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変人研究者

ティナに連れられ、俺達はヴェルデの屋敷に向かった。


 残念ながらシェリーちゃんの両親は、荷下ろしの作業があるので、ついてきていない。


 ここに居るのはティナと俺とシェリーちゃん、それにルカの四人だ。


 奴は元王族だったのだが、冒険者となりたいが為、この国の貴族の位を捨てている。


 それでも王族であったことには変わりない。嵐竜退治を終わらせた後、この国に戻った際に相談役の立場に復職していた。

 だが出戻りは法的にうんたらかんたらなわけであった。そこで権威は有り、だが公職ではない。そんな立場を勘案して魔術学院の理事長という立場に就任したのである。


 かつての国王であり、竜殺しの英雄。そして希代の魔術師して天才魔導研究者で変人。


 そんなヴェルデをあばら家に押し込める訳にはいかないので、彼の家に関しては結構な豪邸が用意されている。


 変な門に臆することなく、ティナは屋敷の敷地内に踏み込んでいく。

変な門は魔力を読み取り悪人か善人かを見抜く。さらにうんたらかんたらとティナが言っていた。


 俺以外の面子はこういった屋敷には縁がない生活を送っていたので、すでに腰が引けている。


 俺だってこんな屋敷に住んでいた訳ではないが、仕事の都合上、忍び込む事が多かったので慣れているのだ。



変人ヴェルデ!、連れてきたわよ! ほらさっさと開けなさい!」


 腰の引けた俺達と違って、ティナは遠慮なく扉を連打した。


 その傍若無人な態度に、ルカは顔面蒼白な有様になっている。


 シェリーちゃんも、今までの『優しいお姉さん』風だったティナが粗雑な態度を取り出したので、目を丸くしている。


「まったく騒々しぃメスじゃ。研究の邪魔をしないでくれよ……たまにはゆっくりさせてくれぃ」



 騒々しいティナをまったく気にした風もなく、マイペースに扉を開ける老人。


 ボサボサの緑髪に尖った耳と丸渕眼鏡は昔からまったく変わっていない。


 そういえば、ティナも短めに刈り込んだ髪艶がまったく衰えを見せていないな。


 エルフ族ほどではないが、獣人族もそれなりに寿命が長い。確か彼女もすでに三十歳をとうに超えているが、種族全体で見れば、まだ若輩な歳のはずだ。


「やっと出てきた。まったく研究してないで外に出なさいよ」


「それくらい構わんだろうに。研究に没頭できんから理事長の席を譲ろうではないか」


「いやよ、メンドくさい」


 ヴェルデの主張をバッサリと一刀両断しておいて、ティナは唐突に俺を抱え上げた。


「それより見てよ。アニューの娘、シノブちゃんよ! かっわいーでしょう?」


 抱き上げた後、さらに抱きしめ、後ろから頬摺りしてくる。

 薄い頬肉が上下に擦られ、変形し、結構痛い。

 俺が迷惑そうな表情をしているのに気付いて、ルカが手をあたふたと動かしながら、だが何もできずにいた。


 相手は彼女の雇い主ライルの同僚なのだ。上下関係を厳しく仕込まれた彼女では、口出しできる存在ではない。



「ほほぅ、色違いの瞳とは珍しいの。そういう目をした者は魔術的な素養を開花させやすいと聞くぞ。それに……」


「干渉系のギフト持ちだって。なによそれにって?」


「いや何でもない。聞いておったが、瞳の事は聞いておらなんだよ。かいぼうが楽しみじゃ! ほら、中に入れ。茶くらいは振る舞ってやるでな」


 俺達を招き入れ屋敷を案内するヴェルデ。

 後ろをついて歩く訳だが、その屋敷の中を見て更に絶句した。

 汚いのだ。廊下のそこかしこに埃が積もり、紙くずを始めとしたゴミと研究道具が山積している。なにかどす黒いオーラを放っていた。


「こ、これは……」


「相変わらずきったないわね。使用人くらい雇いなさいよ」


「一応機密の書類とか危険な薬品あるでな。迂闊に人を入れる訳にはいかんのじゃ」


「だったら掃除くらいしなさい」


「面倒じゃ。お主がやってくれんか?」


「なんで私が……」


 絶句するルカを他所に二人はまた口喧嘩を展開する。


 その光景を見て、俺は少し懐かしい感傷に駆られた。魔術師と軍師という立場で彼等は昔からこうして口論して場を賑やかしていたものだ。


 俺達を迎えた態度でティナも落ち着いたかと思っていたのだが、その性格は簡単には変わらないらしい。


 居間らしい一室に俺達を案内し、ヴェルデは再び部屋から出ようとした。


「ほれ、ここで待ってなさい。ワシは茶を淹れてくる、寛いで――」


「そうじゃないでしょ! 私がわざわざここに来た理由を思い出しなさい、ボケ老人!」


「ん? そうだったかな。魔力値の測定か。では測定器も持ってくるとするか」


 まるで堪えた風もなく、ヴェルデは部屋から出ていった。


 その間に俺達はソファの埃を払って、ようやく腰を落ち着ける事にした。


「驚いたでしょ? 最近特にボケが進行しちゃって」


「いや、あれは単に飄々としてるだけなのでは……?」


「人から見るとそう見えるみたいなんだけどねぇ。おかげで私も気が短くなっちゃって」


「それは前から」


 思わずボソリと呟いて、俺は口を押えた。


 過去のティナについて俺は何も知らないはずなのだ。だがティナは俺の呟き声を聞き逃す事は無かった。



「んー? なんで昔の私を知って……ああ、そっか。アニューに入れ知恵されてきたのね! あやつめ、女の友情を裏切る気か」


「え、へへ……えっと、そう?」


 そのアニューはももう四十が近い。だがその外見は、今もなお二十代で通用するほど若々しい。


 馬鹿ライルは相応に老け顔に変異していると言うのに……あいつもまるで東洋の妖怪みたいだ。いや脳筋なだけだ。


 エルフのルカや獣人のティナに引けを取らない人間というのも、恐ろしい。


「待たせたの。いい茶葉があったので淹れてきた」


 ヴェルデがトレイに一式乗せて戻ってきた。

 それをソファの前のテーブルにいそいそと並べる姿は、英雄の威厳など一切感じさせない。研究者としては一流であり、大魔法を放てるほどの実力者。

 そそくさと茶道具を並べるヴェルデに、またしても食って掛かったのである。


「ちょっと、お茶じゃなくてまずは魔力測定でしょ! 測定盤はどうしたのよ?」


「ワシだってまだボケておらん。忘れておらんわ。ホレ、ここに」


 そう言ってヴェルデはトレイをひっくり返して見せた。


 いや、トレイと見えたそれは、魔力値測定盤そのものだったのだ。


「あんたね……仮にも高額なマジックアイテムを、茶道具代わりに使うんじゃないわよ!」


 あまりの扱いにティナがすかさずツッコミを入れている。


 ヴェルデ……悪いが俺も、こればっかりはティナに同意せざるを得ないぞ。

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