ越しの荷物は存在する。

 俺のように最小限の荷物で旅できるように、旅慣れてはいないのだ。

 それはルカも同様である。


「ルカも荷物がいっぱいあるでしょ。早く荷解きしないと今日寝るところないよ?」


「うっ、ですがそれはシノブ様も同じじゃ……」


「わたしは寝袋だけでいいし」


 それだけ言い残し、俺は馬車を追った。


 この街についたばかりで、荷物の整理をしないといけないのは変わらないのだ。


 それでも、いつものルカなら俺について来ただろう。しかし今はシェリーちゃんもいる。


 他所様の子を預かっている以上、彼女を親元まで届けないといけない。

 そのせいで、彼女は身動きが取れなくなってしまっていた。

 これは単に俺の勘に過ぎないのだが、なにか不穏な気配がしたのだった。



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